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2021.09.11

海に沈めても放火しても爆破しても壊れなかった!?超頑丈トラック「トヨタ・ハイラックス」

この記事を書いた人

かつて欧米では「メイド・イン・ジャパンは頑丈」という評価があった。

80年代、日本製の工業製品は世界中を席巻していた。「いいものはみんな日本製」の時代である。これは決して誇張ではなく、あまりの高スペックのために日本以外の国の製造メーカーは競合すらできなかったのだ。

そんな時代を象徴する「トヨタ・ハイラックス」というピックアップトラックは、今も伝説として語り継がれている。より具体的に言えば「どの家庭にもある簡単な工具だけで修理できるクルマ」だ。

マーティが憧れたクルマ

1985年公開の映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』には、数多くの日本製品が登場する。

主人公のマーティ・マクフライは、スケートボードとペプシコーラを愛する高校生。彼にはちょっとした夢があり、それはトヨタのピックアップトラックを購入すること。実はこのトラックこそ(劇中では『Dream Truck』となっている)、ハイラックスである。

トヨタ自動車が運営するハイラックス公式サイトにも、こう書かれている。

トヨタの「Dream Truck」は、California Raisin Advisory Boardがスポンサーを務めたタイアッププロモーションでも使用されました。このプロモーションは、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の映画と「憧れのトラック」を活用して、全米の食品小売店に、レーズンの宣伝用ディスプレイを設置するように促したものです。

California Raisin Advisory Boardはその他にも店頭用ディスプレイを作成しており、それにもハイラックスが使われています。電動のプラスチック製ミニチュアトラックが当たるお客様向けの懸賞への応募用紙も準備されています。懸賞の特賞は映画に登場する「Dream Truck」のレプリカで、その他にハイラックス4×4 SR5 Xtra Cabの実車も賞品として3台提供されました。

(ハイラックス公式サイト)

かつては世界最大の自動車生産国だったアメリカは、70年代初頭のマスキー法とオイルショックをきっかけに低迷を余儀なくされた。

一方で日本の自動車メーカーは世界で最も早く環境規制に対応したエンジンを開発し、さらに低燃費が評価され、巨大なシェアの確保に成功した。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が公開された当時、アメリカ市場では小型車はおろか大型車やトラックですらもメイド・イン・ジャパンが存在感を示していたのだ。

海中に沈めてもビルごと爆破しても

イギリスの人気自動車番組『トップギア』が、2003年にこのような企画を実施したことがある。

放送当時13年前の4代目ハイラックスを購入し、その耐久性を証明するというものだ。このハイラックスは中古車で、既に30万km走っている。それをブリストルの市街地で雑に走らせてみる。石の壁にわざと車体を擦らせながら、階段を下る。さらに道路脇の木に正面衝突させ、ボンネットをへこませる。

その後、市街地から海岸へ移動。セバーン川の入り江にハイラックスを駐車する。ここは潮の干満差で世界第2位の場所だ。当然、ハイラックスは水没する。それを引き上げ、一般家庭にもあるような簡単な工具で修理する。

するとエンジンがかかった。乗り心地はともかく、まだまだ運転できそうだ。ハイラックスを運転するジェレミーは、すっかり大興奮である。

が、「無茶をしでかす自動車ジャーナリスト」として知られるジェレミーは、それだけでは満足しない。さらにハイラックスを木製の小屋に衝突させ、上からトレーラーハウスを落とし、口笛を吹きながらハイラックスに放火する。

翌日、解体予定のビルの屋上にハイラックスを置き、ビルごと爆破。一体筆者は何を書いているんだろうと思案しているが、本当に行われたことだから仕方ない。

ペシャンコになったハイラックスを瓦礫の中から取り出し、またしても一般的な工具のみで修理を試みる。すると、見事にエンジンがかかった。シャシーは完全に折れてしまったが、それでも自走している。ジェレミーもジェームズもリチャードも、目を飛び出さんばかりに驚愕した。

なお、この時のハイラックスは現在でも博物館に展示されている。

世界中で活躍するピックアップトラック

かつて、ハイラックスは日野自動車羽村工場で組み立てられていた。つまり『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のDream Truckも『トップギア』の中古車も、西東京出身である。そう書くと、急に親近感が湧いてしまうのはなぜだろうか。

その常識外の耐久性は、紛争の具にされてしまうこともある。中東やアフリカの戦場では、ゲリラや反政府勢力がハイラックスを運用している。荷台に機関銃を積み、即席の戦闘車両として最前線で戦わせるのだ。1986年に勃発したチャド・リビア紛争が『トヨタ戦争』と呼ばれているのはこのためだ。

が、同時にハイラックスは国連機関が人道支援活動のために使うクルマでもある。ロクな舗装路がない地域へ行くには、ちょっとやそっとでは故障しない頑丈なピックアップトラックが必要不可欠だ。

今この記事を書いている瞬間も、羽村生まれの中古ハイラックスが誰かの命を救っているに違いない。

【参考】
ハイラックス公式サイト
ニューカー速報プラス 第55弾 TOYOTAハイラックス(交通タイムス社)
Killing a Toyota Part 1 | Top Gear | BBC

書いた人

ノンフィクションライター、グラップリング選手、刀剣評論家。各メディアでテクノロジー、ガジェット、ライフハック、ナイフ評論、スタートアップビジネス等の記事を手がける。