不倫がバレると、職や社会的地位を失ったり、有名人なら謝罪会見を開いたりする現代。「ちょっと厳しすぎるんじゃ……」という意見も聞かれますが、江戸時代の不倫は大罪。なんと死罪でした。
そんな不倫が大罪だった江戸時代でも、許されぬ恋に溺れる男女は後を絶ちません。中でも有名なのは、「おさん」と「茂兵衛」の不倫。2人の恋は世の語り草になり、物語や演劇の題材となりました。
今回はこの不倫劇を題材とした、井原西鶴の物語『好色五人女』より、巻三「中段に見る暦屋物語」をご紹介します。
『好色五人女』 おさんと茂兵衛の不倫の顛末
作者・井原西鶴は、「好色物」と呼ばれるエロティックな作品を手掛けていました。『好色五人女』は、そんな好色物シリーズのひとつです。
主人公が女性の水浴びを覗いている
それではさっそく、おさんと茂兵衛(作中では茂右衛門)の実話をもとにしたストーリーをみていきましょう。
夫の単身赴任中に……
京都に、おさんという美人妻がいました。その夫が、京都から江戸に単身赴任することに。男主人がいないと心細いだろうと考えたおさんの両親が、茂右衛門というダサくて真面目、だけど商売熱心でおさんの手助けとなりそうな男を遣わしました。
女遊びもしたことがない男なら安心、と思ったのでしょうが、これが間違いの始まり。2人は奇妙なことから恋仲になってしまうのです。
そりゃないよ!寝ている間にうっかり密通
おさんの侍女だった、りんという女が茂右衛門に恋をしました。しかし、りんは読み書きができないため、代わりにおさんが恋文を代筆・代読してあげます。
りんの恋文に「妊娠したら産婆の心配するのが面倒」などと失礼な返事をしてきた茂右衛門。怒ったおさんたちは、茂右衛門をからかってやろうということになりました。
りんのふりをして、寝所で茂右衛門を待つことになったおさん。茂右衛門が入ってきたところで、下男や侍女たちがその場に踏み込んでこらしめる……という算段です。しかしおさんも下男・侍女たちも、疲れが出て寝入ってしまいました。
何も知らずにやってきた茂右衛門。暗闇の中で、おさんをりんだと思い密通してしまいます。茂右衛門が帰った後に目が覚めたおさんは、乱れた寝所を見て、自分が密通したことに気づきます。(ぐっすり寝すぎ……)
もはやこれまで。心を決めて2人は恋人に
江戸時代、不倫は死罪です。おさんは茂右衛門と図らずも密通してしまったことに怯えますが、「もはやこれまで」と覚悟を決め、茂右衛門と不倫関係を続けます。
特に茂右衛門は周りが止めるのもきかず、おさんとの不倫に没頭。これまでが真面目だったばっかりに、許されぬ恋に溺れてしまったのでしょうか。
茂兵衛が「おさん命」と入れ墨をしている。それを見て喜んでいるかのようなおさん
このままでは世間に露呈して、死罪になるのも時間の問題。2人は愛の逃避行を決意します。
心中を偽装工作 愛の逃避行へ
不倫旅行先で、おさんは茂右衛門に心中をもちかけます。しかし茂右衛門は、「遺書を残して死んだと思わせ、どこか田舎で暮らしましょう」と提案。おさんは「私も最初からそのつもりだったの!」と言い、持ち出した大金を見せます。
さっそく家に帰って遺書を書き、雇ったダイバーたちをドボンと湖に飛び込ませ、心中を偽装工作。茂右衛門はおさんを担いで、愛の逃避行へと出立しました。
適当な嘘をついたせいで、暴れん坊と結婚!?
2人は、田舎にある茂右衛門の親戚の家に転がり込みます。そこで「その女は誰だ」と言われ、茂右衛門が「妹」と適当な嘘をつきます。その家では「ちょうど嫁を探していた」とのことで、おさんは暴れん坊の息子と結婚することになってしまいました。
その日のうちに祝言を挙げたおさんと暴れん坊息子。しかし、夜にこっそり抜け出し事なきを得ました。
見つかった2人。そして死罪に
住み慣れた京都が恋しくなった茂右衛門は、こっそり遊びに行ってしまいます。そこで演劇を観に行くと、なんと、前方におさんの旦那が座っているではありませんか!
恐ろしくなった茂右衛門は、あわてておさんのいる村に戻ります。
後日、おさんの旦那は栗商人から「おさんと茂右衛門によく似た人を見た」という情報を得ます。探し出された2人は捉えられ、仲をとりもった侍女も含め、市中引き回しの上死罪となったのです。
女性だけに厳しい不倫の歴史。現代は平等に訪れる「倍返し」
江戸時代、不倫が死に値する大罪だったとはいえ、男性は吉原など遊郭で遊ぶことを認められていました。また、戦前には「姦通罪」といって、妻の不倫だけが裁かれる法律がありました。どう考えても、妻サイドに一方的に不利だった不倫事情。現代では不倫が法的に裁かれることはありませんが、不貞を働けば、男女関係なく平等に慰謝料の支払い等の制裁が待ち受けています。
恋に溺れ周囲を傷つけた結果、倍返しでは済まない制裁を受ける不倫。法的に裁こうが裁くまいが、この世から消えてなくなることはないのでしょう、きっと。
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