Culture

美しい手仕事でつながる3つの「雛」の物語

桃の節句にまつわる文化史ミステリー

長寿を願う桃や厄除けの猿、神の遣いの白うさぎ──「つるし雛」は、絹の端切れでつくった可憐な布細工をつるし、娘や孫の初節句を祝うという、日本独自の風習です。発祥は江戸後期。今では、山形県の酒田(さかた)、静岡県の伊豆稲取(いなとり)、福岡県柳川(やながわ)の3か所でしか見られないのだとか。遠く離れたこの3つの町で、なぜ同じ文化が育まれたのでしょう?

「つるし雛」のルーツを求めて春の旅へ

雛祭りの「つるし飾り」という風習の始まりは早咲きの河津桜(かわづざくら)が美しい、静岡県の稲取温泉。母や祖母が手づくりした飾りで女の子の初節句を祝おうという、素朴な庶民文化だったのです。雛人形をつるすのではなく、着物の端切れ(はぎれ)を縫い合わせて綿を入れた布細工を、雛壇の両側に飾りつけたのが原点。現在では、直径約25㎝の下げ輪に、11個の飾りを付けた赤い糸を5本つるし、これを対で飾るのが基本の形になっています。

つるし飾りは本来、嫁ぐころに“どんど焼”に納めて焚き上げるもの。しかし、思い出の飾りをどうしても納めきれず、大事にしまっておく人もいたそうです。

ところ離れて福岡の美しい城下町。川下りで知られる水郷(すいごう)柳川にも、つるし飾りで桃の節句を祝う庶民の風習「さげもん」があります。こちらの発祥は諸説あり、ひとつは高価な雛人形が買えない代わりに古着の端切れで小物をつくって祝ったという説。もうひとつは、城の奥女中が着物の裂(きれ)で琴の爪を入れる袋物をつくり、腰にさげて飾ったのが始まりという説。いずれにせよ、伝統工芸の“柳川まり”とともに伝承されたといわれます。

さげもんは、雛段の両脇に左右対称で飾るのが正式。まず、一尺三寸(約40㎝)の竹の輪に赤布を巻き、7個の飾りを付けた糸を7本つるします。さらに大きな柳川まりを2個加えて飾りは51個。これを対でつるすのです。

さげもんと、稲取のつるし飾り。形は似ているものの、つながりは定かではありません。ただ、江戸時代に物流を支え、伊豆を寄港地のひとつとしていた廻船(かいせん)「北前船」が、近畿以南へ廻る西海道として、肥前国(今の柳川に近い佐賀や長崎)に寄っていた史実もあり。いつかどこかで、船を介した交流が行われたとしても不思議ではないのです。

つるし飾りをめぐる、不思議な文化交流。鍵を握るのは、江戸時代の“北前船”?

北前船の港町として発展した山形県の酒田。のどかな水田が広がるこの町では、まだ肌寒い2月下旬から、ひと足早い雛祭りが開かれます。赤い幕を張った大きな傘に、手づくりの飾り物をつるした「傘福」がその主役。町中が、赤い傘の飾りで賑わいます。

現在も昭和50年代の傘福が奉納されている海向寺の観音堂。地元の女性が家族の幸せを願ってつくった傘福の下で、お寺の方のお話をうかがいました。「本来の傘福は、個人の家に飾るものではなく、女性たちが力を合わせてつくり奉納するものです。祈りを込めると同時に、手仕事に集中することで心が穏やかになり、隣人同士のコミュニケーションにもなる。とてもいい信仰の形ですね。伊豆や柳川のつるし飾りと相似点があるともいわれていますが、同じ国のこと、どこかで文化交流はあったのでしょう。各地に似たものがあるのもうなずけます。むしろ、それだけ人が心を寄せやすく、心惹かれる祈りの形なのだと思いますよ」

雛のつるし飾りまつり

伊豆稲取温泉
2017年1月20日(金)〜3月31日(金)

さげもんめぐり

柳川雛祭り
2017年2月11日(土)〜4月3日(月)

酒田雛街道

酒田
2017年3月1日(水)〜4月3日(月)

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