人間の手業はAIを超える!人の手から生まれる複雑で繊細な文様の有松絞り【愛知】

人間の手業はAIを超える!人の手から生まれる複雑で繊細な文様の有松絞り【愛知】

「有松絞り」を知らなくても、藍地に白い凹凸模様のある浴衣や和小物は、見たことがあるのではないでしょうか。有松絞りは、愛知県有松・鳴海地区で400年以上続く伝統工芸です。江戸時代に多くの技法が生み出された絞り染めには、京都の絹布に染める「京鹿の子絞り」が有名ですが、庶民に親しまれたのは、木綿に絞り染めをした地方絞りでした。中でもこの有松絞りは、現在、国内生産量の90パーセントを占めています。昔は「有松絞りで作った浴衣を嫁入りに」と言われるほど、女性たちの憧れでもありました。繊細かつ複雑な意匠は、今もすべて手作業から生み出され、その技術の高さは、海外からも注目を集めています。

繊細で美しい柄が特徴の有松絞りの浴衣や反物

今でいえば大ヒット商品。有松絞りの手ぬぐい

徳川家康が江戸幕府を開いた直後の慶長13(1608)年、尾張藩によって作られた村が有松です。当時農業がふるわなかったこの土地に移り住んだ有松絞りの開祖・竹田庄九郎たちが、東海道を行き交う人たちの土産として、手ぬぐいの絞り染めを売ったところ、評判となりました。その後、主幹産業となった有松絞りは、尾張藩の保護を受け、さらに発展していきます。人々で賑わう様子は、歌川広重の「東海道五十三次 鳴海 名物有松絞」や北斎、国芳の浮世絵にも描かれています。

人々で賑わう絞り屋や東海道の様子を描いた歌川広重「東海道五十三次 鳴海 名物有松絞」

当時の面影をそのまま残す街並みは、2016年「重要伝統的建造物群保存地区」に指定され、2019年の5月には、街並みや有松絞り、山車などの伝統文化を維持していることが評価を受け、「日本遺産」にも認定。名古屋ではちょっとした有松ブームとなっています。

今も当時の面影を残す有松の街並み

有松絞りの技法はなんと100種を超える…!

有松絞りは、図案作りから始まり、型彫り、絵刷り、絞り、染色、糸抜き、仕上げとそれぞれの工程を専門の職人が請け負います。中でも図案に添って、防染のため生地を糸で括る(くくる)という工程は、シワやヒダを寄せた布をつまんで糸で絞ります。

一つの着物には10万~15万粒のくくりがほどこされる

布地が粒々に立体化し、染める際にその部分が染まらず、糸を抜いた時に文様が現れるのです。その繊細な模様は、まさに神の手と思えるほどの細やかなもの。括りの技法は100種を超えると言われ、さらに組み合わせによって、その数は無限に広がります。

求められるのは熟練の技! 一人の職人が一つの技法を極めていく

有松では、この括りを「一人一技法」として、その技を高度なものへと高めていきました。浴衣や着物など反物の中にいくつもの模様が含まれているものは、何人もの括り手が手掛けているのです。まさに人々の手によって作られた文様の結晶。しかし、現在は着物の衰退、職人の高齢化などで、受け継げずに消滅してしまった技法もあり、現在は70種類余となっています。それでも世界一を誇る技法の数なのです。

手蜘蛛絞り

横三浦絞り

人の手が生み出す無限の文様。80年以上続ける伝統工芸士の姿

この有松絞りを支える伝統工芸士の方たちの頭の中には、いくつもの図案が入っており、括り(くくり)も指先の感覚で覚えているそう。手作業とは思えないほどの細かさで次々と絞りを作る様子は神業です。

昔は弟子入りなどの制度もなく、子どもの頃から遊びや手伝いの一つとして、生活の中で自然に覚えていったとか。そして、いつしか手仕事として体が覚えていったといいます。

中には80年以上続けている伝統工芸士の方もいて、その姿はもはや生活の一部を超え、体の一部となっているよう。機械化できないほど複雑で多彩な文様だからこそ、一人ひとりの手による味わいが生きてきます。

有松鳴海絞会館2階には、絞り作家「岸野頼子」さんの作品が多数飾られている。

布を糸で括るシンプルな手仕事が、現代のスタイルに生まれ変わる!

