ラグビーのまち「釜石」で見られる!震災を乗り越え受け継がれる伝統芸能「虎舞」とは?

ラグビーのまち「釜石」で見られる!震災を乗り越え受け継がれる伝統芸能「虎舞」とは?

目次

「虎はどこだ!」、「おせ~!おせ~!」こんな囃子で、勇ましく虎が舞う伝統芸能があります。
2年ほど前に岩手県の沿岸の小さな町に越してきた私は、地域のお祭りで神社の境内で見た郷土芸能の数々に驚き、中でもこの「虎舞」の舞の迫力と、独特の囃子に圧倒されました。
東北地方の三陸沿岸で、未曽有の大震災を乗り越え、圧倒的な迫力でみなぎる生命力を私たちに見せてくれる「虎舞(とらまい)」。ラグビーワールドカップの開催地のひとつ、岩手県釜石市もさかんな地域です。
見れば必ず魅了されてしまう、虎舞の魅力をたっぷりとお伝えしたいと思います!

「虎舞」ってなんだろう?

虎舞とは

獅子舞の一種で、ふたりの男性が虎模様の胴膜を身にまとい、虎の頭を操りその動きを模して舞う伝統芸能です。笛や太鼓の威勢の良い独特の囃子も特徴のひとつ。

バラエティー豊かな全国の虎舞!

全国にたくさんの虎舞と呼ばれる郷土芸能があり、伝承地によってその信仰や発祥、舞の形までさまざまです。

青森県八戸市の「八戸三社大祭の虎舞」

八戸市内では鮫・湊・小中野・新井田などいくつかの地域に虎舞が伝えられ、八戸三社大祭で行列の中で披露されるアクロバティックな演技が特徴です。獅子舞と同じように虎に頭を噛まれると無病息災のご利益があるとされています。

青森県八戸市「湊虎舞保存会」の子どもを肩車する虎舞

岩手県釜石市・大槌町・山田町などの虎舞

昔から、沿岸地方の船乗りは「板子一枚、下は地獄」と言われ、漁師の家族にとって無事に寄帰港することが何よりの祈願でした。
「虎は一日にして千里いって、千里帰る」ということわざから、無事に帰る事を念じ、虎の習性に託して踊った虎舞が沿岸漁民の間に広がっていったと考えられ、主に航海の安全に関する信仰として伝承されています。

岩手県大槌町「大槌城山虎舞」

宮城県加美町の「初午まつり火伏せの虎舞」

屋根の上に虎舞が並んで火伏の祈祷舞を演じます。650年前、春先の強風により大火の多かった中新田地区で、易の文献にある「雲は龍に従い、風は虎に従う」の故事にならい、虎の威を借りて風をしずめ、火伏を祈願したのが起源と言われ、毎年、春に開催される「初午まつり」で見ることができます。

宮城県加美町「初午の火伏せの虎舞」

熊本県御船町の「古閑迫虎舞」

氏神・大宮神社の遷宮を願って近隣・在郷を舞い歩き遷宮資金を調達したのが始まりと言われています。虎と「つるこ」と呼ばれる子猿が虎にちょっかいを出して追いかけるユーモラスな舞やテンポの速い囃子が見どころです。

熊本県上益城郡御船町「古閑迫(こがのさこ)寅舞保存会」

調べてみると、その他にも全国に多くの虎舞が伝わっていました。

宮城県気仙沼市の「みなとまつりの虎舞」/神奈川県横須賀市の「浦賀の虎踊」/山梨県北杜市の「甲州台ヶ原宿虎頭の舞」/静岡県南伊豆町の「小稲の虎舞」/香川県東かがわ市の「白鳥虎頭舞」/愛媛県松山市の「古三津虎舞」/鹿児島県いちき串木野市の「野元の虎とり」など

虎舞がこんなにたくさんあったとは驚きです! 虎も迫力のある姿だけでなく、なんともユーモラスだったり、かわいらしかったり。囃子の調子がまったく違うのも興味深いところです。

