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Gourmet
2020.09.19

大切なのは素直に楽しむこと。茶の湯初心者に送る茶碗の拝見と見どころポイント

この記事を書いた人

「あ~、この茶碗、いいですね~~~」。なんて言いながら、抹茶茶碗をなでている。こんな場面をご覧になったことは、ないでしょうか。愛おしそうに細める目を見ると、たぶん本当にいいのだろうけど……ほんまかいな? ホントに分かってるんかいな? なんて、心中で突っ込んだことがあるのは、私だけではないハズ。

そんな私でも、お茶の稽古を始めて、色々な茶碗に触れて、ある時ふと、思ったことがある。「あ~~、この茶碗いい。好きだな」。きっと、長いこと多くの茶碗に触れてきて、自分の中で、格や好みによってクラス分けされ、その中でまた作りがいいもののとき、自分の手にピトッとフィットしたとき、ぶわっと内側から感情が溢れるように、「これは、いい」と、感じられるようになったようだ。まるで好きな人に触れたときのように、身体中がぞわぞわしたのを感じた。大げさなようだけど、本当です。

この記事では、茶の湯初心者の方のために、抹茶の頂き方をポイントでご紹介するとともに、茶碗の拝見の仕方についてお伝えしていきます。茶碗の見所が分かれば、それぞれの違いも目に付くようになり、茶碗に触れる楽しさも増すでしょう。

茶道って、難しそう?大切なのは、心。安心して楽しめるように、作法があるんです。

“茶碗と茶筅があれば、お茶は点てられる”と言いますが、茶碗は、お茶を点てて飲む上で、なくてはならないものです。とっても大切だからこそ、ひと椀を選ぶのにも、力が入ります。
「あなたのために、この茶碗を選びました」
「ありがとうございます。とっても素敵な茶碗ですね」
こんな対話を、亭主と客はしているのです。

抹茶を頂くときに、正面に口をつけるのを避けたりしますが、それは、亭主に対する感謝の気持ちと、作り手に対するリスペクトの気持ちからです。茶の湯では、そういった言葉で表さない気持ちを、分かりやすく、所作で表しています。作法=堅苦しいイメージがありますが、その意味を知って、上手く気持ちが伝えられるといいでしょう。

これだけは抑えておきたい!抹茶の頂き方

茶碗の拝見の仕方の前に、まずはざっくりとお茶の頂き方についてご紹介します。作法が分かっていれば、安心して振舞え、お茶を楽しむことが出来ます。

①茶碗を目の前に、一礼する

亭主に対して、頂戴しますという気持ちを込めて、両手を前について礼をします。人数が沢山いるような茶会でなければ、直接亭主に「頂戴します」と言うのも、オッケーです。

②茶碗を右手で取り、左手で下から支えて持つ

「おっと!」なんて手を滑らせ、落とすことがないように、下から手を添えておきます。湯のみでも、お椀でもそうですね。

③茶碗を右か左に少し回し、正面をはずす

亭主と茶碗の作り手にリスペクトの気持ちを込め、茶碗の正面(出されたときに、自分側に向けられているところ)には、口をつけないようにします。「尊重しています」という気持ちの表れです。

④続けて飲まず、数回に分けて飲む

ゆっくり落ち着いて味わってください。最後に飲み切るために、ズッと音をさせてもいいです。口をつけた跡に抹茶がついている場合など、汚れを残しておかないよう指でぬぐい、懐紙かハンカチなどで拭くと尚よいです。

⑤茶碗の正面を戻し、目の前に置き、軽く茶碗を拝見する

亭主は、その茶碗が一番魅力的に見える向きを、正面としてお客様に向けて出します。どの茶碗も、そこを「正面」とします。どの面も似たような雰囲気で、正面が分かりにくいものもありますが、なるべく正面の景色を覚えておくと、迷いません。分かりにくい場合は、多少正面がずれてしまっても大丈夫です。

⑥下げやすい場所に、茶碗を置いておく

茶会では、正面を向こう側に回してから、前方に置いておくと、亭主側が持っていきやすいです。通常は、畳のへりの向こう側に置いておくと、拝見も済んでいることの合図にもなります。

⑦茶碗を持っていかれるときに、また一礼する

亭主または半東(お手伝いの方)が、茶碗を持って行く際に礼をするので、「ご馳走様でした。ありがとうございました」の意を込めて、同じように礼をします。

※流派によって、回す方向など、細かな違いはありますが、どれも上記のポイントは共通しています。作法は作法なだけであって、心が大事。大切なポイントを踏まえて、堂々と振舞えば大丈夫です。

