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日本神話はこんなに面白い! なんと一晩で子だくさん!

『古事記』は、『日本書紀』をはじめとした記紀神話が編まれるずっと以前から、日本各地に伝承したさまざまな神話の世界が凝縮された、日本の歴史上、最も早くに編纂された書物。他国の神話に類例を見ない『古事記』の魅力を、神々の恋物語で紐解く第二弾は、天津日高日子番能邇々芸能命と木花之佐久夜毗売の、はかなくも悲しいお話です。

|もくじ
日本神話の恋物語、一
日本神話の神々がくりひろげた恋物語とは!? はこちらから

日本神話の恋物語、三
古事記の神話は「美女と野獣」の物語だった! はこちらから

日本神話の恋物語、二

天津日高日子番能邇々芸能命と木花之佐久夜毗売
アマツヒタカヒコホノニニギノミコとコノハナノサクヤビメ

生命の起源を生んだ悩ましき恋

【この神話のテーマ】一夜孕み
【この神話の形態】バナナ型

天孫降臨(てんそんこうりん)で高天原(たかあまはら)から高千穂に降り立ったホノニニギは、山の神であるオホヤマツミの娘、コノハナサクヤビメを見初(みそ)めます。めでたく結婚を許されますが、父であるオホヤマツミは姉のイハナガヒメも一緒に差し出すわけです。

これを素直に受けていればよかったのですが、ホノニニギはそのあまりの醜さに怯え、イハナガヒメを返してしまいました。

そのことによって、スメラミコト=すなわち天皇の命に期限が生まれてしまったわけですが、これはコノハナサクヤビメの「木の花」が、繁栄の象徴であり、パッと咲いてパッと散る儚いものの象徴でもある桜の花を表しているからだと考えられています。

この『古事記』における天皇短命期限説話は『日本書紀』になると人間は何故生命の期限があるのかという、「死の起源説話」に変わります。このような話型は世界中にあって、その典型が、神が人間にバナナと石を運ばせ、バナナを選ぶと死にいたるというインドネシアなどの「バナナ型」と呼ばれる神話です。

この「バナナ型」神話の象徴が、『古事記』では桜の花になっているところが、日本的でとても面白いと思います。

しかし、この恋物語のメインテーマは、コノハナサクヤビメの妊娠にまつわる「一夜孕(ひとよはら)み」の問題でしょう。一般的には一夜の交わりで妊娠したことを指すとされていますが、その根底には、祭りの夜に村の若者が神に扮して女の元を訪れ、饗応を受け、床を共にし、結果生まれた子どもは神の子として育てるという神婚の思想も見え隠れします。

この「一夜孕み」によって、ホノニニギはおなかの子が自らの子でないとの疑いをかけますが、コノハナサクヤビメは身の潔白を示そうと、産屋に火を放って出産します。こうして三人の火のつく名を持つ神が誕生しますが、この「火中出生」にも世界的な神話の類型が見て取れます。

いずれにしても、女性の側に嫌疑がかかり、それを恥と感じるタブー的な要素を内包した話しで、祭りにおける一夜妻の発想とともに、神話における恋物語のタブー性を象徴したひとつの好例だと言えるでしょう。

日本神話はこんなに面白い! なんと一晩で子だくさん!
「神代正語常盤草 下」より、天孫降臨の図

天津日高日子番能邇々芸能命と木花之佐久夜毗売 恋物語のあらすじ

高天原から降臨したホノニニギは、笠沙(かささ)の岬で美しい娘に出会う。それがオホヤマツミの娘、コノハナサクヤビメで、ホノニニギは即座に求婚するが、彼女は自分には答えることができないので父に相談するという。オホヤマツミは求婚に喜んで、姉のイハナガヒメとともに娘をホノニニギに献上するが、イハナガヒメの醜悪さに驚いたホノニニギはコノハナサクヤビメだけを留めて「一夜婚」をした。
怒ったオホヤマツミはホノニニギに「娘ふたりを奉ったのは、イハナガヒメをお使いになればアマツカミの命は、雪が降り風が吹いても岩のごとく常永久に変わりなく、コノハナサクヤビメをお使いになれば、木の花の咲き誇るがごとくに栄えると祈りを込めたから。ひとりコノハナサクヤビメだけを留めるなら、アマツカミの命は木の花のように散りましょう」と呪詛する。
これによってスメラミコトには寿命ができる。やがて身ごもったコノハナサクヤビメだったが、ニニギに「一夜孕み」を疑われ、身の潔白をしめすために「火中出生」を試みる。こうしてホデリ、ホスセリ、ホヲリの三神が生まれた。

【用語解説】

天津日高日子番能邇々芸能命と木花之佐久夜毗売
ホノニニギは天孫降臨神話と、それに続く日向(ひむか)神話のはじめの神として登場する。コノハナサクヤビメは、オオヤマツミの娘で、高天原から降臨したホノニニギと「一夜婚」をする。このとき生まれた子がやがて山幸彦となり、その孫が神武天皇となる。

一夜孕み
「一夜婚」による一夜だけの交わりで妊娠することを指すが、「異常出生」の一形態としても捉えられている。「異常出生」にはホヲリとトヨタマビメによる「異類婚」出産なども含まれ、コノハナサクヤビメの「火中出生」も「異常出生」と言える。

バナナ型
東南アジアを中心に広く分布する「死の起源説話」の一形態。神によって与えられた石を人間が食べられないと拒否し、バナナを選び取ったため、人間は石のような永遠性を失ったとするもの。石の永続性と植物の非永続性を対比させた「死の起源説話」である。

火中出生
火のなかで出生する「異常出生」のひとつ。東南アジアの産婦焼きと呼ばれる火おこし儀式との関連が指摘され、沖縄などでも同様の風習がある。火が持つ呪力をもって新生児を強化したり、安産を祈願すると考えられる。古代インドの叙事詩「ラーマーヤナ」にもコノハナサクヤビメ神話と同様の産屋放火のモチーフがある。

解説/青木周平(「和樂」2006年5月号より)

参考文献/『古事記』(新潮日本古典集成)、『古事記がわかる事典』(日本実業出版社)、『日本神話事典』(大和書房)

【日本神話の恋物語、三】古事記の神話は「美女と野獣」の物語だった! はこちらから

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