Culture
2018.06.19

歌舞伎と能と文楽の違いは?歴史・演目・舞台装置で解説

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初めて歌舞伎・能・文楽に触れる人のために、それぞれの違いをわかりやすく解説します。

歌舞伎と能の違いは何か?

歌舞伎は、日本の古典芸能の人気演目から、イイとこ取りをしているということをご存知でしょうか。たとえば、弁慶の「飛び六方」で知られる「勧進帳(かんじんちょう)」。今や歌舞伎の代表的な演目とされていますが、実は、能の「安宅(あたか)」を題材に、七代目市川團十郎が天保11(1840)年に初演したものなのです。どちらも、奥州平泉(おうしゅうひらいずみ)に落ち延びて行く源義経と弁慶の一行が、安宅の関を通過する際の攻防を描いていますが、歌舞伎と能ではそもそものテーマが大きく異なります。

“力”で関を突破する能と、“義理人情”で抜ける歌舞伎

能「安宅」は、豪快でパワフルな弁慶が関守の富樫と、命を懸けた息の詰まるような対決を演じます。下の写真は、弁慶と9人もの郎党が舞台いっぱいに登場する圧巻の場面。弁慶が力ずくで富樫と対決、関所を突破します。集団の力を表現し、あくまで力と力との対立という方向で演じているのです。

勧進帳能「安宅」武蔵坊弁慶/浅見真州(あさみまさくに)、富樫/宝生閑(ほうしょうかん)ほか。2011年、国立能楽堂

一方歌舞伎「勧進帳」では、富樫に詰め寄ろうとする四天王を弁慶が押し止めます。また、弁慶に惚れ込んだ富樫は、義経一行だとわかりつつも、武士の情けで安宅の関を通すのでした。弁慶を呼び止めて酒宴をはる富樫。富樫の心情を察して舞う弁慶。そこには男同士のロマンがあります。歌舞伎俳優にとって「勧進帳」の弁慶は憧れの大役。下の写真は、2014年に市川染五郎(現・十代目松本幸四郎)が初役で勤めた弁慶。富樫は父・松本幸四郎(現・二代目松本白鸚)が演じました。

勧進帳歌舞伎「勧進帳」(©松竹)

歌舞伎も能も、話の大筋はそれほど変わりませんが、歌舞伎は弁慶と富樫の、男同志の義理人情の話にしたところが大きなポイント。このように本業と歌舞伎の違いを見比べていると、なおなお、面白くなってゆくのです。

歌舞伎の歴史とは? 能と文楽と比較してみる

日本を代表する3つの芸能。その成り立ちには異なる背景があり歴史があります。日本の芸能史の流れを比較しながら見てみましょう!

「私たちが現在観ることのできる能の様式は、江戸時代にはほぼ完成されていました。そのころにようやく文楽や歌舞伎が生まれたと考えていいでしょう」と歌舞伎を中心に日本の近世・近代の芸能を研究する矢内賢二さん。一般的には、歌舞伎の俗っぽさは格式ある能への反発から生まれた、という見方もありますが?「その考えは正しくないですね。むしろ初期の歌舞伎は狂言の演目を取り込んでやっていたぐらいで、能楽に大きく影響されていました。能楽の“いいとこ取り”をしながら歌舞伎は発展してきたと考えたほうがいい。文楽の母胎である浄瑠璃も、最近の研究では、竹本義太夫よりひとつ前の世代の語り手は謡曲を手本にしていたとの見方があります。つまるところ、江戸期まで日本で確立された舞台芸能はほとんど能楽しかなかったわけですから」

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文楽、歌舞伎は後発組ならではの強みで、大衆に受けるために貪欲に演目や舞台装置を考案。江戸期に熱狂的な隆盛を迎えたこともあり、今では広く知られる存在に。「能は創成された当時から、ずっと時の権力者の保護を受けていたことも、ほかのふたつの芸能の発展の仕方と大きく異なるところです。興行を成り立たせるために、大衆の意見を取り入れるといった必要性が能にはなかった。能においてのみ一貫して、確立された様式が今日まで続いているのはそんな背景もあるのです」-2014年和樂6月号より-

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写真提供/(左)平成中村座ニューヨーク公演実行委員会(右)小田原文化財団

能の歴史とルーツ

奈良時代、大陸から伝来した民間芸能「散楽」がルーツ
能 歴史
●確立された年/1300年代半ばごろ
●確立された地/奈良
●大成者/観阿弥
●演者の基本構成/役は主役のシテ、シテの相手方のワキに大きく分かれ、そこに演奏担当の囃子方が加わる。演目により狂言方が入ることも。合唱の地謡、舞台進行を助ける後見も含め舞台上にいる人物は全員が能の演者。
●現在の状況/シテ方、ワキ方、囃子方、狂言方すべて分業の世襲制。さまざまな役を担うシテ方が圧倒的に人数が多く、観世・宝生・金春・金剛・喜多の五流派がある。