拝見の前に……茶碗の各部名称をチェック

茶碗は、日本人にとって切っても切れない、愛着のある道具です。ご飯を入れたり、おかずを入れたり、小物を入れたりも……? 今でこそ抹茶茶碗として大切にされている、由来のあるものも、その昔は、ご飯茶碗だったり、その辺に捨てられていた器だったりしたそう。その時代の目利きの茶人が、魅力を見出し、見立ててお茶に使うようになったことで、茶道具となったものだったりするのです。

現在、抹茶茶碗として使われているものは、日本で作られたもの以外に、朝鮮や、中国からきたものなどがあります。もともと雑器だったり、別の用途に使われていたものだったり、はたまたお茶を飲むために作られたものだったりと、それぞれ生い立ちが違います。下図で、茶碗の各部名称をご紹介します。

口造りや、高台に特徴がよく出るので、全体の様子と共に、このあたりがどうなっているかを、見てみるのがポイントです。次に、拝見の仕方と細かな見どころを解説します。

いざ、チャレンジ!茶碗の拝見

お茶を飲み終わったあと、どのような茶碗なのかを拝見します。茶碗は、季節や行事ごとに変わったり、亭主の何かしらの意図で、ある茶碗が出されたりします。どのような茶碗をお持ちなのか、どのような茶碗でお茶を飲ませてくれたのか、その心をくみ取ることは、亭主に対する礼儀でもあります。始めは、よくわからなくても、「こういうものか」という気持ちで、拝見してみましょう。

①まずは、全体を眺めてみる

茶碗を拝見する際、まず見るところは、「全体の景色」です。茶碗の、色や形のことです。

茶碗の両脇に手をついて、全体を眺めてみます。柄がなく、無地のモノの方が格が高いと言われています。ひとつの茶碗の中にも、自然に出来た優美な色合いが織り交ざっていたり、見れば見るほど吸い込まれるような、不思議な色をした茶碗もあります。外から見れば、なんともない色をしていたのに、中をのぞくと、驚くほど鮮やかな色が広がっていて、驚かされることも。これは一体なんなんだ?と思うほど、不思議な模様をしているものもあり、面白いです。

茶の湯では、ヒビも、美のひとつとして鑑賞されます。漆や金を用いて割れた部分を修復する技術を「金継ぎ(きんつぎ)」と言います。それらも含め、全体を「景色」と呼び、どのような景色が見られるか楽しみます。

「なるほど、グラデーションかと思ったら、山があるように見える……」
「よく見たら、粒粒のようなものがあって、まるで宇宙のようだ……」
「金継ぎがアクセントになって、モダンアートのようだ……」
色々な感想があると思いますが、素直な気持ちで楽しみます。自分の感覚で面白いなと思う点を探してみてください。分からないことや気になることがあれば、亭主に尋ねても大丈夫です。(ただ、茶会の場合は、「正客(しょうきゃく)」といって、尋ねられる人が決まっていますので、勝手にしゃべらないように……。)

②両手でそっと持ってみる

落として割ってしまうことのないよう、高い位置ではなく、なるべく低い位置で持ちましょう。

床から数センチ程度持ち上げたら、茶碗を回しながらゆっくりと鑑賞します。その際に、茶碗の肌合いも感じてみます。
「ツルツルしている……」
「意外とザラザラしてるな……」
「なにこのフィット感!吸い付くような……」
ここでも、色々な思いが湧きあがるでしょう。あ~この肌触りいいな~と思えば、その茶碗と相性がいいのかもしれません。持ちやすさというのも、茶碗に大事な要素です。大きすぎず、小さすぎず、自分の手に丁度いいもの。もちろん、それは人によって違います。形だけでなく、サイズ的にもお茶が点てやすいというのも茶人は好みます。

③裏返してみる

「花押(かおう)」と言って、作り手の烙印があることがあります。
「あ、あの方の茶碗なのね~」
「〇代目が造られたものね」
……なんて分かれば、かなりの上級者。作り手のサインのようなものなので、覚えておくと、どの人の作なのかが分かるようになります。

高台の形を見て、楽しむ人もいます。高台は、茶碗の良し悪しを決めるとも言います。切り口からは、作り手が最後に土台から茶碗を切り離す作業がどうであったかが見られます。迷いがないような鋭さのある切り口や、丁寧な削り方がされていたり、茶碗の形状に合うように、作り手のスキルやセンスが、問われるようなポイントでもあります。