三陸沿岸の虎舞

特に虎舞がさかんな地域として知られる三陸沿岸の山田町、大槌町、釜石市の虎舞を中心にみてみましょう。

この地域の虎舞は、「神楽(かぐら)」や「太神楽(おおかぐら)」、「鹿子踊り(ししおどり)」などの他の郷土芸能と同様、お祭りのときに神様に奉納する芸能としての役割があります。

季節ごとのお祭り、あるいは何かイベントがあるたび、虎舞をはじめとした各団体が次々に踊りを披露し、山車を引いて町内を巡ることもあります。

「大槌城山虎舞」の山車

成り立ち

虎舞の成り立ちは、同じ市や町の中でも団体ごとにそれぞれ伝えられていることが多いようです。

たとえば、ラグビーワールドカップの開催地のひとつ、釜石市は、近隣の地域の中では最も古くから虎舞が伝わっているといわれています。釜石市内には14の虎舞団体があり、現在は市の無形文化財として5団体の虎舞が指定されています。

釜石駅近くのマンホールにも虎舞が

今から約830年前、閉伊(へい)地方、現在の遠野市・宮古市・上閉伊郡・下閉伊郡および釜石市の辺りを領有していた鎮西八郎為朝の三男閉伊頼基が、将卒達の士気を鼓舞するために虎のぬいぐるみを付けて踊らせたのが始まりと伝わる団体や、昭和55年頃から発足したという比較的新しいところも。

約830年前から伝わるという釜石市「平田青虎会」の虎舞

演目や見どころ

三陸沿岸に伝わっているのは、次のような虎舞です。

【演技・踊り】

虎を型どった頭がついた布の中に前後二人が入り、たくみに虎を演じ、舞います。

虎舞の後に「手踊り」と呼ばれる虎を身に着けずに数人が素手で踊ることもあります。

おめでたい席で踊る「甚句(じんく)」という手踊りのうち「南部俵積み唄」。

【先踊り】

子ども等数名が、ささら(竹や細い木などを束ねて作られた楽器)、槍、扇子を持って虎と一緒に舞います。

【囃子方】

大太鼓、小太鼓、笛、手平鉦(てひらがね)など。
囃子方の掛け声には、次のようなものがあり、地域、団体により異なります。
「大漁万作 商売繫盛でエー ヨイトノサー」
「ソコラガ大事だ」「ソコラガ大事だ」「ソレ アヨイトサー」など。

【演目】

演目はたくさんありますが、中でも「遊び虎」、「はね虎」、「笹喰み」の三種については多くの団体が継承しています。
■「遊び虎」(「矢車」)
春の日差しを浴び無心に遊び戯れる虎の様子をあらわしています。この時の太鼓の撥さばきが、5月の鯉のぼりの先端に取り付けられた矢車が風にくるくる回る姿に似ている事から「矢車」とも呼ばれています。踊り子が数人、扇子を持って共に踊ることも。

二匹の虎が戯れる「遊び虎」

■はね虎
「国性爺合戦」の和藤内の虎退治を題材に、追い込まれた虎が手負いとなって荒れ狂い、和藤内が一人でこの虎を仕止めるという場面を表現したもの。
虎舞の中で最も勇壮闊達な踊りで、冒頭の「虎はどこだ~」の掛け声はこの演目で聞くことができます。

勇ましく迫力のある「はね虎」

■笹喰み
繁殖期にある虎が、盛んに獲物を求めて焦燥し、気性が荒くなり笹に噛みつく様子。漁師が虎狩りするのはこの頃という伝説によるもので、笹竹をくわえて踊る姿は虎の習性をよく表しています。虎は笹を食べているのではなく笹で歯を磨いているところ。一説には虎が好物のタケノコを探す様子であるとも。

「笹喰み」。珍しい白い虎は釜石市の「只越虎舞」

ちなみに「虎舞を舞う人は、猫の動きを観察して練習をする」と地元の人が教えてくれました。たしかに手(前脚)で顔を洗ったり、二匹の虎がじゃれ合う動きは猫っぽく感じませんか。

虎退治の和藤内って?

