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2020.11.21

雰囲気づくりから「前戯」は始まっている。光源氏に学ぶ、最高に盛り上がる性行為への道すじ

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「前戯(ぜんぎ)」とは、あなたの中でどのようなものですか? 辞書を引くと、このように書かれています。

ぜん‐ぎ【前戯】
性交の前に、性的な興奮を高めるために手や口などで行う愛撫(あいぶ)。
デジタル大辞泉

確かに一般的な認識は、この辞書の通りだと思います。ただ、これは大いに男性目線であると感じるのは私だけでしょうか? 前戯は、体に触れ合う前から始まっているのではないか。そのことを『源氏物語』第十帖・賢木より真面目に考えてみたいと思います。

確かにムードが大事な時もあるね。それを『源氏物語』で考えるってどういうこと?

破綻した二人が再び一夜を過ごすまで

『源氏物語』の主人公・光源氏の恋人の一人に、六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)という女性がいます。抜群の美貌と教養を誇り、身分も非常に高貴な方で、光源氏はその恋に没頭していきました。

しかし、あることがきっかけで離れてしまった二人の心。どのような「前戯」を経て、再び一つになったのでしょうか。

あんなに愛し合っていたのに。二人の心が離れる時

六条御息所とお付き合いしていた当時、光源氏には葵上(あおいのうえ)という正妻がいました。残念なことに、葵上は出産で命を落としてしまいます。この死に関して光源氏は「六条御息所が葵上を恨むあまり、生霊となって殺したのでは」との疑いをもつようになります。その自覚があった六条御息所も、光源氏のもとから離れる決心をします。

現代なら「え、生霊?w」となるところですが、時は平安時代。あれほど愛し合った二人の心は離れ、体を重ねることもない日々が続きました。今だってありますよね。あんなに毎日イチャイチャしていたのに、何かのキッカケで心が離れてしまうことって。

わかるわかる。

前戯は「雰囲気づくり」から始まっている

六条御息所は光源氏のもとを去り、斎宮(天皇に代わって伊勢神宮に仕える皇族女性)に選ばれた娘の付き添いとして、伊勢へ下ることになりました。今なら「京都と伊勢なんて近いじゃん」となりますが、電車や自動車のない時代には非常に遠い地です。そのような物理的な距離だけでなく、神に仕える娘に付き従うということは、男を拒絶することをも意味します。

六条御息所の気持ちを考えるとちょっと切ない……

いざ別れるとなると、未練が沸き上がってくるのが恋というもの。離れがたい気持ちが募った光源氏は、六条御息所に会いにいきます。

えっ、まさか!

伊勢への出立にあたって、六条御息所は嵯峨野の野宮(ののみや)という場所に仮住まいをしていました。喧騒から離れた野宮は、自然豊かでひっそりしており、しみじみとした風情が漂います。光源氏は「このような場所で、あの方は長い月日を過ごされているのか」と、たまらない気持ちになるのです。

六条御息所を訪ねる光源氏
『源氏物語絵色紙帖 賢木 詞八條宮知仁』出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)京都国立博物館蔵

にじみ出る想いを募らせながら六条御息所の住まいを訪れると、あたりは気品あふれる奥ゆかしい雰囲気に満たされています。六条御息所は非常にセンスのいい女性で、調度品や使用人からも、その風情が匂い立っているのです。しみじみと奥ゆかしい空間が、光源氏の輝くような美しさをより一層引き立て、六条御息所の心も揺れ動きます。

自分の家に想い人がきて、素敵な雰囲気だったら……それはもう、ね。

「今日はリッツカー●トンに泊まりたい」 そんな彼女の要望を「え、何言ってるの? 高いじゃん」と受け流してしまったことはありませんか。決して高いホテルに泊まりたいのではありません。雰囲気が盛り上がる場所に行きたいのです。「性的な興奮を高める」ことは、何も手や口の愛撫に限らないのではないでしょうか。

