かわいい日本画まとめ。水墨画や浮世絵の作品を歴史ごとに解説

かわいい日本画まとめ。水墨画や浮世絵の作品を歴史ごとに解説

目次

かわいい動物などの描かれた水墨画や浮世絵。有名な作品や絵師と共に、歴史を辿ってみましょう。

平安時代、かわいい作品はなかなか現れず

平安時代中期、贅沢で雅な王朝文化が開花。それまで唐にならっていた芸術文化にも、日本独自のアレンジが加えられていくようになります。その最も顕著な例が、漢字から仮名文字を発案したことでした。「国風文化」は絵画にもおよび、以前は中国で描かれた手本に忠実な「唐絵」(からえ)一辺倒だったところに、日本の景色や自然、人物を描く「やまと絵」が台頭(たいとう)してきます。そして、当時の貴族たちは、寝殿造りの住居の障屏画(しょうへいが)を公式な場は唐絵、私的な空間はやまと絵と使い分けるようになりました。この、唐絵=公、やまと絵=私という区別が、その後のやまと絵発展の大きなカギになります。主に私的な楽しみに用いられたやまと絵は、自由な発想が反映されるようになり、仏教の経典(きょうてん)から物語まで幅広いジャンルの絵巻へとつながっていったのです。

『鳥獣人物戯画』甲巻(ちょうじゅうじんぶつぎが こうかん)

主に私的な楽しみに用いられたやまと絵は、自由な発想が反映されるようになり、仏教の経典(きょうてん)から物語まで幅広いジャンルの絵巻へとつながっていったのです。その最高峰が『鳥獣人物戯画』(ちょうじゅうじんぶつぎが)。サルやウサギ、カエルを擬人化した絵巻は、まさに漫画の原点!

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所蔵:京都 高山寺 平安時代後期(12世紀)

墨の線だけで描いた「白猫」の傑作とされる4巻からなる絵巻の中でも、とりわけ有名なのが、サルやウサギを擬人化したこの甲巻。このような擬人化は、八百万(やおよろず)の神を崇める日本人の心情によって生み出されたもので、日本人の「かわいい」好きの原点がここに。

『孔雀明王像』(くじゃくみょうおうぞう)

平安時代後期には法華経(ほけきょう)が信仰を集め、末法思想(まっぽうしそう)が流布し、貴族たちは華美で装飾的な仏画に祈りを込めるようになります。そのころに描かれた『孔雀明王像』(くじゃくみょうおうぞう)は柔和な表情になっていて、クジャクの姿はデザイン化され、「かわいい」そのもの。

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所蔵:東京国立博物館 平安時代後期(12世紀前半)

色彩豊かで截金(きりかね)を多用した、末法の世に制作された仏画の最高峰。密教の「明王」(みょうおう)は本来、恐ろしげな表情をしているものですが、この「孔雀明王」はなんとも穏やかで優しげ。しかも、クジャクはどこかとぼけたような表情をしていて、全体にデフォルメされた姿とともに、なんとも愛くるしいことでしょうか。

室町時代、武士の世に異彩を放つ水墨画

その後の南北朝という混沌(こんとん)の時代から室町幕府の成立による新しい武家政権の時代にかけて、ようやく「かわいい」の新たな担い手が現れます。その1番手が日本で最初に禅画を描いたとされる禅僧・可翁(かおう)です。そのシンプルでラフなタッチは宋風の水墨画と異なり『竹雀図』(ちくじゃくず)のスズメのように、そこはかとないかわいさを可翁は無意識のうちに描き出していたのです。

可翁『竹雀図』(かおう ちくじゃくず)

くちばしを開いて中空を見つめ、今にも飛び立ちそうなスズメ。あどけなく、かわいらしい一瞬を墨だけで見事に描きあげた可翁の傑作は、丹念にスズメを写生した賜物。かくもスズメがかわいく見えるのは、小さきものを愛おしむ画僧の優しい眼差しによるものなのでしょうか。

鎌倉時代、室町時代、日本美術のかわいい名作を辿る
紙本墨画 掛幅1幅 90.4×30.3㎝ 重要文化財 所蔵:大和文華館

式部輝忠『巖樹遊猿図』(がんじゅゆうえんず)

水墨画の発展はとどまることを知らず、画僧・雪舟等楊(せっしゅうとうよう)の登場によって日本の水墨画はひとつの頂点を迎えます。そして水墨画を受け継いだ狩野正信・元信によって狩野派が形成された室町時代後期に、元信に影響を受けたとされる式部輝忠(しきぶてるただ)が「かわいい」の救世主として現れます。その代表作のひとつである『巖樹遊猿図』(がんじゅゆうえんず)を見ると、それぞれのサルの仕草や動きは擬人化されていて、見事にキャラクター化されています。

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紙本墨画 六曲一双/149.0×333.0㎝/重要文化財/所蔵:京都国立博物館

大胆な構図の中にサルの群れを生き生きと描いた一双の屏風。作者である式部輝忠の略歴などは不明な部分が多い、知る人ぞ知る存在の絵師です。近年、その画業についての研究が進んでおり、ますます注目されるようになってきています。

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室町時代の絵巻はかわいいキャラの宝庫!?

