Culture
2020.09.24

日本版・切り裂きジャック?都市伝説、謎の「赤マント」と元ネタとなった殺人事件とは

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「切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)」という実在の殺人鬼はご存知だろうか。
1888年、イギリスで女性ばかりを狙った劇場型犯罪およびその犯人のことである。小説などの創作にも多く登場しているせいかフィクションのように感じてしまうが、もとは実話だ。
日本にも一時期世間を賑わせた「赤マント」という類似の話がある。ただ、切り裂きジャックと違うのは赤マントが都市伝説だという点。どことなくモッサリした名前も噂の枠を出ないことを物語っている。
とはいえ人はこうした噂話が大好き。噂だからこそ出所を探したり人に話したりしてしまうのだ。

ぼんやりとした、あまりにもぼんやりとした「赤マント」の概要

夕暮れ時、赤いマントを羽織って現れ、子供を誘拐して殺害する。

広く伝わっている噂のため異説も星の数ほどあるが、共通して語られているのはこの程度である。
マントを羽織って現れるということは神隠しのような「現象」ではなく、あくまで「人の仕業」ということだろう。ただし男性か女性はわからない。もっと言えば大人か子どもかもわからない。誘拐犯と聞けば大人の男性をイメージしてしまうけれど、案外砂かけ婆のような年配の女性という線もあるのではないか? でも腰の曲がったおばあちゃんが赤いマントなんて羽織るだろうか。それだけで町中の噂になってしまう気がする。

夕暮れ時という時間帯も気になる。日中に赤いマントなんかで登場したら目立って仕方ない。子どもを誘拐するという特徴から紐解いても、暗くなる前に帰ってくるよう親が子どもに言い聞かせた話が雪だるま式にふくらんでいったと考えると腑に落ちる。

半世紀以上も語り継がれる赤マントの普遍性

民俗学博士・常光徹他編書の『魔女の伝言板』によれば、1937年頃には赤マントが出現し警察が出動する騒ぎがあったとされている。赤マントが現れたという噂はこの年の前後に頻繁に流れ「人々を襲う」「学校に現れる」などの尾ひれがつきながら伝播していったものと考えられている。

こうした噂は終息と再燃を繰り返す特徴があり、1970年代には赤い毛布にくるまって寝ている人物が子どもをさらうという噂が流れた。この頃になると「マント」ですらなくなっているが、1930年代の情報伝達手段が乏しかった時代から連綿と語り継がれているということは何らかの普遍性があるのだろうか。

「卵が先か鶏が先か」赤マントに類似した実際の事件

赤マントには噂の元となった事件があるという見かたもある。1906年に福井県で起きた「青ゲットの男事件/まさかり事件」がそれだ。

青い毛布をかぶった男が雪の吹き荒ぶなか3人を殺害(1人は行方不明のままだが殺害されたものとされている)。1921年に未解決のまま時効となっている。その後犯人を名乗る男が現れたが、時効を迎えた後だったため逮捕することはできなかった。まさかり事件という別名は、事件現場の橋の欄干が斧のようなもので傷つけられていたことからそう呼ばれている。
事件以外では、紙芝居の話「赤マント」や江戸川乱歩の『怪人二十面相』が元となったという説がある。しかしいずれも当たらずといえども遠からず。こうなってくると事実があって時間の流れの中で噂になっていったのか、噂を事実へと昇華させるために結びつきを探しているのかわからない。

赤マントはいわばギネスブック。噂にはもってこいのネタだった?

世界一を集めた本「ギネスブック」の発祥が、ある2種類の鳥のどちらが早く飛べるかというという話題から始まったことはよく知られている。また、それをビールの会社が作っているというのも理にかなっている。酒を飲みながら「何が世界一か」その場にいる仲間と知識や経験をつなぎ合わせて語るのは楽しいだろう。

赤マントもそれに近いものがある気がする。仲間内で集まって話すにはちょうどいい話題なのだ。その場の全員が知っている話なら長続きしないし、完全な事実だとこれは生々しい。存在するかしないかわからない人物の話だから誰も傷つかないし、おまけに恨みも買わない。
本当か嘘か、そんなことはどうでもいい。「ねえねえ知ってる?」からどこまで盛り上がり続けられるかが重要なのだ。誰もが気軽に参加できる優しく、そして怪しいムード。噂や都市伝説を語る場に必要なのはそれだけである。

書いた人

生粋のナニワっ子です。大阪での暮らしが長すぎて、地方に移住したい欲と地元の魅力に後ろ髪惹かれる気持ちの狭間で葛藤中。小説が好き、銭湯が好き、サブカルやオカルトが好き、お酒が好き。しっかりしてそうと言われるけれど、肝心なところが抜けているので怒られる時はいつも想像以上に怒られています。