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Culture
2022.01.24

吸い込まれるような美しさに潜む、力と物語。石垣島「貝文化の守り人」に聞く、琉球の貝文化

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何気なく門の上に置かれたシャコ貝や、玄関先に吊るされた6つの突起を持つスイジ貝。沖縄、特に石垣島をはじめとした八重山諸島を旅していてこのようなものを目にしたことはないでしょうか?

貝にも動物の手にも見える!

生活の中にするりと溶け込んでいるこれらの貝。実は単なる装飾品ではありません。ここ沖縄において、貝は古くから「厄除け」「招福」「加護」などの意味を持つお守り。家と、そこに住まう人々を守る存在として家に置かれているのです。

旧石器時代から続く、琉球の貝文化

そしてこのように貝をお守りとする文化は、なんと2万年以上前の旧石器時代までさかのぼります。古くから貝と共に生活をしてきた琉球の人々。矢じりや釣り針、食事をするための容器、工具、魔除けなど、ありとあらゆる道具に貝を使用していました。そして一説にはお守りとしての貝を持ち歩くために、貝を加工し、装飾品として身につけていたと考えられているのです。

気の遠くなるような時を超え、今なお続く貝の文化。しかし残念ながらそれはだんだんと薄くなっていっているといいます。島のおじいやおばあは貝の持つ意味を大事にしていたとしても、あまり年配の方と関わることのなかった若い世代は、なぜ家に貝が飾られているのかわからなかったり、それがどんな意味を持つのかを知らなかったり……。

そんな薄れゆく伝統文化を守ろうと、石垣島にて貝の持つ意味を日夜伝え続けている方がいます。彼の名は中村 玄斗.さん(以下中村さん)。貝にまつわる物語を学び、昔から信じられてきた意味を込めた貝のアクセサリーを作り、その意味を語り継いでいる「貝文化の守り人」です。

今回は石垣島の中村さんのアクセサリーショップ「R’s story」にて、琉球地方に根付く貝のお守り文化と、それに対する中村さんの想いをお伺いしてきました。

石垣島にて語り、守られ、身につけられてきた貝

ーー最初に、中村さんが貝の研究をしようと思ったきっかけを教えてください

中村さん:わたしはもともと石垣島でダイビングのインストラクターをしていたのですが、思わぬ事故で引退せざるを得なくなってしまいました。でもこの島が好きで、この島に対しなんらかの形で恩返しをしていきたい……そう考えていた頃、考古学者の父から「国内最古の装飾品は沖縄で発見された貝製のものである」という話や、「貝はお守りとして用いられていた」という話を聞いたんです。

遥か昔から人々が信じてきたものが、今なおこの地に残り続け、人々の生活の中に根付いている。その事実がとても心に響き、そこから貝の持つ物語に興味を持ち始めました。

ーーそうだったんですね。中村さんのお店「R’s story」では、「古くから信じられてきた貝の意味」を大事にしているそうですが、貝は一体どのような意味を持っていると考えられているのでしょうか?

中村さん:琉球の人々は貝を3つのグループに分け、それぞれが持つ「守り・加護の意味」を信じています。一つ目は巻貝グループ。夜光貝やスイジ貝などがこのグループに入ります。

この地では古より「螺旋で先が尖っている形と模様」は、悪いものを寄せ付けない力があると信じられてきました。スイジ貝を軒先に吊るすのも「家の中に悪いものが入ってこないように」という厄除けの意味。なので新築のお祝いや引っ越し祝い、開店祝いなどでは巻貝を贈ったりします。

ちなみにこの「螺旋で先が尖っている形と模様」ですが、シーサーにも用いられています。シーサーの毛並みは螺旋状で尖っていますよね。これは厄除けとしての意味がここに込められているからなんです。その他、沖縄の伝統的な家屋である赤瓦屋根の上部が尖っているのも、厄除けの意味が込められているからだと言われています。

ーーいわれてみれば、シーサーの毛並みは渦巻いていますね!巻貝とシーサーに共通点があるとは思ってもいませんでした。では2つめのグループはなんなのでしょうか?

