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2016.04.30

歌川広重のビビッドカラーの浮世絵にビビビときた! 

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ゴールデンウィークの到来とともに、爽やかな気候、そしてフレッシュな新緑の季節となりました。風薫るこの時期は、江戸がいちばん美しくみえるもの。浅草や神田では祭りが開催されころでもあります。江戸っ子が待ちに待った初鰹もこの時期。

「目には青葉山ほととぎす初鰹」という山口素堂の句は、実によくこの時期の江戸っ子の気分を表しているように思います。

もうひとつ、ゴールデンウィークといえば、旅行のシーズン。雑誌に掲載された美しい旅の風景写真をみて、旅心をかき立てられる・・・なんてこともあるでしょう。

と、前置きが長くなってしまいましたが、そんなこの季節にぴったりの日本美術の展覧会が開催されています。それが4月29日から東京六本木のサントリー美術館http://www.suntory.co.jp/sma/「で開催中の「原安三郎コレクション 広重ビビッド」展です。ということで、行ってまいりました内覧会!

(写真下右の絵は『名所江戸百景 堀切の花菖蒲』)

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全国各地の名所を、広重の浮世絵でたどる

今回の「広重ビビッド」展では、人気の浮世絵師、歌川広重の作品のうち『六十余州名所図会』『名所江戸百景』を中心に、葛飾北斎、歌川国芳もまじえ、風景画浮世絵の一大オンパレード! その出展作品数約150点以上という豪華さです! 

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(写真上は『名所江戸百景 八つ見のはし』)

特に『六十余州名所図会』に関しては、旧分国でいう68か国の絵すべてと江戸の1枚、目録1枚を合わせた全70点がすべて一挙展示。これは、これまでにはなかったことだそうです。しかも、前後期通期で全点を展示するということですから、美術ファンならずとも興味をそそられる展覧会なわけです。

全国68か国の絵が全部あるということは、自分の出身地や、これまで旅で行ったところの風景も必ずみつかるはず。自分の過去の記憶を思い出しながら広重作品を鑑賞されるのも一興です。

『信濃 更級田毎月 鏡台山』や『甲斐 さるはし』『周防 岩国錦帯橋』など、現在の風景とあまり変わらないところも多々。

今回の展示では、浮世絵の場面と同じ場所の現在の風景写真を一緒に展示している場合もあり、興味がそそられます。

アンドリューは、和樂編集部の三銃士のそれぞれの出身地の絵をまずはチェック。伝統芸能&旅記事担当のモッチの故郷は三重県伊賀地方。作品名では『伊賀 上野』(写真下大)となっています。現在はだいぶ変わってしまったようですが、小さく描かれた上野城に今に通ずるものを感じます。続いて岐阜出身の洗馬編集長。所縁の作品は『美濃 養老ノ滝』(写真下右)。岐阜県養老郡の養老公園内に今もある滝とこの絵の滝の違い、どんな感じでしょうか? 

そして大阪市東住吉区出身のアンドリューは『摂津 住よし 出見のはま』(写真下左)を。 

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ありましたね、それぞれの出身地の絵が!

さらにはアンドリューの嫁の実家=広島県備後地方をチェック。こちらもありました、ありました! 『備後 阿武門観音堂』 この阿武門(現在は阿伏兔<あぶと>観音といわれる)に今年の正月に行ったときの写真もあるので見比べてください。ほほお! なんだか、まったくそっくりじゃないですか!

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広重は、実際には全国各地に足を運んで描いたわけではないといわれていますが、この類似性(=写実的といってもいい)と、旅心をよりかき立てるデフォルメ(=こころ後押し演出というべきか)は、みごととしかいいようがありません。

浮世絵には実際に絵師が描いた肉筆浮世絵と、浮世絵師が描いた絵を元に彫師が彫り、摺師が摺って完成させた木版画の浮世絵とがあります。

木版画の浮世絵は、1作品1点というわけではないので、より多くの人たちの手に渡ったもので、その中でも風景画を描いた『冨嶽三十六景』や『東海道五拾三次』、今回の『六十余州名所図会』などは、現代でいえば雑誌かガイドブックみたいなものといってもいいかもしれません。そう考えると、広重は、今でいえば、当代随一の人気風景写真家(?)のような存在でしょうか?