「愛の言葉」が離れた心を引き寄せる

夕月夜の光の中、二人は言葉を交わします。光源氏は長く訪れてなかったことを弁解するでもなく「あの頃と心は変わらない」と激しい恋情を訴えかけます。

はぐらかすような和歌を贈る六条御息所。それに対して、光源氏はなおも恋しい気持ちを込めた歌を返すのです。

六条御息所
神垣はしるしの杉のなきものを いかにまがへて折れるさかきぞ

光源氏
少女子があたりと思へば榊葉の 香をなつかしみとめてこそ折れ

六条御息所に榊の葉を差し出す光源氏。葉の色が変わらないことから、変わらぬ恋心をあらわす
『源氏五十四帖 十 榊』著者:月耕 国立国会図書館デジタルコレクションより
心変わりしていないことを伝えてるんだ。情熱的!

この二人の和歌には、おびただしいほどの引歌が用いられています。知性あふれる六条御息所と光源氏だからこそ贈りあえた愛の言葉。「やっぱり、この人しかいない」二人はそう思ったのではないでしょうか。

『源氏物語』ではここで場面がパッと切り替わり、いつの間にか明け方になっています。『源氏物語』に具体的な性描写はありませんが、二人が濃厚な一晩を共にしたことが、この急な場面展開からわかるのです。

そういうシーンは描かず、読者の想像に委ねているのもなんかいいね。

激しい逢瀬(私の妄想ですが、きっと激しかったはず)に、六条御息所は「これが最後」との決意が揺らぎ、思い乱れます。光源氏もまた、いつまでも恋しい人の手をとって、あふれる想いを伝えるのです。

今から「前戯」をはじめてみませんか

「最近恋人が全然会ってくれない」
「二人でいてもイマイチ盛り上がらない」

それはもしかしたら、前戯が足りないのかもしれません。平安貴族は、愛の言葉を歌にのせ、歌を書きつけた紙には良い香りを移します。「君のド~ル●ェア~ンド……」の歌があらわすように、香りは人の感性を大いに刺激するものです。

わかる。好きな香りの人ってなんかクラクラする!

いきなりハウツー本みたいな書き方でまとめますが、平安時代の恋愛を意識するなら、こういったことを試してみてはいかがでしょうか。

  • 雰囲気のいい場所でデートする
  • 香りの良いものを身に着けたり、いつもと違う香水を使ったりしてみる
  • 愛の言葉をささやく
  • 最後の「愛の言葉をささやく」ですが、平安貴族を見習って、恥を捨てて思い切りロマンチックにいきましょう! もし「前戯」を手や口を使ったものだけと考えているなら、その考えはいったん忘れ「平安流前戯」を実践してみてください。きっと盛り上がりが違うはずです。

    ちなみに、平安貴族は「終わった後」も丁寧です。一夜を過ごした後は、名残惜しい夜明け前に二人は別れ、後朝(きぬぎぬ)の手紙(ピロートークのようなもの)を贈りました。決して、一人でさっさと下着を履いて寝たりなどしないでくださいね。

    やばい、気をつけよ。

    ▼光源氏の子どもたちについて知るなら 和樂webおすすめ記事
    不倫の末に生まれた子も。光源氏の光と陰を背負う、6人の子どもたち【源氏物語】

    参考書籍:日本古典文学全集『源氏物語 二』小学館

    書いた人

    大学で源氏物語を専攻していた。が、この話をしても「へーそうなんだ」以上の会話が生まれたことはないので、わざわざ誰かに話すことはない。学生時代は茶道や華道、歌舞伎などの日本文化を楽しんでいたものの、子育てに追われる今残ったのは小さな茶箱のみ。旅行によく出かけ、好きな場所は海辺のリゾート地。

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    ‪‪銀行に10年務めたあと和樂webのスタッフに。音声コンテンツ『日本文化はロックだぜ!ベイベ』聞き手担当。頭も体も硬いので、今一番欲しいのは柔軟性。

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