Culture
2020.02.15

「私きれい?」黒髪美女の正体は…都市伝説・口裂け女の発祥に迫る!

この記事を書いた人

元号が令和になり、昭和は平成のさらに前、ものすごく遠い昔のことのようになってしまいました。事実、一緒に飲んだり仕事をしたりする若者が昭和の時代では当たり前だった公衆電話やカセットテープを知らなくて戦慄することがあります。『口裂け女』もそのひとつではないでしょうか。純国産第一号といわれる都市伝説・口裂け女が忘れ去られてしまうのはちょっと寂しい。そんな想いから出自や概要、そして今現在どのように扱われているのかを紐解いていきたいと思います。

子供も大人も恐怖した口裂け女

さまざまな尾ヒレをつけながら人々のあいだを伝播していく都市伝説。口裂け女にも多くの亜種が存在しますが、基本的な情報は以下のとおりです。

■ 黒髪のコートを着た女
■ 美容整形に失敗した女
■ マスクをしていて「私きれい?」と尋ねてくる
■ 「はい」と答えると「これでも?」とマスクを取り、耳まで裂けた口を見せて襲いかかってくる

ほかにも100メートルを3秒台で走る、「ポマード」と3回唱えると逃げていく、べっこう飴をあげると助かるなど普通に考えれば奇妙なことだらけですが、こんな作り話が子供の間だけの噂に留まらず、パトカーが出動したり集団下校する学校があったりしたというのだから集団心理は恐ろしいものです…。

口裂け女は誰が言い出した?

口裂け女は1978年12月のはじめに岐阜県で発祥したという説が現在では有力です。

噂が伝播して間もなく、岐阜県内の民家で老婆が口裂け女を目撃したという事件も「出どころは岐阜」というイメージを定着させているのかもしれません。翌年の1979年の1月には新聞が、そして6月には週刊誌が口裂け女の噂を取り上げ世間に知られるところとなると、直後に兵庫県姫路市内で25歳の女が口裂け女を模倣し包丁を手に徘徊していたところを銃刀法違反で逮捕されました。
岐阜県発祥説には根拠らしいものがいくつかあり、ひとつは1754年(宝暦4年)に現在の岐阜県で起こった農民一揆。特に犠牲者の多かった白鳥村(現在の郡上市)の怨念が今なお伝わっていること。ふたつめは明治時代中期に遠方の恋人に会いに行く際、白装束をまとい、頭に蝋燭を立て、そして口には三日月型に切った人参を咥えて、物騒な山道を越えたと言われています。

メディアとは別のルートで広まり瞬く間に日本中がパニック

岐阜発祥説には実はもうひとつ、こんな話も。
口裂け女が噂され始めた時代は、比較的裕福な家庭の子供しか学習塾に通うことができませんでした。塾に通いたいとねだる子供を諦めさせるために、母親が持ち出したのが『口裂け女』の噂です。貧しさゆえに我が子の向学意欲を妨げざるを得なかったという何とも切ない話ですが、この頃は子供たちの間でも自分の家と他人の家との経済格差が透けて見えることはごく普通のことでした。塾に通えない子が、塾に通う子に口裂け女の話をまったくしなかったとは考えにくいのではないでしょうか。むしろ「塾通いは危険」という優越感を得るために塾に通う子に話したと想像するほうが自然のような気がします。塾は学区をまたいで子供たちが集まってきています。昼間、学校で聞いた噂を塾でも話していたとしたら・・・。噂が噂を呼び瞬く間に日本中に広まっていったとしても不思議ではないかもしれません。

口裂け女陰謀説

1970年代の終わり頃、自衛隊が口コミの伝播傾向を探る実験を行なっていたという噂がありました。この実験には在日米軍とCIAも参加しており、その情報として利用したのが口裂け女だったというのです。しかし、この実験は青森から偽の情報を流し鹿児島までの到達時間を計測するのが主な目的だったと言われており、口裂け女の岐阜発祥説を覆すものになってしまいます。でも、だとしたらこの実験の正体はいったい何だったのでしょうか。

口裂け女は江戸時代から存在していた?

江戸時代の怪談集『怪談老の杖』によれば、大窪百人町(現在の新宿区)で、雨の中傘をさして歩いていた権助という青年が、ずぶ濡れの女とすれ違います。

傘に入らないかと誘いましたが振り返った女の口は耳まで裂けており、その場で腰を抜かした権助はショックのあまりそのまま死んでしまったといいます。別の江戸時代の『絵本小夜時雨』という読本にも、遊郭の客が戯れに引き止めた大夫の口が耳まで裂けていたという記述があります。その後は先の権助とほぼ同じで、ショックのあまり気を失いその客は遊郭通いをやめたそうです。

口裂け女の今

口裂け女の騒動は、1979年の8月になると何事もなかったように収束します。夏休みに入り子供たちが学校や塾で口裂け女を噂しなくなったからではないかと言われていますが、真相はわかっていません。でも自衛隊や米軍が関わっていないのだとしたら、一体誰が何のために口裂け女を生み出し流行らせたのでしょうか。真相が明らかにならない限り、口裂け女の噂が完全に消えることはないのかもしれません。

書いた人

生粋のナニワっ子です。大阪での暮らしが長すぎて、地方に移住したい欲と地元の魅力に後ろ髪惹かれる気持ちの狭間で葛藤中。小説が好き、銭湯が好き、サブカルやオカルトが好き、お酒が好き。しっかりしてそうと言われるけれど、肝心なところが抜けているので怒られる時はいつも想像以上に怒られています。