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2019.10.16

大相撲の人気呼出し・利樹之丞さんインタビュー!呼出しどはどんな仕事?(前編)

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昨今の相撲人気により、主役である力士はもちろんですが、彼らを支える“縁の下の力持ち”にも注目が集まっています。そのひとつが、「呼出し(よびだし)」という仕事です。相撲の魅力を伝えるウエブマガジン「おすもうさん」主催にて、『知れば知るほど 行司・呼出し・床山』(ベースボール・マガジン社)にも登場する、人気呼出し・利樹之丞さんのトークイベントが開催されました。事前に行った取材やイベントでの利樹之丞さんのお話しとともに、伝統文化である相撲を支える呼出しの世界を、前後編でご案内いたします。

宮中行事「相撲節」の役職「奏名」がはじまり?

利樹之丞さんは高砂部屋所属の呼出しです。平成元年(1989)年5月場所で呼出しとして初土俵を踏み、呼出し歴は30年。相撲ファンにはお馴染み、個性ある高音域の「呼び上げ」で取り組みを盛り上げています。

呼出しとは、力士の四股名を呼び上げる人のこと。相撲のことを知らなくても、なんとなくそんなイメージはありますよね。しかし呼び上げは仕事の一部でしかありません。土俵づくり、太鼓、柝入れ、懸賞幕の管理、水つけなどの力士の介添えなど、おもに土俵まわりのことを行っています。また力士や行司とは違い、下の名だけで呼ばれています。

10月3日(木)に蔵前の厳念寺(ごんねんじ) 本堂にて開催されたトークショーは満員御礼。相撲デスクとしてお馴染みの佐々木一郎さん(日刊スポーツ新聞社)の司会で進行。

そんな呼出しは、平安時代のころには存在していたと言われています。相撲の歴史は、記紀神話の力くらべから技芸による年占(としうらない)儀式へ、そして宮中行事「相撲節(すまいのせち)」へと統合されていきました。利樹之丞さんは、「奈良から平安時代にかけての相撲節の役職であった『奏名(ふしょう)』は、相撲人(すまいびと)の名を呼んでいたようで、それが呼出しのはじまりとも言われていますね」と、話します。

江戸・寛永年間の相撲番付に記載された呼出し

江戸のころは、取り組みをさばく行司に対して呼び上げを行う「前行司」という職がありました。ほかにも四股名を呼び上げる人を「ふれ」、「名乗り上げ」とする記述があり、それが呼出しだったと言われています。「江戸は寛政(1789~1801)年間に作られた番付には、呼出しの名前が載っています。それから載ったり載らなかったりで、昭和24(1949)年に呼出しの太郎さんが理事長に提言して10年ほど記載されていました。そして平成6(1994)年からは、番付表への記載が復活。今も昔も同じでしょうが、自分の名前が番付に載っているのは励みになります」。

土俵まわり(右下)で仕事をする呼出しの姿が描かれている。「勧進大相撲興行之図」/国会図書館デジタルコレクション

ちなみに江戸相撲独特の縦番付が発行されたのは、寛永前の宝暦時代(1751~1764年)。このころからは今につながる江戸相撲の制度や組織が整いはじめたそう。また錦絵にも描かれている勧進大相撲ですが、行司はもちろん呼出しの姿も見ることができます。幕末のころの錦絵には、裁着袴(たっつけはかま)姿で描かれていて、今の装束とほぼ変わりません。

「顔触れ言上(かおぶれごんじょう)」(翌日の取り組みを披露する)を行う行司と呼出し。「式守伊之助・呼出シ弥吉」/国会図書館デジタルコレクション*冒頭画像は一部分

「呼び上げ」「土俵築」「太鼓」が三大仕事

相撲節のころから呼び上げの役割を務めてきた呼出し。呼出しの三大仕事といえば「呼び上げ」、「土俵築(どひょうつき)」、「太鼓」と言われています。「昔は、呼び上げ、土俵築、太鼓は分業制でした」と利樹之丞さん。昭和40(1965)年から分業制ではなくなり、すべての仕事を手掛けるように。当時は、呼出し歴に関わらず、はじめて呼び上げをした呼出しも珍しくなかったとか。

呼出しの三大仕事について説明していくと、

その1.聞き比べが楽しい「呼び上げ」

呼出しといえば、イメージするのが呼び上げです。土俵上で白扇を広げて、次の取り組みの四股名(しこな)を呼び上げます。本場所では、奇数日は東方から、偶数日は西方の力士から呼び上げます。序の口から幕内までは、四股名は一度だけ呼び上げる「一声(ひとこえ)」で、十両最後の取り組みや三役(大関・関脇・小結)以上の力士の場合は、二回呼び上げる「二声(ふたこえ)」で、行っています。呼び上げの節回しや声の強弱などそれぞれにこだわりのスタイルがあります。