近年注目を集めているのが、室町時代に描かれた絵巻です。『築島物語絵巻』、『浦島絵巻』、『雀の小藤太絵巻』などに描かれたキャラはいずれも拙さが残るものの、それがかえってかわいい味わいを強調。ノンフィクションの世界を舞台に、のびのびと表現された人物像や擬人化された動物たちの素朴な姿は、つい引き込まれてしまうような魅力に溢れています。

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江戸時代、琳派、浮世絵、禅画…かわいいが爆発!?

室町時代までの「かわいい」の流れを見ると、中国伝来や幕府御用といった本格とされる絵より、やまと絵や禅画のように私的に楽しまれた絵に多かったことがわかります。その傾向は江戸時代の庶民文化の発達とともに一気に爆発します。

俵屋宗達『犬図』

先駆けとなったのは、京都の町絵師から身を起こした俵屋宗達(たわらやそうたつ)です。だれにおもねることなく、みずから描きたいものを追求した宗達は、『犬図』のようなあどけない水墨画をはじめとした遊び心に溢れた絵を描き、京都の町衆にもてはやされるようになります。やまと絵をベースにした宗達の画風は、後に尾形光琳や酒井抱一が受け継ぎ、琳派と呼ばれるようになり、デザイン性の高いグラフィカルで「かわいい」画風を完成させるのです。

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俵屋宗達『犬図』時代/江戸時代前期 所蔵/西荒井大師總待寺

歌川国芳『かゑるづくし』

江戸時代を代表する美術といえばもうひとつ、歌舞伎や遊郭、相撲など町人に人気の題材を描いた浮世絵があります。人々の好みに応じて浮世絵師たちが、自由に腕を振るい、斬新でインパクトのある表現を競い合う中でも、創造性で名を馳せたのが歌川国芳(うたがわくによし)。愛する猫の姿態を描き、カエルや金魚、動物を擬人化するなどして、様々なものに「かわいい」命を吹き込んだのが国芳の功績です。
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歌川国芳『かゑるづくし』時代/江戸時代・天保13年ごろ 所蔵/個人蔵

奇想(きそう)と称される絵師たちも…

また、鶏の連作で有名な伊藤若冲は動植物を題材にしたユーモラスな作品も多数手がけ、同時代の曾我蕭白や長沢蘆雪らの「奇想」と称される絵師たちもまた、随所に「かわいい」センスを発揮。さらに、写実的でわかりやすい絵で京都画壇をリードした円山応挙は、子犬をはじめとした愛玩動物のかわいらしさを余すところなく描いています。

スクリーンショット 2017-07-06 12.20.29『虎図』一幅 紙本墨画 112.0×56.5㎝ 18世紀・江戸時代 石峰寺

また江戸時代の東海道・大津(滋賀県)で人気の土産物「大津絵」は人生訓や護符の意味を表したもの。定番キャラ『鬼の念仏』は偽善を戒め、子どもの夜泣きを治すという言い伝えもありました。
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仙厓義梵『猫に紙袋図』

そしてもうひとり忘れてはならないのが、市井での布教に即興画を用いた禅僧・仙厓義梵です。求められるままに禅画を描いたとされる仙厓の絵は、今で言う「へたうま」の極致。そこはかとないかわいらしさに溢れていて、自然と笑みがこぼれてしまうような慈愛に満ちた禅画を数多く残しました。
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仙厓義梵『猫に紙袋図』時代/江戸時代後期 所蔵/福岡市美術館

動物には負けてられない!日本美術史上かわいいキャラ

日本美術に登場する様々な動物のかわいさは、思わず目を細めてしまうような、直截的な魅力に溢れています。しかし、日本美術の「かわいい」表現は動物のみにとどまりません。たとえば、人間や妖怪など本来かわいいという形容とは無縁のものまでかわいく描いたり、動物や鳥はもとより物にいたるまで人間に見立てたり……。このように豊かな創造性は、他国の美術にはあまり見られないものであり、日本美術の凄さを表すものだと言ってもいいでしょう。

そんな創造性を感じさせる、「日本美術史上の十大キャラ」の中でも筆頭は、葛飾北斎の百物語『お岩さん』。江戸の人々を震え上がらせた幽霊・お岩さんを提灯のキャラクターにした絵は、怪異な中にそこはかとないおかしみがあります。そこには、ただ絵を極めるだけでなく、自分なりのアイディアを訴えた北斎の画境さえ感じられます。

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浮世絵初期に活躍した鳥居清倍の『初代市川団十郎の竹抜き五郎』は、人気役者を金太郎のようなパワフルなキャラに仕立て上げていて、そのデフォルメのテクニックには感心させられます。

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日本人特有の感性である「かわいい」はこのように、江戸時代に確立されたのです。

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