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エレガンスは、けして色あせることのない唯一の美です。(オードリー・ヘプバーン)
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エレガンスは、けして色あせることのない唯一の美です。(オードリー・ヘプバーン)

読み物
Culture
2021.04.13

出会い、初めての夜、そして事件へ…。揺れ動く恋心を「しもうた」に託して

この記事を書いた人

愛しい人への秘めた想い、失恋の哀しみ、諦め……。平安時代の人々は、揺れ動く恋心を自然や風景に託した「和歌」を詠みました。

「好きです」

このように、はっきりわかりやすく想いを伝えるのが好まれる昨今。でも、人間の心って、そんなにわかりやすいものなのでしょうか。時には憎み、嫉妬し、涙を流し……。言葉にしにくい感情も、和歌になら託すことができるのです。

和樂webでは、「和歌」のもつ色っぽさをそのままに、現代の私たちでも親しみやすくアレンジした歌「しもうた」を詠む活動を行っています。和樂web読者の方からも「しもうた」を募集しているのですが、この度編集長・セバスチャン高木を「マーベラス!! 令和の和泉式部!!」とうならせた投稿者の方がおられました。

平安時代の恋多き和歌の名手、和泉式部さながらの情熱と、自然描写を取り入れた繊細な心の動き、流れるような美しい言葉の数々。りえさんのしもうたをご堪能ください。

編集長絶賛! りえさんのしもうた

もはやりえさんのことは令和の和泉式部と呼んでいいのではないでしょうか。この歌でりえさんの心と体が一体となった、燃えながら、かつ俯瞰して自分の恋愛を見るという歌詠みならではの生態が感じられます。


辛口&毒舌で有名な和樂web編集長を、ここまで絶賛させたりえさんの作品です。私はいつの間にか感情移入して、涙を流しながら読んでいました。

出会い編

読書会Mをさそひて参加せりドアを開ければ渦巻く熱気

あの人の目はMのこと追うてゐる気づかぬふりの作り笑ひす

珈琲がすつかり冷めてしまひけり語りつくした高橋たか子

饒舌に気づいて急に口ごもる私を君がまじまじと見る

貸しくれし本にカバーかけなほし四つ葉の栞挟みをくなり

学生街いつも誰かがゐるはずのバーにゐたのはマスターと君

私とは酔つても平気といふ君に酒を注いだり酒注がれたり

山手線ラッシュの中にむかひあふ君の吐息を感じるまでに

なにかもの言ひたげなるを遮つて「おなかすいたねマック行こうよ」

すれ違ふMは知らない男性と君は面伏せ信号渡る

さん付けがちゃん付けになりいつの間に呼び捨てとなる私との距離

初めての夜編

東京に初めての雪逢ひにゆく今日をその日と心さだめて

見つめあひ君の瞳の中の我微笑む余裕いまはあらざり

ぎこちなく抱かれてゐたり君の背に手をまはしてもいいのだらうか

全身で男の重さ感じをり君の背後の闇みつめつつ

嵐なる時は過ぎけりその後の重たき空気肌にまつはる

なぜ泣くと問はれて涙また零る君の背中もかすかに震ふ

腕枕そつと外しぬ今はもう規則正しき寝息の君の

結ばれし夜のしらじらとあけゆけり窓枠に積む雪一センチ

バイトだと出ていく君を見送れりベッドの中の私は全裸

もう少しだけこのままでいさせてよ君のにほひと君のぬくもり

やきもち編

サークルのドアを開ければ君がをりむかひのMは涙ぐみをり

相談に乗つていたてふ言葉聞きここは私が大人にならう

常のごとMとランチをともにせり常と変わらぬ話しながら

教壇の教授の言葉上の空Mの涙は何だつたのか

約束に遅れし君の言ひ訳はMの悩みを聞いていたから

私だつて私だつてと言ひたいよ言葉にできずまたも飲み込む

合鍵を渡しているのはお前だけちがうの私がほしいのは君

別れ際明日朝電話してくれとお前の声で目覚めたいてふ

嫉妬する私の心の醜さを知られたくない知られちゃいけない

顔じゃなく体でもなく文でもない私をありのまま愛してよ

玉繭の生絹の色の明るさに君と二人で閉ぢこもりたい

事件編

サークルの第二部室と呼ばれゐる君のアパート六畳一間

じやがいもは大振りなるが私流きりがついたらカレー食べてね

レポートの提出明日といふ君に帰りのキスをねだりもしたり

モーニングコールを七時と約束し帰途に見上げるまんまるの月

やうやくに電話つながる十時過ぎ暗い声して今から来いてふ

いつもならドアあけ肩を抱くやうに迎えてくれるはずだつたのに

手付かずの鍋のカレーは膜はりて長い髪の毛一本浮きをり

きつくきつく抱かれてをりて息つまるとぎれとぎれの君の告白

終電がなくなったころドア叩く酔つてふらつくMがゐたてふ

次の言葉待つしばらくの沈黙にやうやう「Mが好きだつたんだ」

最低と飛び出していく私に君は背を向け下向いてゐる

失恋編

この町に来るたび君の面影を探してしまふ私は迷子

なんでもないただの電柱続きをり三本過ぎれば君のアパート

思ひ出を破れた袋に詰め込んで捨てに行くなり裏のどぶ川

言ひ聞かすもう愛さない愛してない夕日の中に水は流れて

思ひ出が大きく重くなりすぎて流れてゆかずまだそこにある

何万回愛しているとつぶやきぬもう愛さぬと今は叫ぶよ

悩みつつ自分で決めし結論に別の私が異を唱へをり

暮れゆけば思ひつのれりもう今は戻つてゆけぬあの日あの町

それ以来時の流れの淡々と朝出勤し夕は家路に

幼子が花占ひに興じをり好き嫌い好きやつぱり好きと

※アイキャッチ画像 メトロポリタン美術館蔵

書いた人

「下ネタは人類の共通言語だ」をモットーに、下ネタを通して日本の歴史の面白さを伝える。中の人は女子校育ちの耳年増。男の目の届かない花園で培った下ネタスキルを活かしたい。