その2.すべて手仕事、職人技の「土俵築」

「土俵築(どひょうつき)」とは、土俵づくりのこと。本場所や巡業の土俵から相撲部屋の稽古土俵まで、土俵づくりは呼出しの重要な役割。ちなみに国技館での土俵築は、場所前3日間をかけて呼出し全員で行います。まずは土台を残して20㎝ほど削り、新たな土を入れて打ち返します。「タコ」という道具で押して土を固め、「タタキ」と呼ばれる道具で表面を水平に。またや俵を土俵に埋め込むのですが、その俵づくりに欠かせないのが国産ビールメーカーのビール瓶!?ビールの大瓶を使って、きれいに形を整えて、土俵に埋め込んでいくそう。仕上げまで、なんとすべて手仕事!すばらしい取り組みは、呼出しが手掛ける土俵があってこそ。現在は、埼玉で採れる「荒木田(あらきだ)」という土を使っています。

その3.相撲情緒を演出する「太鼓」

相撲情緒に欠かせない櫓太鼓の音。これも呼出しの仕事です。場所前日に叩かれる「寄せ太鼓」にはじまり、場所中は櫓のうえで毎日朝8時すぎから「一番太鼓」を、弓取り式が終わると同時に「跳ね太鼓」を叩きます。跳ね太鼓は、来場の感謝と明日の来場への願いを込めるものなので、千秋楽や一日限りの巡業では叩きません。また場所前日は、人びとに相撲が始まることを知らせてまわる「触れ太鼓」があります。呼出しが数名一組となり、相撲部屋や贔屓筋を回ります。太鼓をたたき、初日の顔触れ(取り組み)を呼出しならではの節回しでご披露。国技館での場所開催時には、両国駅周辺の店はもちろん、日本橋の老舗などでも触れ太鼓チームを見かけることが多いです。

江戸時代の触れ太鼓の様子。「江戸両国回向院大相撲之図 太鼓」/国会図書館デジタルコレクション

江戸っ子も見上げたであろう櫓。国技館に常設されている櫓は、今も五尺三寸(16メートル)の高さ。「名所江戸百景 両ごく回向院元柳橋」(歌川広重)/国会図書館デジタルコレクション

三大仕事のほかにも、土俵の進行にあわせて拍子木を打つ「柝入れ(きいれ)」、懸賞幕の管理、力水をつける力士に柄杓を渡す介添え、力士がまく塩の管理や幕内以上の力士が座る控え座布団を置くなど、多くの役割を担っています。

「声で力をつける」を心掛けている

呼出しの仕事で一番楽しいことを聞かれた利樹之丞さん。「やはり呼び上げですね。呼出しの一番の見せ場です。これから取り組む力士には声で力をつけて、また会場を盛り上げることができる、そんな呼び上げを心掛けています」。呼び上げが一番楽しいとはいえ、嫌な仕事はないと言います。土俵築にしても「夏の土俵づくりは、本当に大変。できれば若い人に任せたい(笑)。でも土俵が出来上がったときの達成感は半端ない」と笑います。昔は、櫓にはしごをかけて登っていたそうで、「五尺三寸、16メートルの高さを毎日登っていた」とか。「一度、櫓から時計を落としてしまったことがあります。叩く時間がわからなくなってしまい、10分ほど長めに叩いたことも」と、新人時代の失敗を話してくれました。

失敗談も楽しそうに話す利樹之丞さん。

本場所(15日間)では、同じように見えても日々進行(時間や内容)が異なります。土俵の進行にあわせて拍子木を打つなど、円滑な進行を担うのも呼出しの仕事。「状況によって仕切りが普段よりも長くなることや早めになることも。それはお客様には伝わらないように、呼出しみんなでうまく帳尻をあわせています」と利樹之丞さん。阿吽の呼吸で15日間(場所期間)を乗り切っていく、チームワークに長けた集団、それが呼出しなのですね。

大相撲を支える呼出しの世界 後編 では、呼出しになるには、伝統文化を支える呼出しの魅力について、をご案内します。

■取材協力&関連書籍■
おすもうさん
相撲の魅力を伝えるウエブマガジン。おすもうさん編集部では、トークショーや相撲字講座など、さまざまなイベントなどを開催しています。
http://osumo3.com/

『知れば知るほど 行司・呼出し・床山』/ベースボール・マガジン社刊
大相撲を支える縁の下の力持ちであり、大相撲になくてはならない三職。伝統文化をささえる三職の成り立ちや仕事などを紹介。知れば知るほど相撲が好きになる、相撲入門者から好角家まで楽しめる一冊。1,500円(税抜)

■参考文献■
財団法人日本相撲協会・特別編集 大相撲/小学館
相撲の歴史/講談社学術文庫
国技相撲の歴史/ベースボール・マガジン社
知れば知るほど 行司・呼出し・床山/ベースボール・マガジン社

書いた人

和樂江戸部部長(部員数ゼロ?)。江戸な老舗と道具で現代とつなぐ「江戸な日用品」(平凡社)を出版したことがきっかけとなり、老舗や職人、東京の手仕事や道具や菓子などを追求中。相撲、寄席、和菓子、酒場がご贔屓。茶道初心者。著書の台湾版が出たため台湾に留学をしたものの、中国語で江戸愛を語るにはまだ遠い。