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2019.10.04

川端康成と美のコレクション。ノーベル文学賞受賞作家の美意識とは?

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毎年10月になるとノーベル賞の話題が何かと耳に入るようになるが、近年はノーベル文学賞が注目を集める状況が続いている。
2016年はフォークソング界のレジェンド ボブ・ディランが書いた「歌詞」が選ばれ、世界を巻き込む議論が起った。2017年には日系イギリス人カズオ・イシグロ氏の受賞で国内が盛り上がった。2018年は選考者であるスウェーデン・アカデミーのスキャンダルによって、受賞作の発表が見送られるという前代未聞の不祥事が勃発した。さらに、村上春樹氏が受賞するか否かは定番のワイドショーネタにすらなっているが、それにしても日本人はなぜこれほどノーベル文学賞が好きなのだろうか。

日本人にとってのノーベル賞は「国際社会の評価」の指標

世界的権威とされる文学賞ならば、他にもブッカー賞及び国際ブッカー賞やノイシュタット国際文学賞など様々ある。しかし、知名度といい話題性といい、日本においては比べものにならない。単純に、文学賞としての質ならばこれらの方が高いとの定評があるにもかかわらず、だ。
思うに、日本人にとってのノーベル賞は「国際社会の評価」の指標なのだ。敗戦によって自尊心を粉々にされた戦後日本が国際社会に復帰していく中で、「どの程度、他国から受け入れられ、評価されているか」を手探りするための、ちょうどよい目安になってきたのである。

実際、1949年、つまり終戦から4年後に湯川秀樹博士がノーベル物理学賞を獲った時の騒ぎは、到底今の比ではなかったという。その後、邦人の受賞は1965年に朝永振一郎博士が、同じく物理学賞を受賞するまで16年も待たなければならなかったのだが、さらにそこから3年、1968年に川端康成がノーベル文学賞に選ばれたことは、それまで以上の特別な意味を持って日本人の胸に響いた。

自然科学ではなく日本の文学、とりわけ日本的美意識を前面に打ち出した文学の作者が受賞の栄に浴す。
この慶事は、日本が文化面でもようやく国際復帰を果たしたことをあらゆる人々に実感させたのだ。

川端が生涯をかけて追求した「和様の美」

川端自身も「日本人の受賞」にかなり自覚的だったことは間違いない。授賞式には紋付き袴の日本式正装で参加し、受賞記念講演のスピーチのタイトルを「美しい日本の私--その序説」としているからだ。

この「美しい日本の私」には、川端が生涯をかけて追求した「和様の美」のエッセンスが詰まっているといわれている。曹洞宗の開祖・道元の和歌から始まり、逸脱の僧・明恵の評伝で終わるスピーチは、日本人が何に美の本質を見出してきたのかを、古典文学や茶道などの伝統な芸道から読み解いている。今も書籍で読むことができるのでぜひ一読してほしい名文だが、そんな彼の「美意識」をビジュアルで感じられる展示がこのほど兵庫県姫路市にある二つの文化施設で始まった。
「生誕120年 文豪川端康成と美のコレクション展」だ。

上=ロダン《女の手》を見る川端康成 撮影:林忠彦 下=東山魁夷《北山初雪》|1968年 公益財団法人川端康成記念会蔵

両会場あわせて約280点の美術品や文学資料が展示されるこの展覧会は文字通り過去最大規模の川端康成コレクション展で、池大雅「十便図」、与謝蕪村「十宜図」、浦上玉堂「凍雲篩雪図」(展示期間は9月14日~16日、10月29日~11月4日のみ。それ以外の期間は複製展示)といった3 点の国宝が公開される他、市立美術館では主に絵画や彫刻などの美術品、文学館では書画骨董や文学資料の類を中心に展示される。

