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Culture
2020.06.10

完璧な妻をもった男はなぜ浮気する?不倫の深層心理を源氏物語の男たちから読み解く!

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絶世の美女で才能もある、誰もが羨む女性を妻にした。そんな男が浮気をしないかというと、決してそうではないことが『源氏物語』から読み取れる。
いくら一夫多妻制の時代だったからといって、美しく才気溢れる女性を妻にした男たちは、なぜ他の女性を求めて彷徨ってしまうのか。そこにはどのような心理があるのか。『源氏物語』に登場する男たちから紐解いていきたい。

美女を妻にできる男=男女ともにモテる男

まずは『源氏物語』の主人公、光源氏からみていこう。彼は絶世のイケメンで天皇の息子という、類まれな恵まれた男である。光源氏は、葵の上(あおいのうえ)という年上の女性と結婚した。葵の上は超有力貴族の娘で、美貌の麗人。誰もが羨むお似合いの2人だった。

そこでまず考えたいのが「美女を妻にできる=モテる」ということ。モテる対象は、異性に限ったことではない。完璧な女性を妻にしてもあまりやっかみが起こらない。つまり同性からもモテる男ということだ。

光源氏は、男性からも愛される男だった。最初の正妻・葵の上とは政略結婚だったが、そもそも引く手数多(あまた)な美女を口説き落とせ、さらにその親まで納得させられる男は、相当手慣れた男なのだ。浮気をすることもたやすいだろう。

完璧な妻をもちながら、満たされない男たち

『源氏物語』には、世間からは完璧な妻をもったともてはやされたものの、満たされることなく別の女性を追い求める男たちがいる。

初恋が忘れられない「光源氏」の場合

光源氏は世間の羨む完璧な女性を正妻にした。しかし時は一夫多妻制の平安時代。特に有力貴族は、結婚後も多くの女性と関係をもつことが多かった。

光源氏は、六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)という、これまた美貌の誉れ高く教養溢れる女性と恋仲になった。「完璧な妻がいながら、さらにあんなに素晴らしい女性を恋人にできるなんて」と、誰もが羨望のまなざしで光源氏を見つめる。

しかし、光源氏の心は六条御息所から離れていった。彼女はあまりに完璧で、若き日の光源氏は一緒にいることが窮屈になってしまったのだ。そして今度は、身分の低い夕顔という女性と恋仲になる。「この私を差し置いて、なぜあんな女と?」六条御息所は激しい嫉妬に駆られ、生霊となってしまうのだった。

そもそも光源氏の初恋は、藤壺と呼ばれる、実の父親の妻だった。光源氏は生涯藤壺の姿を追い求め、結局満たされることなく死んでいった。どんなに世間が「完璧な妻をもった」ともてはやしたところで、光源氏の求める女性は別にいたのである。それは世間の知るところではない。

コンプレックスの塊「薫」の場合

薫(かおる)は、表向きは光源氏の息子だが、実は光源氏の幼妻・女三宮と、柏木という男の不倫によって生まれた男である。そんな薫は、自分の出生に疑問を持ちながら育つ。光源氏の実子ではないと知った時は、「光源氏の息子」ともてはやされる境遇から転落することを恐れた。

彼の女性関係をみていこう。薫は臣下の身ながら、若くして今上帝の娘・女二宮を妻として頂いた。これは貴族として大変名誉なことで、誰もが薫のことを羨んだ。あの光源氏ですら、内親王を妻に頂いたのは晩年に差し掛かる頃だったのだから。しかし薫は、妻の異母姉・女一宮を想い続けた。天皇の娘の場合、一般的に長女の方がランクが高く、さらに女一宮の母は光源氏の一人娘・明石の中宮だったのだ。つまり、超最高ランクで雲の上の存在の女性である。

薫には「実は光源氏の息子じゃない」というコンプレックスが常にまとわりついていた。実父・柏木も上流貴族ではあったが、光源氏よりはランクが劣る。そんな身分に対するコンプレックスが、彼に「もっと位の高い女性を妻にしたい」という思いに走らせたのではないだろうか。

ちなみに薫は、浮舟という身分の低い女性にも執着している。そこに至るまでの過程は色々あるのだが、ちょっと身分が低い女性の方が、気楽に過ごせるという考えが平安貴族にはあったはずだ。

浮気をしなかった男はどんな男か?

源氏物語の中にも、あまり浮気をしなかった男がいる。彼はなぜ浮気をしなかったのか?

まめ人「夕霧」

光源氏と葵の上の間に生まれた夕霧は、雲居の雁(くもいのかり)という女性を、長年一人の妻として大切にしてきた。雲居の雁も上流貴族の娘。東宮妃にと望まれていたものの、夕霧との恋愛関係が明るみになったことで雲居の雁の父が激怒。約6年間も引き裂かれていた後、晴れて2人は結婚したのだ。

雲居の雁と夕霧は、お互い初恋同士だった。6年もの歳月をかけて初恋が成就したという満足感、そして光源氏の息子として安定した地位にいる安心感。これが夕霧を浮気に走らせなかった要因ではないだろうか。

後に夕霧は落ち葉宮という女性に恋に落ち、2人目の妻として迎える。しかし、そこに至るまでの道のりは険しく、そして不器用だった。プレイボーイ光源氏の息子でありながら、ほとんど浮気をしなかったのは褒められることかもしれないが、ただ単に「そこまでモテない」だけだったかもしれない。

満たされない思いは、誰にもわからない

「あんな完璧な妻や恋人がいるのに、浮気なんて許せん!」 そう思う方が大半だろう。しかし、光源氏や薫のように、世間一般には何もかも恵まれたように見える男でも、心の底には満たされない思いを抱えている場合もある。

結局、この2人の初恋やコンプレックスは満たされることのないまま『源氏物語』は幕を閉じた。『源氏物語』を書いた紫式部の日記には、このように書かれている。「何気なく泳いでいるように見える水鳥も、その身になってみればとても苦しいものなのだろう」と。水面下では足をもがいている水鳥のように、誰もその本心まではわからない。

書いた人

大学で源氏物語を専攻していた。が、この話をしても「へーそうなんだ」以上の会話が生まれたことはないので、わざわざ誰かに話すことはない。学生時代は茶道や華道、歌舞伎などの日本文化を楽しんでいたものの、子育てに追われる今残ったのは小さな茶箱のみ。旅行によく出かけ、好きな場所は海辺のリゾート地。