Culture
2020.10.22

コーンフレーク博士が作った浴槽の黒船!銭湯ビギナーの難関「電気風呂」初めて体験してみた

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銭湯では「打たせ湯」「薬湯」「サウナ」など様々な湯が楽しめる。次はどこに浸かろうかと考えながら体を温める時間は風呂好きにとってまさに至福のとき。しかし風呂好き銭湯好きが避ける浴槽が存在する。電気風呂だ。

電気風呂……。

ネーミングが怖すぎないか? 電気○○といえば電気ウナギ、電気ナマズ、電気アンマ、電気イスとどうも「やられている」感じがしてしまう。ただ電気風呂は常連らしき年配客が満足そうに目を閉じながら浸かっていることがあったりして、試してみようかな……と気になりつつ、でもやっぱり怖くて避けている人も多いのではないだろうか。
かくいう筆者もその一人だった。しかしふと「こんなことで銭湯好きを自称していいのだろうか」という思いが頭をもたげ、今回ついに初挑戦することにしたのである。長年の銭湯通いで唯一と言える未知の領域「電気風呂」。その歴史とともに銭湯ビギナーの気持ちで体験ルポを綴っていきたいと思う。

電気風呂は日本発祥じゃなかった!

実は電気風呂は日本で生まれたものではない。アメリカ発祥とヨーロッパ発祥の説があるが、どちらにしても海外からやってきたいわば浴槽の黒船なのである。
より具体的なエピソードが伝わっているアメリカ発祥の説によれば、1876年ジョン・ハーヴェイ・ケロッグという医学博士が健康器具として考案したとされている。余談だがこのケロッグ博士、名前を聞いてピンと来た方もいるのではないだろうか。そう、コーンフレークを作ったのもこの人。今回は電気風呂のお話なので割愛するが、かなり変わった人物なのでケロッグ博士が気になる方はぜひ調べてみてほしい。結果ケロッグ博士が変人でもこの人がいなければ電気風呂はなかったし、漫才コンビのミルクボーイがコーンフレークのネタでM-1王者になることもなかったかもしれないのだ。

電気風呂が日本に入ってきたのは明治から大正にかけてといわれている。その後、京都の船岡温泉が昭和8(1933)年、日本で初めて政府の認可を得て電気風呂を設置した。昭和30年代に入り自宅に風呂を持つ家庭が増えると、客足が遠のいた銭湯では露天風呂やジェットバスが普及しはじめる。ここで電気風呂は銭湯の特色を打ち出すための切り札、いわばジョーカーとして用いられた。
京都の銭湯が日本初の認可を取得する前から神戸にはすでに電気風呂があったとも言われており、もともと関西には戦前から電気風呂の文化が根付いていたが、銭湯がエンターテイメント性を追求していた時期に大阪や名古屋に製造メーカーがあったことも関西を中心に電気風呂が普及していった理由のひとつと言えよう。

いざ電気風呂体験へ!

もしかしたら、他にも海外から持ち込まれたものがあるのかも。完全な日本文化だと思っていた銭湯に外国の匂いを感じながら銭湯に向かってみる。
今回、電気風呂を体験させてもらったのは大阪・中崎町にある「葉村温泉」さん。開店前、特別に写真も撮らせていただいた。

まずは脱衣所側から一枚。
主浴槽が手前にある関西風の銭湯だ。奥には吹き抜けの露天風呂とサウナがあり、長い時間お湯に浸かっていると頭がのぼせてしまう筆者などは露天風呂はとても助かる。また葉村温泉にはバスタオル付きの「サウナセット」というプランがあり、サウナだけ楽しみたい人も気軽に立ち寄ることができる。もちろん手拭いやシャンプー、カミソリ等のアメニティも番台で購入できるので「ひとっ風呂浴びたいけれど用意がない!」なんてときも重宝する。

電気風呂は、えーと……、あ、ありましたよ。左手奥に。何やら書かれている。ふむふむ。
痛みに効果満点。腰痛・神経痛・打身・捻挫・肩こりなどに効果があるらしいが、赤文字の内容がとても気にかかる。心臓病、高血圧、動脈硬化、神経過敏症、老人、幼児、その他医師に禁じられている人は入浴禁止と、わりと限られた人しか入ることができないようだ。
調べてみると『大阪市公衆浴場指導要綱』なるものがあり、そこにはきっちり「電気風呂」と明示し入浴上の注意書きをするよう記されている。いつも物々しいなぁ、と感じていた電気風呂の注意書にはこうした理由があったのだ。