演目「はね虎」の題材となった、近松門左衛門が書き下ろした「国性爺合戦」の和藤内の虎退治は、三陸沿岸だけでなく神奈川、静岡、香川などでも同様にみることができる浄瑠璃で、後に歌舞伎の演目としても知られるようになりました。

和藤内は中国「明」の遺臣の父と日本人の母をもつ実在の英雄、鄭成功(ていせいこう、俗称:国性爺)がモデルのお話で、和藤内が両親とともに中国大陸に渡り、父の祖国「明」を復興するために活躍する内容です。

虎が登場する二段目の「千里が竹の場」は、和藤内が異母姉の夫「甘輝」と同盟を結ぶため獅子ガ城へ向かう途中で竹林に迷い込み、敵の韃靼王(だったんおう)に献上する虎狩が行われているところに出くわすという場面。
そこで和藤内が怪力と天照大神宮の護符の力で虎を手なずけ、虎狩の韃靼兵たちも味方につけて和藤内一行が獅子ガ城へと向かうのです。

ちなみに和藤内とは「和(日本)でも藤(唐:中国のこと)でも内(ない)」という洒落からのネーミングです。

おすすめのシーズンや場所

虎舞は、四季折々に地域で行われるお祭りのほか、釜石市で行われる「全国虎舞フェスティバル」などでも見ることができますし、団体によっては全国に出張することもあるそうです。

これからすぐ見られるお祭りとして、釜石市の釜石まつりをご紹介します。
2019年10月18日(金)から3日間行われる「釜石まつり」では、19日(土)に船の上で虎舞が舞う曳舟が見られます。
ストリート虎舞とも言える、大通りや広場など市内各所で虎舞が見られるのは20日(日)です。

船上で舞う虎舞が見られる「曳舟」

虎舞と震災復興

ご存知のとおり、三陸沿岸は東日本大震災で甚大な津波被害のあった地域です。

どの虎舞団体も、山車や太鼓、衣装などの用具はもちろん、練習場や保管庫なども津波に流され、ともに盛り上げてきた指導者や仲間を亡くした団体もありました。

そんな状況の中でも、皆を励まそうと、たったひとつ流されず手元に残った虎舞の幕を持って舞う人を見た住民の方々は、みな涙を流して喜んだのだそう。

全国の有志やNPOなどの力も借りながら、虎舞など三陸の郷土芸能は震災のあったその年から動きはじめ、地域の人の心を復興へ向けてさらに強く結び付ける役割を果たしています。

三陸の復興のシンボル、2019年3月に開通した「三陸鉄道リアス線」車両

震災後、人口が減少する三陸の地域では、郷土芸能を継ぐ若い人の不足はやはり深刻だと地域の人は語ります。

いっぽうで、虎舞が震災のせいで途絶えるかもしれないと誰もが思ったとき、「自分たちの代で途絶えるのは嫌だ」と大きく声をあげたのは、20代、30代の若い人たちだったそうです。

お祭りでは子どもも立派な虎舞の一員。幼い頃から慣れ親しんだお囃子は体に染みついているそう

自然災害が相次ぐいま、強く、温かいコミュニティを地域に形成する大切なツールとして、伝統芸能のあり方が見直されているといわれています。
ふるさとに誇りを持ち、伝統を継承する方々の想いが、虎舞の姿となって胸に迫るような気がします。

参考:
第10回全国虎舞フェスティバル
いわて伝統文化ナビ
いわての文化情報大辞典
・ブリタニカ国際大百科事典
・『大槌の郷土芸能』大槌町郷土芸能保存団体連合会発行
・『大槌の郷土芸能』大槌町文化遺産活性化実行委員会発行

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