桃太郎はなぜ梨太郎ではなかったのか?昔話のうんちくが深いんじゃ!

桃太郎はなぜ梨太郎ではなかったのか?昔話のうんちくが深いんじゃ!

昔話でさんざんな目に遭いつづける名脇役「鬼」は、おそらく日本で最も有名な妖怪だろう。その証拠を示すように日本各地にはさまざまな鬼の伝説が残されている。鬼は怖いと思われがちだけど、昔話を追いかけているうちにチャーミングな鬼のイメージが浮かび上がってきた。
今回は強くて怖くて、ときに泣き虫(?)な愛しの鬼たちの知られざる一面を紹介しよう。

日本で最も古い鬼はいつ、どこに現れたのか?

『古事記』に次のような場面がある。
イザナギノミコトが黄泉の国にイザナミノミコトを訪ねたときのことだ。
約束を守らなかったために、イザナギは身体中に蛆のたかるイザナミの死体を見てしまう。妻の姿に凍りついたイザナギは一目散に逃げ出すも黄泉津醜女に追いかけられる。その速いこと。速いこと。
イザナギが追いかけてくる醜女目がけて髪飾りを投げると、髪飾りはぶどうの実になった。醜女はぶどうを拾いムシャムシャと食べる。
そして再びイザナギを捕まえようと追いかける。
イザナギが櫛を投げると、櫛は筍になった。醜女は筍にむしゃぶりつく。筍を食べ終えるとまたもや追いかけてきた。これはしつこい。
最後にイザナギは、道のほとりにある桃の木から実を3個つかみとり、醜女にぶつけてやっと難を逃れることができた。

さて、この醜女こそが、日本最古の「鬼」である。

桃太郎が「桃」から生まれたのには理由があった!

それにしても、髪飾りはどうしてぶどうに変わったのか?
櫛はどうして筍に?
なぜ桃で鬼を撃退できたのだろう?
これにはきちんと理由がある。

中国の史書『春秋左氏伝(しゅんじゅうさしでん)』に「桃の実は邪気を払う」との思想がある。
「桃は五木の精なり。故に邪気を圧伏し、百鬼を制す」(『典術』)。桃は中国では仙果と信じられているのだ。五木とは桃・梅・柳・桑・杉のこと。これら五木の王者が桃の木。イザナギが桃の実で身を守れたのは邪気のを払う桃の力によるものだった。

そうなると誰もが知る有名な昔話、『桃太郎』が「柿太郎」でも「梨太郎」でも駄目だった理由も納得できる。桃太郎は生まれるまえから鬼退治を宿命づけられた、ちょっと気の毒なヒーローなのだ。

鬼はぶどうより筍より大豆が大好き

ぶどうや筍を頬張るくらいだから鬼の好物はぶどうと筍だろうと思ったら、実は鬼がもっと喜んで食べるものがある。「大豆」だ。

日本人と大豆の歴史は古い。大豆なくして日本料理はあり得ないと言えるほど日本人にとって大豆は馴染み深い食材だ。
中国でも、どんなに貧しい奥地にも必ず一軒は豆腐屋があると言われているそうだ。易くて栄養豊富な豆腐は庶民の生活に必要不可欠だったのだろう。

ところで、中国では鬼(幽鬼)は幽霊、死人の魂のことをいう。
中国に伝わる大豆好きの幽鬼の可愛らしいエピソードを紹介しよう。

あの世へいっても大豆が食べたい。食いしん坊の幽鬼。

日本でいえば徳川十二代将軍家慶の時代。
ある村に豆腐屋の働き者の主人がいた。朝から夜までよく働き、忙しい時には夜明けまで働くこともあった。徹夜で店を開けていると、あるとき見慣れぬ客がやってくる。朝、その客が支払った銅貨を見ると紙銭(紙を銭の形に作ったもので六道銭として死人の棺に入れて葬る。三途の渡し賃のこと)に変わっている。
主人には思い当たることがあった。
翌日、その客がまた来ると主人は水を張った洗面器に銅貨をほうり込んだ。すると銅貨が水面に浮いている。客はというと、その場に倒れてしばらく後に消えてしまった。主人が思ったとおり、客は古い墓地から抜け出した幽霊だったという話。

縁起の意味がこめられた邪気祓いの食べもの

魔除けの力を秘めている食材は桃だけではない。日本各地には、古くから邪気を払う効果があると受け継がれてきた食べものが他にもたくさんある。

かんぴょうで作る栃木県の百目鬼面

「ふくべ細工」は種を取り除いた夕顔の外皮(ふくべ)を乾燥させ、加工を加えたもの。ふくべの形を活かした花器や炭入れは土産物として有名だ。「百目鬼面(どうめき)」はふくべを縦半分にした魔除けの鬼面。下野伝説の百目鬼をもとにしているという。大きな丸型の黒い眼、どっしり構えた鼻、広がった口の両端からは牙などが、色鮮やかに絵付けされている。
ちなみに、夕顔の実をテープ状に細長くむいて乾燥させたものをカンピョウと呼ぶ。栃木県のかんぴょうは全国の生産量の約90%を占めており、ふくべ細工はその副産物として生まれたそう。地方色のよく表れた鬼面だ。

鬼になった兄を退治する沖縄のムーチー


「鬼餅(ムーチー)」は沖縄県で食される縁起物の菓子。平たい餅を月桃(サンニン)の葉で包んで蒸した、もちもちとした甘い餅だ。鬼餅は沖縄本島に伝わる民話が由来になっている。

昔、首里に兄と妹が住んでいた。
この兄には秘密があった。夜になると家畜を襲って食べる鬼だったのだ。鬼は村人たちから、大里ウナー(大里鬼)と呼ばれ恐れられていた。妹は兄を退治しようと兄の好物の餅の中に鉄釘を忍ばせ、月桃の葉で包んだ餅を食べさせた。何も知らずに餅を食べた鬼は七転八倒。妹は鬼となった兄を崖から突き落として退治したという。
このムーチーを霊前に供えたり、縄で縛り天井に吊りさげておく。餅の煮汁は「鬼は外」と戸外にまく。そうすることで、ムーチーは魔よけの役割を果たすのだ。

鬼と食べものの深~い関係

「一寸法師」榎本松之助 画作、出版者 榎本法令舘東京支店(国立国会図書館デジタルコレクション)

桃から生まれたヒーローに退治され(『桃太郎』)、一寸ほどしかない若者に攻撃される(『一寸法師』)。四角に切った石を豆腐と間違えて歯をボロボロにしたり(『歯をボロボロにされた鬼』)、首だけになっても酒を飲むのを止められなかったり(『酒呑童子』)。たいていは悪役だけれど、強くて心優しくい鬼もいる(『ないたあかおに』)。
有名な昔話では虐げられてばかりいるけれど、豆腐が大好きで、軒のムーチーを前にうなだれて帰るしかない鬼の姿を想像してみてほしい。鬼のイメージがちょっと変わらないだろうか?

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