今、この伝統工芸を引き継ごうと伝統工芸士の元で技法を学んだり、新たな感性で職人たちとモノづくりを発信している若者たちが、ここ有松に集まってきています。「ツグモノプロジェクト」もその一つ。海外からも注目を集める「ARIMATSU SHIBORI」を時代にあったスタイルへと進化させています。


400年以上の時を超え、有松絞りを受け継いできた有松絞商工協同組合の成田基雄理事長と、それを次世代へと繋げていくツグモノプロジェクト代表森永琢馬さんにお話しを伺いました。

小さいうちから、日本の伝統工芸品で本物を体感してほしい

ー若い人から見た有松絞りの魅力とは何でしょう。

森:やはりそのデザイン性がまず一つです。僕たちから見ても新しい、面白いという文様がいくつもあり、それがすべて人の手だけで生み出されている凄さにまず惹かれました。僕たちは日本にある素晴らしい伝統工芸を次世代に繋げていこうと伝統産業にかかわる方たちにお会いして、一緒にモノづくりをしているんですが、有松絞りは海外の方から人気があり、日本の若い世代にももっと知ってもらえたらと思っています

ー新しい方たちとのコラボはいかがですか?

成田:伝統産業としてやってきましたが、着物を着る人が少なくなり、スカーフ、ストール、甚平、ネクタイなどの小物も作るようになってきました。しかし私たちが作るとどうしても昔ながらの和小物になってしまう。そんな時、森永さんたちのツグモノプロジェクトと出会い、意見交換するうちに、新しい形の有松絞りが作れるんじゃないかと盛り上がりました

ー赤ちゃんのスタイ(よだれかけ)を作るという発想はどこから生まれたんでしょうか。

森:成田さんといろいろ話すうちに、昔はもっと有松絞りが身近な生活の中にあったというお話があって。それを聞いて、身近でさらに小さいうちから、本物に触れられる機会があればいいなと考えるようになったんです

成田:戦後まもなく戦時統制がなくなった頃、有松絞りはおむつにも使われていたんですよ。各メーカーが毎日、リヤカーで運ぶぐらいたくさん作ってて。そんな話をしたんです

森:乳幼児向けの商品はまだ作ったことがないというので、それなら、肌にも優しいし、生まれてすぐに使えるし、赤ちゃんのスタイ(よだれかけ)が良いのでは、という展開になりました。形も小さいし、素材選びでは苦労しましたが、表地が木綿のガーゼ、裏地はパイルで吸水性もよくしました

成田:絞りの中の染色の工程で、熱湯につける時、布についている糊が落ちるため、肌触りが良い。さらに絞りは、布を括るときにできる凹凸で、肌に密着せず、通気性も良い。そういった素材としての魅力も再発見してもらえると嬉しいです

「ARIMATSU Chick」

ツグモノプロジェクトと有松絞協同組合が協働で立ち上げた『幼児向け有松絞り』のブランド。子どもたちのMY FIRSTとして有松絞り第一弾の商品は「スタイ(よだれかけ)」。出産祝いにも喜ばれそうな一品です。

ドット柄やストライプなどのモダンなデザインを有松絞りの技法を使って、一つずつ職人が手作りします。大量生産できないため、中日新聞クラウドファンディングサイト『夢チューブ』で販売し話題となりました。今後は百貨店などでの販売を検討しているそうです。お問合せ:ツグモノプロジェクト

ツグモノプロジェクト
公式サイト

有松・鳴海絞会館

美しい街並みの中に作られた有松・鳴海絞会館では、有松絞りの歴史や資料、実物を展示し、わかりやすく絞りの文化を紹介している。伝統工芸士による実演や和装小物や浴衣などの販売も行っている。

毎年、6月の第一土曜、日曜日には、町中が絞り染めで彩られる「有松絞りまつり」が開催される。絞り手ぬぐい体験やミス絞り&福男のパレード、トークショーなど多彩なイベントも。

住所:愛知県名古屋市緑区有松3008番地
TEL:052-621-0111
開館時間:9:30~17:00(実演は16:30まで)
休館日:年中無休、但し年末年始、絞りまつり前後各3日
公式サイト

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