また、釉薬がかかっていない、地の部分が見えるところなので、使われた土がこんな色だったのかとわかるのも面白いです。すっぴんを見れたような気がして、一段と愛着が湧いたりします(私だけ?)。

注意しなくてはいけないのは、このとき茶碗の中に抹茶が残っていては、下にこぼれてしまいます。最後の一口で、しっかりと飲み切るのは、このためでもあります。心配な場合は、茶碗をひっくり返す前に、畳上(ひっくり返す茶碗の下)に懐紙を置いておくと、スマートです。

④正面が元に戻っているのを確認しつつ、自分の前に茶碗を置く

自分に向けられていた側が、正面でしたね。くるくる回してるうちに、どこが正面だったか……なんてならないよう、正面は覚えておきましょう。亭主にも、正面を向けてお返ししたいからです。手をつきながら、全体を眺め、同時に何も問題のないことも確認し(基本的にないとは思いますが、どこか欠けさせてしまったとか、割ってしまったなど……)、茶碗が元あった場所に戻して置きます。茶会であれば、亭主側が持っていきやすいように、正面を向こう側に回して、前方に置きます。

拝見のポイント

拝見する際のポイントは、素直な気持ちで楽しむことです。
「なんで、ここをこうしたんだろ」
「うわ~上手に釉がかかっていて、綺麗~♡」
「この景色を見ていると、なんだか心が洗われる気がする……」
「斬新!絶対、この作り手面白い人だろうな」
など、見たまんまを感じて想像するだけでも楽しいものです。いい茶碗は、どこかに必ず見どころがあります。是非、見つけてみてください。

作法を覚えるのが難しくて自信がない……そんな方は、「絶対に、茶碗を高く持ち上げないこと!!」そのひとつだけを必ず覚えておきましょう。

まとめ

最後に、茶の湯で一番大切にされている茶碗をご紹介します。侘茶を大成させた千利休は、今でいうミニマリズムをお茶の世界に持ってきて、無駄のない究極の「美」を見い出しました。そんな彼が理想とした茶碗は、瓦職人の長次郎に轆轤(ろくろ)を使わずに手捏ねで作らせたものです。

「こんな茶碗を作ってほしい」と、利休。はじめ、長次郎はお茶も知らず、どういう茶碗がいいのかもわからず、言われるがまま何度も何度も作り直していたそうです。それでも、利休は納得しない。長次郎は諦めようと思っても、お願いする利休の熱意に負け、作り直し続けたそうです。そしてたどり着いたのが、「楽茶碗(らくぢゃわん)」と呼ばれるものです。

長次郎『黒楽茶碗 銘 尼寺』(東京国立博物館所蔵)
「ColBase」収録(https://jpsearch.go.jp/item/cobas-80485)

暗闇のような黒い肌に、静かに佇む存在感。お茶が点てやすく、肌に触れてもしっとり気持ちがいい。手に持ったときの感触、重さ、フィット感。口をつけたときの柔らかさ。鮮やかに抹茶の色が映えるところも、楽茶碗が茶の湯で重宝されている理由でしょう。

茶碗は、「一楽(楽焼)、二萩(萩焼)、三唐津(唐津焼)」と言って、この順で格が高いと言われています。シチュエーションによっては、「格」の高さで、使う茶碗を決めることもあります。本物の楽茶碗に触れられることは、あまりないかもしれませんが、もしそんなチャンスに出会えたら、是非味わってみてください。

茶の湯では、色々と細かいルールのようなものがありますが、一番大切なのは、「楽しく、美味しいお茶を頂くこと」です。英語で、「TEA PARTY」や「TEA GATHERING」と訳されることがありますが、仲のいい者同士で集まって、楽しい時間を過ごす。おしゃべりに花を咲かす。情報交換をするようなサロン的な要素も大きいのが、茶の湯です。その中で、言葉に出さずに心を表すのが、茶碗や他の道具、おもてなし、また客としての心得なのです。茶碗は、手のひらに入る、その瞬間は自分のためだけにある芸術作品です。お抹茶を頂いたときには、ゆっくり鑑賞してみてはいかがでしょうか。

書いた人

好奇心と行動力で何とか生きてきたバックパッカー兼茶人。現在は、日本とフランスを行き来しながら3人の子供を育てている。世界青年の船乗船後、江戸時代から続く茶家にご縁を頂き、本格的な茶の湯修行を始め、現在はフランスでも茶の湯のデモンストレーションをするなどその普及にゆるく励んでいる。心理学を織り交ぜた茶の湯セラピストとしても活動中。