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文楽の歴史とルーツ

「語り物」の浄瑠璃と人形芝居が江戸期に一体化
文楽 歴史
●確立された年/貞享元(1684)年
●確立された地/大坂
●大成者/竹本義太夫
●演者の基本構成/「語り」を担当する太夫と三味線で演じられる浄瑠璃。この演奏に合わせて人形遣いが人形を操り人形浄瑠璃に。19世紀に活躍した興行師・植村文楽軒の名にちなみ、文楽が人形浄瑠璃の代名詞となる。
●現在の状況/太夫・三味線・人形それぞれに江戸期から続く家系はあるが、厳密な世襲制はない。現在、国立文楽劇場研修生の卒業生の多くが文楽の技芸員として活躍。

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歌舞伎の歴史とルーツ

阿国のかぶき踊りを経て個人の役者が芸を確立
歌舞伎 歴史
●確立された年/元禄年間(1688~1704年)前後
●確立された地/上方・江戸
●大成者/坂田藤十郎、市川團十郎など
●演者の基本構成/大きく分けると成人男性「立役」と男性が女性を演じる「女形」の二役。物語により敵役や若衆方などさまざまな役柄に分かれて演じられる。演じ分けに歌舞伎独自の化粧が効果を発揮。
●現在の状況/上方の坂田藤十郎、江戸の初代市川團十郎など歌舞伎創始期から続く役者名を名跡と呼ぶ。名跡を襲名することで芸を継ぐ形式が今日まで続く。

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◆解説/矢内賢二
日本芸術文化振興会(国立劇場)勤務、京都造形芸術大学講師・准教授を経て現職に。著書に『明治キワモノ歌舞伎 空飛ぶ五代目菊五郎』などがある。

歌舞伎、文楽、能を舞台装置で比べてみる

日本の伝統芸能である歌舞伎、文楽、能は、どんなシチュエーションで各演劇が催されてきたのでしょうか。それぞれの芸能を支持する観客によって、時代と共に進化してきたのが舞台装置です。その違いを考察してみましょう!

能の舞台装置

興行ごとに仮設されていた歴史をもつ簡素なつくり
dma-WR6-99-1●基本構造/本舞台・橋掛り・地謡座・後座の4部分からなる能舞台のつくりは江戸初期に完成。中心にある本舞台は約6m(京間三間)四方の正方形で、床の四隅に柱を立て屋根が掛けられている。屋内でも舞台に屋根があるのは、かつて野外で演じられることが多かった名残。スクリーンショット 2017-01-27 11.33.30スクリーンショット 2017-01-27 11.42.01スクリーンショット 2017-01-27 11.47.19

文楽の舞台装置

客席へせり出した床から義太夫節を響かせる
dma-WR6-99-2●基本構成/人形の縮尺に合わせた舞台、その上手側に客席へ張り出た「床」からなる。床には太夫と三味線が座り、浄瑠璃を語る。舞台は人形遣いがスムーズに動くための奥行きがある。文楽の黄金期と呼ばれる江戸中期には水を用いるなど大がかりな舞台装置も考案された。スクリーンショット 2017-01-27 11.53.33スクリーンショット 2017-01-27 11.56.31

歌舞伎の舞台装置

観客の目を引き付ける変幻自在の劇空間
dma-WR6-99-3●基本構成/中央に舞台があり、花道と呼ばれる歌舞伎独自の空間が舞台下手から客席の外まで続く。演目には常時伴奏が付くが、演奏者が舞台上にいる場合や、黒御簾内にいることも。大がかりな舞台装置が歌舞伎の自慢。廻り舞台は18世紀中ごろ、世界に先駆けて考案された。スクリーンショット 2017-01-27 12.05.55スクリーンショット 2017-01-27 12.04.56

歌舞伎研究家・矢内賢二さんによる解説

「能は省略の美学。いろいろなものをそぎ落とした結果、言葉と体が舞台にあるんです。何もない分、観る者が自分の想像力を駆使して補う。観客としては3つの中でいちばんパワーを使う演劇だと思いますよ」

その点、歌舞伎は客を驚かせるためのつくりが満載。わかりやすいほどの見せ場づくり、漫画のように描かれた背景など矢内さんは「まがいものっぽさが歌舞伎の魅力」とも。「われわれ現代人は舞台から何かを得ようと思ってつい真剣に観てしまいますが、そもそも歌舞伎はそんなものではない。今はきらびやかになってしまいましたが、大衆演劇の猥雑さが歌舞伎の舞台の原型なんです。

文楽の見どころは「まずは床」と矢内さん。「そもそも文楽は太夫の語りを聴きにいくもの。太夫と三味線の座る床がせり出しているのも、そのためです。ふたりの掛け合いを聴くことが醍醐味であって、ひたすら人形を凝視していないで、ときには床に耳を傾けてほしいですね。とはいえ、殺しや濡れ事の場面など、人形が人間以上に生々しいしぐさにハッとさせられるのが人形劇の面白さ。

◆矢内賢二(立正大学文学部文学科准教授)
日本芸術文化振興会(国立劇場)勤務、京都造形芸術大学講師・准教授を経て現職に。著書に『明治キワモノ歌舞伎 空飛ぶ五代目菊五郎』などがある。

-和樂2014年6月号より-

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