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2022.07.18

血の誓いも?江戸時代にもあった秘密保持契約(NDA)『大奥女中誓詞』が怖いワケ

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某コーヒーショップで仕事をしてたら隣の席でオンラインミーティングがはじまって、取引先から仕事内容までぜーんぶつつぬけ。これ、最近よく聞く話です。

先日、カフェの隣の席から「もう腹を切るしかない」とか聞こえてきました……。

秘密保持契約(NDA)とか、結んでおかなくってもいいのかしら。最近はちゃっとメールで送って、ちゃちゃっと電子サインで済んじゃうんだから、便利な世の中ですよね。

江戸時代だったら「誓詞血判(せいしけっぱん)」といって、血で判を押すところです。江戸城の大奥で働くときもそう。将軍のプライベートがもれないように、いわゆる『大奥女中誓詞』がマストでした。

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大奥の内情はトップシークレット

大奥というのは将軍の妻子が暮らす居住空間です。将軍が泊まって夜を過ごすこともありました。つまり大奥で働く奥女中たちというのは将軍の健康状態や、後継ぎとなる子どものようすだって知ることができたのです。そりゃ秘密保持契約も必要になるというもの。

誓詞の前書(誓う内容)は享保6年の通達によると次の通り。ちなみに享保6年というと、8代将軍徳川吉宗(よしむね)が享保の改革に着手して、派手に膨らんでいた大奥の経費を削減しようとしていた頃ですね。

『大奥女中誓詞』7ヵ条

一 御奉公の儀、実義を第一に仕え、少しも後ろぐらき義 致すまじき候、よろづ御法度のおもむき堅く相守り申すべき事

仕事には誠意をもって取り組み、後ろぐらいことはしないこと。ご法度の内容は絶対に守ること

*ご法度…大奥のルールをまとめた「大奥女中法度」のこと

一 御為に対し奉り悪心を以申し合わせいたすまじき事

悪事をそそのかされても誘いにのらないこと

一 奥方の儀、何事によらず、外様へ申すまじき事

大奥のことは、どんなことでも外様へもらさないこと

*外様…関ヶ原の戦い後に徳川家の家臣となった大名のこと

一 女中方の外、おもて向願いがましき義、一切取持ち致すまじき事
附、御威光をかり、私のおごりいたすまじき事

政治がらみの嘆願などを、大奥の中に持ち込まないこと
将軍に取り立てられたからといって、調子に乗らないこと

一 諸傍輩のかげことを申す、或いは人の中をさき候ようなる義仕るまじき事

同僚の悪口を言ったりして、人間関係を悪くするようなことはしないこと

一 好色がましき儀は申すに及ばず、宿下がりの時分も物見遊所へまいるまじき事

恋愛沙汰などのトラブルはもちろん禁止。実家へ帰省したときもふらふらと遊びあるかないこと

一 面々心の及び候程は、行跡を嗜み申すべき事
附、部屋々々火之元念入申付べき事

一人ひとりができる限り、行いをつつしむようにすること
部屋の火の用心を念入りにすること

将軍に気に入られたら、調子乗らない方が難しいッ!!

ぼんやりした誓いはかえって怖い!

この『大奥女中誓詞』、さらっと読むともっともなことばかりに見えますが。
内容がぼんやりとしているのが怖いところ。

たとえば「後ろぐらいことをするな」という言葉ひとつとっても、「仕事をさぼるな」というレベルから「横領はするな」というレベルまで、いろいろに解釈ができるわけで。
真面目な人ほど、自主規制でがんじがらめになったりしそう。ずるい人なら、いくらでも言い逃れができそう。

文通や面会の相手などを細かく定めた大奥のルール集『大奥法度』を守りますと誓わせているところも、手抜かりなしです。『大奥法度』を改定すれば、奥女中の締め付け具合もコントロールできちゃうのでは?

血の誓いは固い? 誓詞血判とは

しかも誓詞血判って、まるで悪魔と交わす「血の契約」みたいです。

誓いを立てるときに「神仏に誓って」というのは、もし誓いを破ったら神仏から罰を受けるという覚悟を示すもの。誓いの固さを表すために、署名や花押に血を1滴たらすこともありました。
戦国時代になると血判といって、誓いを立てるときに小刀などで指先を切り、血のついた指で判を押すようになります。

大奥の女中が奉公するときだけでなく、家臣が主に忠誠を誓う際にも、また、遊郭で恋仲になった遊女と客が愛を誓い合うときにも、血判が押されたそう。

『千代田之大奥 お流れ』著者:楊洲周延(国立国会図書館デジタルコレクションより)

大奥嫌いのあの人たちも誓いを立てた

血判を押した誓詞の効力というのは、どれほどだったのでしょうか。詳細は不明ですが、最後にこんなこぼれ話を。

大奥につとめる奥女中というのは、例外なく誓詞をするのがルールです。
公家から嫁いでくることの多かった将軍の正室、御台所(みだいどころ)に付き添って大奥に入った、上臈御年寄(じょうろうおとしより)も例外ではありません。

幕末なら皇女和宮(かずのみや)に付き添って、京の都から下ってきた女性たちがその立場です。大河ドラマなどでよく「こんな田舎に嫁がされて、おかわいそうな姫さま」と眉をひそめているあの人たち。

奥女中の実質的なトップである御年寄よりも、名目上は公家出身の上臈御年寄のほうが格は上です。それでも御年寄の立会いのもと、大奥の書記である右筆(ゆうひつ)が誓詞を読み上げて誓いを立てたのだそう。

上臈御年寄は誓詞をしたってなんのその、大奥の悪口を言っていたんじゃないでしょうか。ドラマの見過ぎかもしれませんけど。

畳みかけるように言ってそう!(個人の妄想です)

アイキャッチ:『繪本時丗粧 2巻. [1]』著者:歌川一陽齋豐國(国立国会図書館デジタルコレクションより)

参考書籍:
古事類苑
日本国語大辞典(小学館)
御殿女中(青蛙房)

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書いた人

昔は口が堅いと褒められましたが、座右の銘は「壁に耳あり障子に目あり」。大奥のあれやこれやを語ります。

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