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2017.05.19

足立美術館を代表する近代日本画の3大名作を徹底解説

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足立美術館の所蔵する近代日本画の貴重なコレクション、その一部を紹介します。

足立美術館近代日本画コレクション3選

現在、足立美術館には、足立全康が心血を注いで蒐集した珠玉の近代日本画コレクションをはじめ、近年になって蒐集に力を入れている現代日本画など、総数1500点におよぶ日本美術の優品が所蔵されています。ここでは、日本屈指の質の高さを誇る足立美術館所蔵の近代日本画の中から、3巨匠の3大名作をご紹介。これを見ずして近代日本画を語ることなかれと言わずにはいられない、優品中の優品をご堪能ください。

足立美術館のコレクション1.横山大観『紅葉』

横山大観の絵の魅力が凝縮した清冽にして華麗な大作

足立美術館の全コレクションの中で、質、量ともに最も充実しているのが横山大観の作品です。その総数は120点余り。これほどの大観作品を所蔵している美術館は、日本広しといえどもほかに例がありません。昭和45年の美術館開館当時、既に現在の基盤となる大観作品がほぼコレクションされていたと言い、その蒐集期間はわずか10年余りという短さ。足立全康の横山大観作品に対する並々ならぬ情熱が伝わってくる逸話です。

中でも、この『紅葉』は、昭和53年に名古屋で開催された「横山大観展」に戦後初めて出品され、足立全康がひと目見た途端、「言葉もでないほどの感銘を受けた」という作品でした。生前、足立全康は大観作品の魅力について、次のように語っています。
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「大観の偉大さを一言で言うなら、着想と表現力の素晴らしさにあると思う。それは恐らく誰も真似できないだろう。常に新しいものに挑戦し、自分のものにしていったあの旺盛な求道精神が、その作品に迫力と深み、そして構図のまとまりの良さを生んでいる」

足立のそんな指摘が最もよく表されているのが、足立美術館所蔵の大観作品の中でも最も絢爛豪華な趣を湛えた本作。

六曲一双の大部分を群青に彩色した上で、白金泥と箔によるさざ波を表現。そこに今を盛りと燃えるように大胆な真紅の紅葉を配し、清冽にして華麗な日本の秋の風情を演出。単なる装飾画に終始せず、画面全体に気品と緊張感を漂わせている点が大観作品の真骨頂であり、本作が絶品とされる所以です。
スクリーンショット 2017-05-18 10.39.21横山大観『紅葉』六曲一双 紙本彩色 各163.3×361.0㎝ 昭和6(1931)年 足立美術館蔵

足立美術館のコレクション2.竹内栖鳳『雨霽』

栖鳳ならではの卓越した描写と構図が冴える

明治、大正、昭和にかけて活躍し、先の横山大観とほぼ同時代に近代日本画壇を牽引する存在となっていたのが、京都を舞台に筆を揮った竹内栖鳳です。

現在では、圧倒的な知名度を誇る横山大観の陰に隠れた存在のように見られがちですが、当時はその鋭い筆さばきから、“東の大観、西の栖鳳”と並び称されるほどの実力者として高い人気を誇っていました。そんな栖鳳の魅力はなんといっても、繊細にして優美な描写と極限の筆さばきとも言える超絶技巧にあります。

18世紀の京都画壇を代表する絵師・円山応挙と呉春を祖とする円山四条派の流れを汲む栖鳳は、江戸時代からの伝統的な絵画様式の上に、西洋的な写実表現を取り入れた、まったく新しいスタイルの日本画を確立。その後の日本画壇に、大きな影響を与えたことで知られています。
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足立美術館にも、そんな栖鳳の画力の凄さを伝える名作が数多くコレクションされていますが、中でも注目してほしい作品がこの『雨霽』です。

雨上がりの瑞々しくも爽快な一瞬の情景を、高度で繊細なタッチによって描き出した本作は、対象を素早く的確に表現しようとした竹内栖鳳の洗練された筆技と、彼の自然を見つめる温かい眼差しを感じることができる貴重な一作。

日本の伝統絵画の様式をさらなる高みへと導いた、近代日本画のもうひとりの巨匠の凄みを体感してほしいと思います。
スクリーンショット 2017-05-18 10.45.02竹内栖鳳 『雨霽』六曲一双 絹本着色 各171.2×369.0㎝ 昭和3(1928)年

足立美術館のコレクション3.上村松園『娘深雪』

物語のヒロインを描いた大正期の可憐な美人画

先の京都画壇を代表する巨匠・竹内栖鳳に師事し、その類い稀なる才能を発揮したのが、美人画の大家として知られている上村松園です。

彼女は、町方の女性や謡曲の主人公、歴史上の王朝美人などを主題にした美人画を数多く手がけ、その生涯をかけて理想の女性像を追い求めた画家でした。

足立美術館に所蔵される松園作品には、南北朝を代表する武将・楠木正成公の妻の姿を描いた『楠公夫人』や、浮世絵美人図を思わせる『牡丹雪』など、上村松園の真骨頂と呼べる優れた美人画が多数ありますが、中でも代表的な一作がこの『娘深雪』でしょう。
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人形浄瑠璃で有名な「生写朝顔話」のヒロインである秋月深雪の初心で可憐な姿を見事な筆致で描いた大正期松園の傑作と言われています。

逢えない恋人に想いを寄せる、気高くも柔和な深雪の表情や、繊細な着物の描写は必見です。

-2014年和樂4月号より-

足立美術館 基本情報

住所: 〒692‐0064 島根県安来市古川町320
開館日:年中無休
開館時間:
夏季 4月-9月・・・9:00-17:30
冬季 10月-3月・・・9:00-17:00
webサイト: https://www.adachi-museum.or.jp/