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この『六十余州名所図会』が出版されたのは、幕末、嘉永6(1853)年のこと。当時の人たちはこの絵をみて、どれだけ旅心をかき立てられたことでしょうか。情報が氾濫し、ヴァーチャルな技術が進歩した現代にあっても、旅情を強く刺激される広重の風景画。当時の衝撃いかばかりかと想像してしまいます。

ひとりの実業家がこだわり続けた奇跡の浮世絵コレクション

今回の展覧会は、すべてひとりの蒐集家によって集められた、空前絶後のコレクションだけで構成されています。その浮世絵を蒐集したのは、明治大正昭和を生きた実業家で財界の重鎮としても知られた原安三郎氏。原氏は旅好きで、そのため風景画浮世絵の蒐集にも熱心であったと、内覧会で説明がありました。

「原安三郎コレクション」の特徴は、先ほども申し上げましたが、風景画浮世絵が多いこと。そして何より、摺(すり)の状態が際だって良く、美しい発色を維持した作品ばかりであるということです。

浮世絵は版画ですから、同じ作品が複数存在します。当然ながら、作品ごとに摺の状態が違い、そのことによってみための印象が大きく異なります。また、保存状態によっても、劣化(紫外線や虫食い等によって)の具合が違い、そのことでも大きく印象を異にすることになるのです。

その点、原安三郎コレクションは、「初摺(浮世絵師が描いた作品を版木におこし、最初に浮世絵師の指示の元に摺られた版画)」にこだわったといわれていますから、その素晴らしさは驚くばかりです。また、これまであまり公開されてこなかったこともあり保存状態も抜群!

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(写真上は、原安三郎氏が愛した、地元徳島の風景を描いた『六十余州名所図会 阿波 鳴門の風波』)

海の深いブルーのグラデーション、夜の闇が忍び寄るその微妙な表現など、「どうしてこんなことが版画でできるのか」と瞠目してしまいます。

今回の作品の中には、アンドリューがこれまで何回か別の摺で拝見してきた作品もありますが、「あれ、こんな色だったっけ?」と思うことも多く、やはり摺の良い浮世絵の素晴らしさをあらためて思い知った限りです。

今回の広重展は、ともかく、理屈抜きに「色がきれい!

絶対絶対会場にて、その鮮やかな色=ビビッド感を堪能してくださいね。

「初摺(しょずり)」だけに息づく、広重の真意とは?

「初摺」というのは、絵師自らが摺の現場に立ち会い、様々な指示を出しながら仕上げて摺ったものだそうです。つまり、今回出展されている「初摺」の浮世絵は、広重本人が現場で、「こうしたい!」という強い思いをぶつけて完成したものということになります。ですから、「初摺」の作品を通して、広重と対話している気分にもなるわけです。

一方、「初摺」に対する言葉が「後摺(のちずり、もしくはあとずり)」といいます。この「後摺」になると、絵師の思いよりは、より版元の“営業的観点”が盛り込まれるようになるため、より効率的で、時には簡便な摺が求められるようになったのだそうです。

今回の展示では、同じ作品で「初摺」と「後摺」を並べて展示しているものもあり、ふたつの違いを明快に理解することができます。

その作品は、『六十余州名所図会 江戸 浅草市』。「初摺」(写真下左)では、夜空に微妙なグラデーションが描かれ、またキラキラと小さな星もちりばめられているのに、「後摺」(写真下右)作品になると、空の色が平坦で、星の表現もあまり繊細にはみえません。

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この「初摺」「後摺」比較展示は、「初摺に込められた、絵師の執念」をよりよく理解する上でも大変興味深いものでした。

え? 浮世絵にミスプリントがあった?

「初摺」の貴重さばかりを説明してきましたが、「初摺故の間違い」もあったといいます。現在でも、初版本には誤植がいくつか紛れていることがありますが、それと同じことです。

今回の展示の後半部分を占める、『名所江戸百景』というシリーズの中の『亀戸天神境内』という作品がそれです。本来は太鼓橋の下の空の色を、橋の上と同じ色で摺らなければならないのに、池の水面と同じブルーで摺ってしまっているのです。

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切手収集家やお札のコレクターたちにとっては、「ミスプリントもの」が逆に大変貴重で好まれ、高値で売買されると聞きますが、それと同じで、この間違い「初摺」の『亀戸天神境内』も、逆に大変な美術的意味が出ているといえるのかもしれません。

ゴッホをも驚愕させた、超奇抜な構図を堪能しよう!

