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2021.04.18

世界的インフルエンサー「葛飾北斎」はどんな男だったのか?2021年、日本が世界がHOKUSAIに熱狂する

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「この1000年で最も偉大な功績を残した100人に選ばれた唯一の日本人」「ゴッホが愛し、ティファニーに多大なる影響を与えた」「世界で一番有名な波の作者」「漫画の名付け親」「生涯で93回引っ越しをした」。これらすべての強烈なフレーズは一人の人物に冠されたものである。その男こそ、 260年前、江戸の町に生を受けた天才絵師、葛飾北斎だ。

アイキャッチ画像:(C)2020 HOKUSAI MOVIE

映画『HOKUSAI』公式サイトはこちら
葛飾北斎の情報を集めたポータルサイト「HOKUSAI PORTAL」はこちら

庶民が文化を担う江戸後期

1760年、現在の墨田区に生まれた北斎は、19の時に絵師としてスタートを切り、日本が鎖国を解く数年前に90歳で世を去るまで、『冨嶽三十六景』『北斎漫画』など、世界を魅了する名作を描き続けた。画業70年で約3万点、単純計算で一日一作を越える恐ろしい数字、そして情熱だ。

『冨嶽三十六景 凱風快晴』メトロポリタン美術館蔵

北斎が駆け抜けた江戸後期は、歌舞伎や浮世絵に代表されるように文化の中心を庶民が担うという歴史上類を見ない形での発展を遂げた時代だった。この時代の圧倒的な熱量は、北斎自身が持つパワーとの相乗効果で、北斎の作品を他の追随を許さない存在感にまで高めたのではないか。

世界中の芸術家がHOKUSAIに熱狂

江戸の大衆に愛された絵師の名前と作品は、日本の開国とともにヨーロッパで徐々に知れ渡り、モネやドガといった印象派の巨匠たちの目に届いた。『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏』の衝撃的な波、『北斎漫画』のみずみずしい人物や自然の描写は、彼らにとって未知との遭遇であったに違いない。まもなく彼らは北斎に熱狂し、模写し、次々と作品の中にその工ッセンスを取り入れ、その影響はゴッホ、ゴーギャン、セザンヌにまで及んだ。印象派が世界のアートに起した革命を考える時、北斎が果たした役割はわれわれの想像より遙かに大きい。そう、日本の絵師北斎はHOKUSAIになったのだ。

『北斎漫画』葛飾北斎 国立国会図書館デジタルコレクション
目には見えない風を、舞い上がる紙やたなびく服などを通じて描いている

『The Rehearsal of the Ballet Onstage』 エドガー・ドガ 1874年頃 メトロポリタン美術館蔵 H.O.Havemeyer Collection, Gift of Horace Havemeyer,1929年 バレエのリハーサル風景を描いたもの。場の雰囲気がよく伝わる

世界的インフルエンサーとしてのHOKUSAIの存在は、絵画の世界にとどまらない。エミール・ガレやティファニー、カミーユ・クローデルらによる工芸や彫刻、ドビュッシーの音楽、あるいはポスターのデザインや建築物など、HOKUSAIはジャンルを横断し様々な分野にまで浸食した。さらにその波は時代を超え、2007年、ディオールが発表したドレスのモチーフとして姿を現した。今やHOKUSAIはファションやデザインのアイコンでもあるのだ。

海外での知名度や影響力に比して、近年まで日本では北斎は過小評価されてきたように見える。その潮目が大きく変わったのは、1998年にアメリカのフォトジャーナル誌『LIFE』が行った「過去1000年で偉大な功績を残した人物は?」という調査で日本から唯一北斎が選ばれてからだ。その後日本でも、毎年のように展覧会が開催され、パスポートや新紙幣のデザインに採用されるなど大きな注目を集めているが、海外におけるHOKUSAIの存在感には遠く及ばない。

HOKUSAIという唯一無二のジャンルを確立した“The Great Wave”

