日本文化の入り口マガジン和樂web
12月5日(月)
大学生の時に、世界を変えることに携わりたいと思っていた。そして、今も。(イーロン・マスク)
日本文化の入り口マガジン 和樂web
日本文化の入り口マガジン 和樂web
12月2日(金)

大学生の時に、世界を変えることに携わりたいと思っていた。そして、今も。(イーロン・マスク)

読み物
Culture
2022.11.04

このボッチ神、できる…!インバウンド時代にこそ祀りたいスクナビコナノミコト「ひねくれ日本神話考〜ボッチ神の国篇vol.20〜」

この記事を書いた人
この記事に合いの手する人

この記事に合いの手する人

▼これまでの記事はこちら

モテモテリア充神の影にボッチ神あり!その名はスクナビコナノミコト

日本神話で万物を生んだのはイザナギとミザナミ、とされている。

だが、国土を「人が住める土地」にしたのは大国主命。そう、出雲大社の主であり、七福神の一柱にもなっている大変ポピュラーな神様だ。逸話も多い。ゆえに、日本の神々に言及する場合は必要不可欠であるわけだが、本連載では華麗にスルーする。

なぜなら、彼は日本神話でも一二を争うけしからん艶福家だからである!
娶った女神は数知れず、成した子も多い。要するに本連載の趣旨とはもっとも遠い神だ。

なんせあのスサノオの孫筋だもんね…


しかし、そんな彼の傍らにはれっきとしたボッチ神が存在していた。
しかも、唯一無二のバディとして。

彼の名は少彦名命。スクナビコナノミコト、と読む。
父は最初に顕現した別天神の第三・神産巣日神(かむむすひのかみ)だが、御存知の通り神産巣日神は独神なので母はいない。日本神話には時々「単発の神」が現れるが、その系統なのだろう。なんにせよ由緒正しき神であることには間違いない。
そんなスクナビコナ様だが、登場と退場が全神話屈指のおもしろさなのだ。

落っこちて、流れ着いて、飛んでった

大国主が出雲の御大の御前(今の美保関)にいた時のことである。
海からガガイモ(キョウチクトウ科の蔓性植物)の実の殻でできた船に乗って、鵝(鵞鳥とも蛾とも)の皮で作った衣服を着てやって来る神がいた。ガガイモの実はてのひらにちょこんと乗るサイズなので、それに乗ってきたということは、相当ミニサイズだったことがわかる。

アイキャッチの画像がガガイモの実の殻です。船みたいなビジュアル!


しかも、このちびっこ神、名を尋ねられても答えない。
話せないのか、話さないのか。

大国主は戸惑い、周囲にいた神々に「この子、誰か知ってる?」と尋ねたけれども、皆首を横に振る。そんな中、タニググ(ヒキガエル)が「クエビコ(山田の)なら知っているでしょう」と提案した。
そこで、クエビコを呼んで聞いてみると「この方は神産巣日神の御子である少名毗古那神ですな」と答えた。

クエビコとはカカシの別名で、歩けないけれどなんでも知っている神様とのこと


念のため、神産巣日神を訪ねていって確認したところ「間違いない。この子は私の子だ。ちびっこ過ぎて、私の手の指の間から漏れ落ちたんだ」と認めた上で、「君たち、兄弟になりなさい。そして一緒に国を作っていくといいでしょう」とおっしゃるではないか。そんなわけで、その日から大国主と少彦名は手に手を取り合い、全国各地を巡りながら国造りを始めたのである。

いきなり海からやって来て、自己紹介もせずにふんぞり返る(*イメージです)ちびっこ神。かわいい。推せる。
しかも、彼は有能だった。農業から医療まで、国造りに必要な幅広い知識を持つ、神話学でいうところの「文化英雄」と呼ばれるタイプの神だったのである。
散らばる島々を集めて一つの島にするなんていう神様らしい大技を繰り出す一方、種籾や粟を与えて育てることや酒造りといった身近なノウハウも教えている。また、人々が長生きできるようにと、薬の作り方や温泉利用の方法も教えたそうだ。箱根元湯は彼が見つけた温泉だし、道後温泉に至っては突然人事不省になった少彦名を助けるために大国主が大分の別府の湯脈を地下から通して湧かしたものだという。
温泉と酒の神。これだけでもう崇めるに足るではないか。

サイコー神だ


全日本人の恩人といって過言でない。少なくとも私にとっては絶対的な恩人である。

21世紀のインバウンド神として

なお、このコンビの活躍は、記紀神話だけでなく各国の風土記でも伝わっている。つまり、土地に根ざした伝承が実在したようなのだ。ここは結構大きなポイントで、大国主を巡る神話は、大人の事情ではなく、ある程度は建国の記憶をリアルに伝える神話である、と考えられるそうなのだ。
地元民と移住組が協働して土地を盛りたてるのは今も普通に行われている。四方を海に囲まれた島国にとって、外来者は常に新しい知識と技術を伝えてくれる大切な存在だったのである。
知恵者のちびっ子神・少彦名とモテ男の大国主の二人旅。なんだか一級のロード・ムービーでもできそうな設定である。

キャスティングを考えたくなります


だが、別れは突然訪れた。
国造りにある程度の目処が立ったある日、少彦名は突然常世国に渡ってしまったのである。しかも、粟の茎によじ昇ったら弾かれて飛んでいった、なんていうアクロバティックな方法で。
常世国とは海の彼方にあるという理想郷で、不老不死の国であるなんてこともいわれるが、どこにあるかはわからない。だが、旅立った場所は淡島とも熊野ともされているので漠然と太平洋側が想起される。
ということは、少彦名は高天原から落っこちてきて、日本海側に流れ着き、全国を巡った末に太平洋の彼方に飛んでいったことになる。日本神話きってのグレイト・トラベラーだ。
海外から来て富を与え、また海外に去っていく旅人神。しかも温泉にも酒にも食べ物にも通じているなんて、最高ではないか。
これはもうインバウンドの神としか思えない。今からでも遅くない。ゆるキャラ化して海外客に対するPR展開をするべきである。
今、時代は少彦名命なのだ!

▼毎月第1・3金曜日に配信!「ひねくれ日本神話考〜ボッチ神の国篇〜」シリーズはこちらからチェック!

書いた人

文筆家、書評家。主に文学、宗教、美術、民俗関係。著書に『自分でつける戒名』『ときめく妖怪図鑑』『ときめく御仏図鑑』『文豪の死に様』、共著に『史上最強 図解仏教入門』など多数。関心事項は文化としての『あの世』(スピリチュアルではない)。

この記事に合いの手する人

平成元年生まれ。コピーライターとして10年勤めるも、ひょんなことからイスラエル在住に。好物の茗荷と長ネギが食べられずに悶絶する日々を送っています。好きなものは妖怪と盆踊りと飲酒。