そろりそろり、能のようなすり足で浴槽の中心まで行ってみる

葉村温泉は主浴槽と電気風呂の浴槽が区切られていないため、お湯の中を歩いて電気風呂に近づくことができる。これは筆者のような初心者にはとても有難い。

ついに電気風呂の前まできた。おそるおそる覗いてみると中はこんな感じ。何の変哲もない浴槽のようだが壁面を注視すると……

おわかりいただけるだろうか? 他の浴槽とは明らかに違う部分がある。ここ(電極)から電気が出ているのだ。電極は左右の壁面にあるため、極力電気の影響を受けないよう浴槽の真ん中に歩を進めていく。まるで能のように、そろりそろり。

ん? んん?

何も感じない。電気風呂と言ってもこんなものか。それともスイッチが入っていないのかななどと様々なケースを想像しながら浴槽の中心に到達。やはり何も感じない。しかし、ゆっくり腰を下ろしていくと……

お? あ、きた! きたきたきたきた!

臍まで浸かったところで変化が現れた。整骨院やマッサージ店などで電気治療を受けたことがあろうだろうか? あれの「弱」程度の振動がくる。電気治療の経験がない人は、長時間正座したあとの足の痺れを想像するといいと思う。あれが指先だけでなく湯に触れているところにまんべんなくくるのだ。

電気風呂は、初めてコーラを飲んだときのような感覚?

もちろん痛くて耐えられないほどではない。ただ痛感には個人差があるし銭湯ごとに電気の強弱にも差があると思うので、慣れないうちは今回筆者が用いた入浴法をおすすめしたい。臍をクリアしたら胸。あげていた腕をおろして湯に浸けてみる。すると指先や肘、肩など皮膚の薄い部分の方により電気を感じやすいことがわかる。首まで浸かっても脂肪の厚い下半身とくにお尻のあたりは振動すら感じない。

時間にしておよそ2分ほどだろうか。体感時間ゆえに正確ではないけれど、電気風呂の初挑戦はわずかな時間で終了した。
主浴槽でゆったり足を伸ばしながら「もしかして最初に電気風呂に入る人なんていないのかも」と思ったが、髪を洗い体がほぐれてからも電気風呂に戻ることはなかった。
まだ少しビビっているのかもしれない。低周波治療器は「強」が好みだけど、電気風呂は初挑戦のせいかあまりリラックスできなかった。

例えるなら「初めてのコーラ」とでもいえばいいだろうか。
浴室を出て、脱衣所の隅の冷蔵庫の中にコカ・コーラを見つけてそんなことを思ってみる。日本にコーラが持ち込まれた時代、はじめて飲んだ人はその奇妙な味に相当な衝撃を受けたらしい。海の向こうでえらく流行っているらしいけど何この味、こんなのが美味しいの? と思いながら飲んでいたという話を聞いたことがあった。 
電気風呂もそんな感じがする。時が流れ日本の食文化の中にコーラがすっかり馴染んでいることを思うと、電気風呂も少しずつ慣れていけばいつか病みつきになる日がくるのではないか。ただ、今回の体験ルポを読んで電気風呂に挑戦する方は、体調などを考慮した上でくれぐれも無理はしないでいただきたい。電気風呂に入れなくても銭湯通への道が断たれるわけではない。独自の視点で楽しむことこそ銭湯の醍醐味なのだから。
そんなわけで、ややほろ苦い結果で終わった電気風呂デビューだが冷たいドリンクを流し込めば身も心もサッパリ。ここはやはりコーラだろう。火照った食道に炭酸の刺激を感じながら、銭湯の締めに飲むドリンクについてもいつかご紹介できればと思う。

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生粋のナニワっ子です。大阪での暮らしが長すぎて、地方に移住したい欲と地元の魅力に後ろ髪惹かれる気持ちの狭間で葛藤中。小説が好き、銭湯が好き、サブカルやオカルトが好き、お酒が好き。しっかりしてそうと言われるけれど、肝心なところが抜けているので怒られる時はいつも想像以上に怒られています。