北斎が世界に与えたインパクトを考える時、“The Great Wave”として『モナリザ』に勝るとも劣らない知名度を誇る『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏』が真っ先に挙げられるだろう。飛沫を上げてまさに画面から飛び出さんばかりの迫力で描かれた巨大な波。この波は、世界の波のスタンダードとなり、ありとあらゆるアート、デザインの中に入り込んだ。これこそがなぜ歌麿ではなく、広重ではなく、写楽ではなく、北斎だったのか?という間いの答えとなる。北斎だけが“The Great Wave”によって浮世絵という枠組みを離れ、HOKUSAIという唯一無二のジャンルを確立したのだ。

『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏』メトロポリタン美術館蔵

北斎が『冨嶽三十六景』を世に送りだしたのは驚くべきことに70歳を超えてからのことだ。北斎の創作意欲はその後も衰えることはなく、死の間際まで筆を取り続け進化し続けた。生涯で93回も引っ越しをしたのも、部屋の掃除をするくらいであればその時間で絵を描きたかったからだという。そして90歳の時、最期に残した「あと5年あれば真の絵師になれたのに」という言葉こそが、北斎がHOKUSAIに成り得た最大の理由なのかもしれない。

森羅万象を描いた『北斎漫画』

『神奈川沖浪裏』とともに世界が驚愕したのが、200人を超えるとも言われる弟子に向けて描いた絵手本『北斎漫画』だろう。そこには北斎の脳の中にあった森羅万象すべてが描かれている。目に見えない風の姿までをもとらえた描写は北斎ひとりだけが到達した極地である。ちなみに現在日本を代表する文化のひとつとなった「漫画」という言葉も、使われた意味は違うが北斎が名付けたものとされている。

『北斎漫画』葛飾北斎 国立国会図書館デジタルコレクション
人物だけでなく、動植物や街並み、自然などあらゆるものを活き活きと描いている

ポップの象徴「キングオブポップ」HOKUSAI

最後になるが、北斎をはじめとする浮世絵が当時江戸の町でどのように享受されていたかは特筆に値する。ヨーロッパでアートが一握りの上流階級のためだけの存在であったころ、浮世絵はそれを自覚することはなかったが、江戸の長屋に住む庶民までもが楽しむ世界初のポップアートであった。そう考ると浮世絵の王、北斎はポップの象徴でもある。HOKUSAIこそ、200年前、確かに存した「キングオブポップ」なのだ。

5月28日(金)劇場公開! 映画『HOKUSAI』

『HOKUSAI』5月28日(金)全国ロードショー(C)2020 HOKUSAI MOVIE

工芸、彫刻、音楽、建築、ファッション、デザインなどあらゆるジャンルで世界に影響を与え続ける葛飾北斎。しかし、若き日の北斎に関する資料はほとんど残されておらず、その人生は謎が多くあります。

映画『HOKUSAI』は、歴史的資料を徹底的に調べ、残された事実を繋ぎ合わせて生まれたオリジナル・ストーリー。北斎の若き日を柳楽優弥、老年期を田中泯がダブル主演で体現、超豪華キャストが集結しました。今までほとんど語られる事のなかった青年時代を含む、北斎の怒涛の人生を描き切ります。

画狂人生の挫折と栄光。幼き日から90歳で命燃え尽きるまで、絵を描き続けた彼を突き動かしていたものとは? 信念を貫き通したある絵師の人生が、170年の時を経て、いま初めて描かれます。

公開日: 2021年5月28日(金)
出 演: 柳楽優弥 田中泯 玉木宏 瀧本美織 津田寛治 青木崇高 辻本祐樹 浦上晟周 芋生悠 河原れん 城桧吏 永山瑛太 / 阿部寛
監 督 :橋本一 企画・脚本 : 河原れん
配 給 :S・D・P ©2020 HOKUSAI MOVIE

公式サイト: https://www.hokusai2020.com

書いた人

大学卒業後、大学院を目指すも受験に失敗。自暴自棄になって2年ほどバックパッカー生活を送る。テレビの制作会社を経て小学館に入社。ファッション誌に配属されてカリスマモデルの愛犬を担当。その後雑誌和樂に配属されて16年、最近web専任となり日々心が折れている。モットーは「馬鹿馬鹿しいことを真剣に」。プロレス好き。