展覧会の後半をしめる『名所江戸百景』(計120点。うち約半数ずつを前後期に分けて展示)は、広重という異能の絵師の、奇才ぶり、天才性が全面爆裂している作品集です。

構図の奇抜さは、これでもかというくらいに縦横無尽、多彩満載! 遠近感なんて言葉ではいい表せないほどの極端で、大胆な構図が使われています。

『深川萬年橋』(写真下左)や、ゴッホが模写したことで有名な『亀戸梅屋敷』(写真下右)などをみていると、その構図において広重が世界のアーティスト、美術史に与えた影響、衝撃の大きさを考えないわけにはいきません。

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さて、『名所江戸百景』は人気の作品群なので、これまでに何度となく写真や美術展でご覧になったという人も多いでしょう。そこで「ああ、あれは前にもみたことあるし・・・」などと思っては、ソンしゃちゃいますよ。良い摺の浮世絵でみることで、度肝抜かれるほどに美しく、心をわしづかみにされますので!

『大はしあたけの夕立』、それに先にご紹介した『深川萬年橋』『亀戸梅屋敷』、さらには『深川州崎十万坪』『王子装束ゑの木大晦日の狐火』の5点は是非是非、じっくりご覧になってください。誰もが一度はみたことのある名作ですが、美しい摺でみると、別物のようにさらにその魅力にとりつかれることでしょう。

この5点は前後期通しの展示ですから、いつ行かれてもご覧になることができます。

なかでもアンドリューは、『深川州崎十万坪』という作品に、編集者としての心を刺激されました

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白々と広がる荒涼たる埋め立て地と遠くにそびえる筑波山。その上に大胆に描かれた鷲。みごとな構図。そしてみごとな描写力と雲母(きら)まで使った贅沢な摺!

州崎は当時、運河に囲われた地で、幕府も埋め立てをしながら、そのままにしていた土地だったそうです。つまりその当時は「名所」ではなかったわけです。そんな名所ではないところを、みごとな構図とアイディアで人々を魅了し、「名所絵」にしてしまった。

「魅力のみつけにくいところでも魅力的にみせていく」というのは、私たち編集者にいちばん求められる技能ですが、この『深川州崎十万坪』ほど、“何にもないところ”を“なんとも魅力的な世界観”に変えた作品は、他にはないのではないでしょうか?

広重の浮世絵は何よりみていて楽しく、心浮き立つものがあります。江戸時代の空気や音までもが聞こえてきそうですし、次から次へと繰り出される奇抜な作品アイディアに、思わず「ほーーっ!」と驚くことしきりです。

”北斎の幻の名作”一挙公開の衝撃!

実はこの展覧会、広重だけでなく、北斎と国芳の名作も展示されます。『神奈川沖浪裏』『凱風快晴』(北斎)、『近江国の勇婦お兼』(国芳)などの有名作も登場します。

(下写真左は葛飾北斎の『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏』、下写真右は歌川国芳の『忠臣蔵十一段目夜討之図』)

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さらに、美術に詳しい方には是非見逃せないのが、北斎幻の作品といわれる『千絵の海』全10点。この10点すべてを所蔵しているところは他にないということですので、今回の展示はこれまた大変貴重なこととなったわけです。

ミュージアムショップでは”長生き飴”をゲット?

最後に、恒例のアンドリューお勧めミュージアムグッズを! 今回はこの『深川萬年橋』がふたに描かれた缶入りの「榮太郎飴」(写真下左 864円税込)。ひょうきんな感じもするし、なんか飴をなめるだけで長生きできそうな気にもなりませんか? (写真下右は、とってもかっこいい今回の図録! オススメです!)

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ということで、今回も長―く、だらだら・・・思いつくままにお送りしたアンドリュー橋本の内覧会狂想曲でした。

この「原安三郎コレクション 広重ビビッド」展の会期は、6月12日まで。5月23日までが前期、5月25日からが後期です。『六十余州名所図会』と北斎の『千絵の海』は、全作品を前後期通期展示。『名所江戸百景』は通期展示のものと、展示替えされるものがありますので要注意!

初夏の風とともに、広重のビビッド浮世絵みて、ビビビビビ!と楽しんでくださいね!おしまい!

サントリー美術館http://www.suntory.co.jp/sma/「