Gourmet
2019.08.15

これ、和菓子なの?創業385年、名古屋の老舗がつくる手のひらサイズの究極の美【グルメ】

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繊細な色合いの美しい和菓子に出合うと、見惚れることもしばしば…。いまどきは、緑茶はもちろん、コーヒーや紅茶だけでなく、シャンパンにも合わせるとか。今回紹介するのは「御菓子所 両口屋是清」の美しい和菓子です。

雲までそびえる富士山の高さと大きさを表現した羊羹

日本の象徴である富士山の四季の移ろいを表した「あまのはら」という羊羹をご存知ですか?春はピンク、夏はグリーン、秋はオレンジ、冬はブルーの煉羊羹で表現された富士山が透明感のある錦玉羹の空にそびえています。切り分ける場所により道明寺の雲や上南羹の雪が現れ、さまざまな表情の富士山を楽しめます。

雲まで届きそうな富士の高さと大きさを表現した棹菓子「あまのはら」

この色鮮やかな羊羹を手掛けるのは名古屋で385年続く和菓子の老舗、両口屋是清(りょうぐちやこれきよ)です。

尾張徳川家の御用菓子を務める

創業は1634(寛永11)年、猿屋三郎右衛門に始まります。1686(貞享3)年には2代目三郎兵衛が二代尾張藩主・徳川光友公から「御菓子所 両口屋是清」の表看板をいただき、以来、今日に至るまで暖簾を守り続けています。

隈研吾氏が手掛けた東山店。四季折々の植栽の庭を鑑賞しながら、和菓子を楽しむことができる

毎年秋に開かれる徳川美術館主催の「徳川茶会」では、主菓子(おもがし)を1964(昭和40)年から担当。尾張藩には徳川将軍家の名物茶道具、柳営御物(りゅうえいごもつ)が最も多く遺されていると言われています。

その由緒ある尾張徳川家由来の茶道具と席を同じくする主菓子を任せられるのは大変名誉なこと。職人たちは毎回、緊張感をもって最高の舞台へとお菓子を送り出しています。

名古屋城へお菓子を献上する際に使用していた通筥(かよいはこ)

ほのかにレモンが香る優しい味わい

「あまのはら」は、両口屋是清が“手のひらサイズの日本の美”をコンセプトにオープンした「和菓子 結(ゆい)」の商品。2016年8月11日に制定された「山の日」を記念して発売されました。

羊羹の温度や流し込む角度に細心の注意を払いながら、一つひとつ手作業で丁寧に作られています。1色ずつ流し固める作業を繰り返し、1棹4日かけて作るそう。繊細なグラデーションには職人の技が生かされています。

どこを切っても同じ姿がないこだわりの配色。季節ごとに半棹も販売

指先に乗るほどの可愛らしい金魚

こちらは金運を招く金魚をモチーフにした「めでたづくし」。和三盆糖でできた干菓子です。今にも泳ぎだしそうな可愛らしい金魚たちは細かいうろこや尾びれの模様までリアルに表現され、ひとつとして同じ模様のものはいません。

目でも舌でも楽しめる和三盆糖の金魚と巻水

木型に入れた生地を打ち出すようにして取り出す干菓子を「打物(うちもの)」と呼びますが、原料も作り方もシンプルであるため、素材の質や職人の技量により味が大きく変わると言われています。

両口屋是清には木型がいくつもありますが、同じ型を使っても力加減ひとつでお菓子の口どけが異なるそう。文化や歴史に思いをはせながら素材を組み合わせ、技術と感性を合わせて日々新しいお菓子を模索しています。

両口屋是清の代表的な干菓子「二人静(ににんしずか)」の手打ち風景。職人から職人へ受け継がれた木型を用いる

和三盆糖はほどけるような口どけが特徴ですが、その分非常に崩れやすく繊細なもの。木型から力強く打ち出すと口どけが悪くなるため、加圧に耐えられない金魚の尾びれにも配慮しながら、できる限り優しく打ち出すそうです。

「めでたづくし」はまさに匠の技を堪能できる、実はとっても贅沢なお菓子です。

木箱入りなので、プレゼントにもぴったり

春には巻水に桜の花びら、初夏には青楓、夏には巻水、秋には3色の紅葉、冬には2色の枯葉と3色の紅葉が金魚とお目見え。季節ごとのバリエーションも豊富です。

和菓子を通じて人と人、心と心、日本と世界を結ぶ

両口屋是清では厳選した北海道産小豆や丹波産大納言小豆を使い、今も伝統にのっとった製法を守り続けています。職人たちはみな美しい和の意匠や雅な世界を伝えられるよう、和菓子で文化を継承していく使命感と誇りを持っています。そして「一人ひとりの人生に寄り添うのが和菓子の本文」と、たった1個の生菓子でも、今なお要望に応じて作ってくれます。

春の代表的な生菓子「都の春」

その一方で、“両口屋是清らしさ”を守りつつ、柔軟に時代の風を取り入れていこうという思いも常に持っているそうです。「和菓子 結」は、そんな思いから誕生したブランド。和菓子が人と人、心と心、日本と世界を結ぶ架け橋になるように、との祈りを込めて「結」と名付けられました。

秋の味覚“栗”を堪能できる生菓子「籬の菊(まがきのきく)」

厚さ0.5ミリで均一にコーティングされた新感覚和菓子

こちらはエクレアのようなかわいらしいフォルムが特徴の「ふゆうじょん」。両口屋是清のベストセラー「志なの路」にチョコレートコーティングを施した新感覚和菓子です。今や「結」の定番人気商品となっています。

「ふゆうじょん」は6種類。左から、ビター、ミルク、きなこ、いちご、ホワイト、抹茶

「志なの路」はしっとりしたこしあんが香ばしい玉子皮に包まれている焼菓子ですが、実は、両口屋是清社内では昔から、チョコがけして食べていたそうです。「ふゆうじょん」は、いつかどこかで商品として世に送り出したい! と、ずっと温めていた味を「結」のコンセプトに合わせてブラッシュアップしたもの。

餡の味を生かすために、チョコレートとトッピングにはずいぶんこだわったそうです。特に、チョコレートコーティングは試行錯誤の連続で、ベストは「厚さ0.5ミリで均一にかけること」を発見! 一つひとつ丁寧に、これまた毎日手作業でチョコレートコーティングしている逸品です。

一見すると、「結」の商品はどれも可愛らしい商品ばかりですが、実は、両口屋是清の歴史と伝統がいっぱいつまった王道のお菓子なのです。和菓子を通じて日本文化を伝えることができる存在として“両口屋是清らしさ”は少しもブレていません。

和菓子『結』店舗情報

住所:〒151-0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷5-24-55
NEWoMan新宿新南口駅構内(エキナカ)
公式webサイト:http://www.wagashi-yui.tokyo/

書いた人

医療分野を中心に活動。日本酒が好き。取材終わりは必ず美味しいものを食べて帰ると心に決めている。文句なく美味しいものに出合うと「もうこれで死んでもいい!」と発語し、周囲を呆れさせる。工芸であれ、絵画であれ「超絶なもの」に心惹かれる。お気に入りは安藤緑山と吉村芳生。