川端作品と密接に関連する美術品の数々

姫路市立美術館では川端が所蔵していた多彩な美術品を、第1章「川端と西洋美術」、第2章「川端と古美術」、第3章「川端文学と装丁画」、第4章「川端と近現代工芸」、第5章「川端と近現代絵画」の五つのテーマで分け、文豪の美意識を立体的に把握しようとする展示を行っている。
そんな中、見どころとして挙げたいのは、川端作品と密接に関連する美術品の数々だ。
たとえば巨匠ロダンの彫刻「女の手」は仕事机に置いていたほどのお気に入りだったそうだが、そこでにわかに思い出されるのが「片腕」という短篇だ。

「片腕を一晩お貸ししてもいいわ。」と娘は言った。そして右腕を肩からはずすと、それを左手に持って私の膝においた。

何ともシュールなシーンから始まる本作は、川端文学の幻想性と官能性の極北を示す作品だが、「女の手」はその発想の源になったのではないか、などと想像しながら見ると、鑑賞する目もまた違ってくるだろう。

オーギュスト・ロダン 《女の手》 公益財団法人川端康成記念会蔵

また、第3章「川端文学と装丁画」では、川端の代表作『古都』の挿絵となった東山魁夷の絵画「京の春」や「京の秋」、『千羽鶴』の装丁原画となった小林古径「双鶴図」を見ることができる。日本画と文学、二つの世界が響き合って生まれる美を堪能したい。

東山魁夷《京の春》(『古都』挿絵原画) 1973年 東山家蔵

この他にも土偶や埴輪から、古賀春江や草間彌生といった近現代の日本人画家による絵画までがずらりと並んでおり、川端の趣味嗜好が偏りなく広範であったことが感じ取れる構成になっている。

夏目漱石・太宰治・谷崎潤一郎・三島由紀夫も

一方、姫路文学館での展示は第1章「文豪・川端康成 そのひととなりと作品」、第2章「川端の見つめた伝統」、第3章「川端コレクションと播磨」、第4章「文豪たちの息づかい」、第5章「文豪が愛した空間」の五つのパートからなり、川端の人物そのものを文物で表現しようとしている。
江戸時代の名僧・良寛の書や渡辺華山「桃花山禽双孔雀図」などの書画の他にも、夏目漱石・太宰治・谷崎潤一郎・三島由紀夫ほか、名だたる文豪たちと交わした書簡や生前の愛用品なども公開されており、近代日本文学の象徴とでもいうべき作家の生活を垣間見ることができる。また、ノーベル文学賞メダルや川端自身が描いた自画像、さらには初恋相手だった伊藤初代に出さずじまいで終わったラブレターなどもあるので、ちょっとミーハー気分を味わえるのが楽しい。

川端康成22歳、伊藤初代15歳、三明永無22歳の写真(1921 年) 公益財団法人川端康成記念会蔵

なお、展覧会期間中は姫路文学館・北館において、ゲーム「文豪とアルケミスト」(DMM GAMES)のパネル展示もされているとか。ゲームキャラクターの「川端康成」「横光利一」「夏目漱石」と一緒に写真撮影ができるので、そちらがお好きな方もぜひ足を運んでほしい(展示エリアへは本展覧会の観覧券が必要)。

読書の秋、芸術の秋、そしてノーベル賞の秋。
その三つを同時に満たしてくれる川端康成の世界に飛び込んでみてはいかがだろうか。

展覧会情報

展覧会名:生誕120年 文豪川端康成と美のコレクション展
会期:2019年9月14日(土)~2019年11月4日(月)
場所:姫路市立美術館と姫路文学館の二箇所
姫路市立美術館 公式サイト
姫路文学館 公式サイト

書いた人

書評家。主に文学、宗教、美術、民俗関係。著書に『自分でつける戒名』『ときめく妖怪図鑑』『ときめく御仏図鑑』、共著に『史上最強 図解仏教入門』など。現在、よみもの.comにて「文豪の死に様」を連載中。最近の関心事項は文化としての『あの世』(スピリチュアルではない)。