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2022.01.17

台風迎撃作戦!! 絶海の孤島「南大東島」台風ツーリング その3(最終回)

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短期間に二度も島を襲った台風。
僕のソロキャン物語VOL.10 絶海の孤島「南大東島」台風ツーリング その3

台風15号ルーサー到来

自転車どころではなかった。

こんな、当たり前の事に気付いてないくらい、とにかく自転車と共に撮りたかったんだと思う。
前回は台風の中でAV撮影というムチャをやったが、今回は台風の中でツーリング。
頭おかしいとは思うが、この時はそれしかなかったのだ。
もはや理屈ではなかった。

くだらない事、意味ない事、大してお金にならない事に体を張るのは昔からのやり方だ。

まずは宿の庭に出てみる。
台風は「痛い」。
雨が猛烈な勢いで体を叩くため「痛い」のだ。全裸だったAV撮影の時もそうだったが、
改めて思い知らされた。

もう何をやっているのかわからないが、とにかく必死で撮影した。
付き合わされた人もいい迷惑だろうが、これが、台風の暴風域の写真である。

ついに目撃した大波

続いて港方面に出てみた。
初めて見る暴風圏の大波。
興奮した。当然風が強力なため、吹き飛ばされそうになるが、廃墟の壁に隠れながら必死で撮影を続けた。カメラにビニールを被せているが、あまり効果はなく、カメラが壊れる前にとにかく撮ろうと思った。
これを、どう言葉で表していいのかわからない。写真だけ見るとまるで戦場のようだ。

この時、自分のマヌケな姿は撮影できたものの、実は撮りたかった大波は、台風真っ最中のせいか、暴風と潮風が強烈なため大波の輪郭がかき消されていたのだった。
体感は物凄かったものの、暴風状態では以前見た数百メートルの大波は撮れない、と後に知る。

この後、南大東島をほぼ直撃した台風15号は、予報より少し北にカーブし、西ではなく奄美大島に進路を変えて午後には去り、砂糖キビ畑はひしゃげたものの、再び静かな島に戻っていった。

嵐を呼ぶ男。二度来た台風

オレは、よほど台風に好かれているらしい。
撮影を終え、島で数日のんびり過ごしたたった二日後の9月1日。
今度は、台風16号が小笠原諸島で発生。
まるで15号を追うような形でこちらに向かっていた。

メシを食いながら、テレビで情報を見て呆然とした。
こんな短期間にこんな事があるのか?
進路予測を見ると、15号と同じ道のりを辿っている。

あと数日で帰ろうと思っていたが、こんなチャンスは二度とないだろうと島に残る事にした。再び迎撃作戦開始である。
まさか、この短期間で同じ進路で二度も台風が来るとは夢にも思わなかった。

オレは石原裕次郎か?
気分はすっかり「嵐を呼ぶ男」だった

台風16号 シンラコウ

台風には名前が付いている。
台風の呼び名は全14ヵ国が名前を提出し(2003年当時)発生した順に名前が付いていくらしい。前回の15号は「ルーサー」でマレーシア語で「鹿」という意味だそうだ。
16号は「シンラコウ」と言い、ミクロネシア語で「伝説の神」という意味らしい。

南大東島は、台風がよく通過する島としても有名なので、気象観測所もある。
島のパンフには「台風資料」も存在するのだ。

ひとつひとつに名前が付いており「ルーシー」「ウィルダ」「グロリア」「ビリー」「キャシー」「アリス」など、なんだか楽し気な名前が付いていて、実際には恐ろしく、その被害も大きいはずなのに、そのギャップが複雑で不思議な気分になってしまう。

9月3日夜、島は暴風圏に突入した。

前回の15号より激しかった。
風の激しい圧力がプレハブの宿の揺れ方でハッキリわかる。宿の屋根がいつ吹っ飛ぶか、ハラハラした。
夜中に窓を僅かだけ開けて外を見たが、前回以上に風速がヤバい。とんでもない暴風である。
音が恐ろしい。真っ暗な空に一直線に「ゴォォォーーーーーーーーーーーーー!!!」っというウネリの音だ。

一部住民は避難したらしい。
午前3時22分、ついに風速は最大瞬間風速46.8mを記録した。

そして風速の圧力で、宿の床が浸水を始めた。

ありったけのタオルで浸水部を塞ぐ。これは、宿が破壊されたわけでなく、あくまで風の圧力だけによる現象だった。風の力だけで水が侵入してくるのである。
何かがすっ飛んで来ないのを祈った。

ここまでの風だと、パパイヤやらヤシの木やら、屋根とか、ヘタするとヤギまで飛んで来そうだ。

これは、さすがに外には出れない
出たら最後、何が起こるかわからない
途中、停電もあり、ビビりながら朝まで過ごす

台風の目

台風16号は、その前の15号が僅かに北に逸れたのをまるで修正するように、この小さい島のド真ん中を通過していった。
それはそれは見事な精度だった。

9月4日朝5時、台風の目に入ったようだ。
先ほどまでの轟音は止み、あたりは静まり返っていた。
村の役場の警報の放送が流れている。「風速40メートル、最大60メートル、決して外には出ないでください」
放送はずーっと流れている。
返し風があるので、絶対に外に出るな、と言っている。

「返し風」というのは、台風の中心部を過ぎたあと、今度は風が反対方向から襲ってくる現象をこう呼んでいる。
台風は回転しながら進んでいるので。目を過ぎると風向きが今度は真逆になるのだ。
島の人は、なぎ倒されたキビ畑が今度は反対側になぎ倒される、と語っていた。

返し風が来るまではまだ時間がある。
夜も明けて来ている。

恐る恐る外に出て見た。
目を確認したかったのと、撮影したいためだった。

空を見ると、見事に空が円形に丸く開いていた
「ほんとにど真ん中を通過してるんだ!」と思った

島には高い建物がないため、空は広く、台風16号の目をハッキリ確認する事ができた

月まで出ている。

なぜか、カエルの大群の大合唱が聞こえている。
これから強烈な返し風があるとも知らず、のんきなカエルたちだ、と思った。

そして朝9時、返し風が猛烈な勢いで吹き荒れた。
さすがにこれでは撮影は行けない。
一歩でも外に出たら命はないのではないか? と思うほどだ
窓さえ、僅かでも開けれない。

カエルたちは大丈夫だろうか?と、余計な心配をしながら、少し眠りについた

爆弾

午後2時。
ようやく風が弱まってきた。
雨も止んできている。

再び、港に行ってみた。

台風は過ぎ去りつつあったが、海は前回以上に荒れ狂っていた。

夢中で撮影した。
たぶん、海に爆弾を落としたらこうなるだろう。

そんな海を見ていた。
長年の夢がかなった瞬間だった。
しかし、オレは一体何と戦っているのだろう?

帰り、カエルたちは無事だったのか?

自転車もカメラ3台もボロボロだった。
修理に一体いくらかかるのか?
今回もたぶん赤字だろう

そう思った。

書いた人

映画監督  1964年生 16歳『ある事件簿』でマンガ家デビュー。『ゲバルト人魚』でヤングマガジンちばてつや賞佳作に入選。18歳より映画作家に転身、1985年PFFにて『狂った触角』を皮切りに3年連続入選。90年からAV監督としても活動。『水戸拷悶』など抜けないAV代表選手。2000年からは自転車旅作家としても活動。主な劇場公開映画は『監督失格』『青春100キロ』など。最新作は8㎜無声映画『銀河自転車の夜2019最終章』(2020)Twitterはこちら

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