中村さん:2つ目は蝶貝グループです。真珠を作る白蝶貝や黒蝶貝などがこれですね。蝶貝はその殻の中で真珠を何層にも何層にも守っている貝。その姿から「身を守ってくれる力」があると信じられてきました。怪我や病気などから身を守ってくれる貝なので、妊娠中の友人や、健康を気遣う人へのプレゼントには蝶貝で作ったアクセサリーを贈ったりします。

ーー同じ「守り」の意味でも、巻貝とはまた違った意味なのですね。それでは3つ目は何なのでしょうか?

中村さん:3つ目はシャコ貝です。蝶貝もシャコ貝も二枚貝なのですが、シャコ貝は二枚貝の中で海底で上を向いて生息している貝。空に向かって立ち上がり、そしてその殻を大きく開いている様子が、「空から幸せをたくさん吸いおろして生きているようだ」と昔の人々は考えました。そこからシャコ貝は「幸せを呼ぶ力」を持つと信じられるようになったんです。

ーーよく家の入口にスイジ貝とシャコ貝が置いてあるのをみますが、あれは「悪いものは入ってくるな」「幸せはたくさん入ってきますように」という意味があったのですね。

中村さん:そうです。島の人々は貝が持つ意味や物語を大切にし、生活のなかに取り入れてきました。でもさすがに貝そのものを持って外出はできない。なので人々は貝を加工し、装飾品として身に着けるようになったのです。貝の装飾品のはじまりはオシャレだけではなく、お守りを持ち運ぶ+いつでも幸せを呼び込む、その為に身に着けるものだったというわけです。

ーー中村さんはそれを現代に再現しているのですね。

中村さん:はい。島が生まれ、人々が暮らし始めた時代より貝は守りの力をもつ存在として考えられていました。長い年月語り継がれてきた貝の物語。これを次の世代にも残すべく、わたしは貝のアクセサリーを作り、八重山諸島の貝文化の歴史、そして貝が持つと信じられてきた力の話ごとお渡しするようにしております。

貝のもつ物語も素敵だし、デザインも素敵。身に着けてお出かけしたい!

「伝えたくなる」そんな力をもつ作品で、島の文化を守る

中村さんの作るアクセサリーはとても繊細で、まるで海のような柔らやな美しさを持っています。それはきっと貝の声に耳を傾けながら、何日も何日も手作業で貝を磨き続けているから。ごつごつとした石灰質の付着物の下から現れる、優しくも力強い貝の光を中村さんの作品からは存分に感じることができるのです。

「守り」の意味を知って身につける貝のアクセサリー。

それはなんだか不思議な安心感を与えてくれるような気がします。何万年もの間、人々が信じてきた力が静かに守ってくれるような、そっと寄り添ってくれるような……。
そして、そのアクセサリーに使われている貝の持つ意味を誰かに話したくてたまらなくなるのです。

伝統や文化は語り継がれるからこそ残るもの。
「伝えたくなる」中村さんのアクセサリーは、確実に島の文化継承の一翼を担っているといえるでしょう。
R’s Story HP

アクセサリーはビビッと一目惚れすることが多いけれど、こうしてストーリーも一緒に持ち歩くのもいいなぁ。

書いた人

お酒をこよなく愛する、さすらいのクラフトビールライター(ただの転勤族)。アルコールはきっちり毎日摂取します。 お酒全般大好物ですが、特に好きなのはクラフトビール。ビール愛が強すぎて、飲み終わったビールラベルを剥がしてアクセサリーを作ったり、その日飲む銘柄を筆文字でメニュー表にしています。 居酒屋の店長、知的財産関係の経歴あり。お酒関係の記事のほか、小説も書いています。

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大学で源氏物語を専攻していた。が、この話をしても「へーそうなんだ」以上の会話が生まれたことはないので、わざわざ誰かに話すことはない。学生時代は茶道や華道、歌舞伎などの日本文化を楽しんでいたものの、子育てに追われる今残ったのは小さな茶箱のみ。旅行によく出かけ、好きな場所は海辺のリゾート地。