Art
2019.06.11

意外な作品がランクイン?! バレル・コレクション展で人気の絵画作品ベスト10は?

この記事を書いた人

6月30日までBunkamura ザ・ミュージアムで注目展「印象派への旅 海運王の夢 バレル・コレクション」が開催中です。イギリス・グラスゴーで「海運王」として成功したウィリアム・バレルが収集した、印象派を中心とした絵画コレクションが来日中。バレルの遺志により、長らくイギリス国外へは門外不出とされていたため、全80点中、76点が日本初公開と、西洋絵画ファンには見過ごすことができない屈指の美術展となっています。

展覧会では様々なオリジナルグッズが制作されていますが、特に人気なのが、全25種類と豊富に用意されたポストカードです。そこで展覧会では、このポストカードの売上人気ベスト10を集計中。6月初旬にその中間集計結果がまとめられました。

和樂Webではこのベスト10について主催者から詳しい情報を入手。予想に反して非常に興味深い結果となりましたので、ベスト10を絵画の見どころや短評とともにまとめてみることにしました。それでは、早速第10位から見ていくことにしましょう!

意外な作家が浮上!ポストカード人気ベスト10はこれだ!

第10位:ヤーコプ・マリス 「ペットの山羊」

1871年 油彩・カンヴァス © CSG CIC Glasgow Museums Collection

バレル・コレクション展では、印象派をはじめとしたフランス人作家だけでなく、ウィリアム・バレルが好んだ地元グラスゴー出身作家による水彩画作品や、落ち着いた色調で写実的な風景画を描いたオランダ・ハーグ派の作品も多数出品されています。第10位は、ベスト10にランクインした中では、唯一オランダ・ハーグ派に属するヤーコプ・マリスの作品。農村郊外で、ヤギにエサをあげる少女の飾り気のない自然な表情が印象的です。本展では、他にも多数ヤーコプ・マリスの作品が展示されていますが、幼い少年少女の素朴な日常風景を捉えた佳作が目立ちます。

第9位:ピエール・オーギュスト・ルノワール「画家の庭」

1903年頃 油彩・カンヴァス、ケルヴィングローヴ美術博物館蔵 © CSG CIC Glasgow Museums Collection

第9位は巨匠・ルノワールの小さな風景画作品がランクイン。ルノワール晩年期特有の明るい画面に粗いタッチで、南仏の明るい日差しの中、庭の木陰で本を読む女性が描かれています。本作はルノワールが息を引き取ったカーニュの自宅レ・コレット荘かエッソワのアトリエかどちらかがモデルと言われています。自宅の庭でのんびりと昼間から読書とか本当に贅沢な光景ですよね。

第8位:アンリ・ル・シダネル「月明かりの入り江」

1928年 油彩・カンヴァス © CSG CIC Glasgow Museums Collection

月明かりにぼーっと浮かび上がる夜の波戸場を叙情的に描いた作品。至近距離でぐっと近づいて見てみると、深緑から濃紺まで細かく「青色」が描き分けられた画面の中には、黄色や赤、紫といった絵の具も置かれており、いろいろな色彩が混ざり合っていることが見て取れます。本作は、展覧会の出口付近のフィナーレを飾る作品でもあり、特に来館者の印象に残ったのかもしれませんね。

第7位:エドガー・ドガ 「リハーサル」(クローズアップ)

1874年頃 油彩・カンヴァス © CSG CIC Glasgow Museums Collection

本作は展覧会のハイライトとなる作品。記者向けに開催された内覧会では、特別ゲストとして登場したBunkamura オーチャードホール芸術監督の熊川哲也さんも本作の前でフォトセッションを実施。作品について思い入れたっぷりに解説してくれました。

熊川さんによると、本作はプロの目から見ても、バレエダンサーたちの練習シーンがリアルに再現されているのだそうです。画面手前で不機嫌そうに座るダンサーや、衣装を直している劇場の関係者など、舞台裏の日常風景が鋭く切り取られているとのこと。ドガの鋭い観察眼恐るべしですね。

第6位:ウジェーヌ・ブーダン「トゥルーヴィルの海岸の皇后ウジェニー」

1863年 油彩・板 © CSG CIC Glasgow Museums Collection

第6位には、海景を描かせれば近代屈指の名手ウジェーヌ・ブーダンの作品がランクイン。作品内で描かれた海岸は、パリの北西約150kmの場所にあるノルマンディーの港町トゥルーヴィルです。19世紀前半、鉄道網の発達とともに、パリ市民が保養目的で頻繁に訪れるようになった当時の新興観光地で、ブーダンはトゥルーヴィルの風景を生涯300作品以上描いたとされています。本作はとりわけ高貴な人物が描かれているのが特徴で、画面中央やや右に描かれた白いドレスの女性は、ナポレオン3世の妃であるウジェニー皇后をモデルとして描かれたと言われます。日焼けしないように侍女に日傘を持たせ、砂浜を練り歩く優雅な姿が印象的ですね。

第5位:アンリ・ル・シダネル「雪」

1901年頃 油彩・カンヴァス © CSG CIC Glasgow Museums Collection

第8位に続いて、2作品目がランクインしたシダネル。国内では大規模な特集展が開催されたことがほとんどない作家なのですが、本展では大人気。こうした「知られざる」実力派作家の作品が多く楽しめるのもバレル・コレクション展の一つの特徴です。印象派と象徴主義の中間のような作風を持つシダネルですが、人物を画面の中に描くことは滅多にありません。しんしんと降り続く静かな雪景色が幻想的に広がる本作でも、ぽつんと描かれたオレンジ色の窓明かりだけが人の気配を控えめに感じさせてくれます。本作を手元においておくだけで、夏のちょっとした清涼剤になるかもしれませんね。

第4位:アンリ・ファンタン=ラトゥール「春の花」

1878年 油彩・カンヴァス © CSG CIC Glasgow Museums Collection

展覧会場ではファンタン=ラトゥールの静物画が3作品展示されていますが、最も人垣ができていたのが本作「春の花」です。水仙をはじめとした様々な花がゴージャスに活けられた花瓶ですが、白や赤の華やかな色彩が目立つ花に対して、背景は茶系で統一されています。派手すぎず、華美になりすぎないところが、いかにもウィリアム・バレル好みの作品と言えるでしょうか。図録にもある通り「飽きのこない高尚な佳品」なのです。ちなみに筆者もこれを購入し、現在自宅のトイレに飾っております!

第3位:ウジェーヌ・ブーダン「ドーヴィル、波止場」

1891年 油彩・板 © CSG CIC Glasgow Museums Collection

ブーダン2作目のランクイン作品は、第6位で描かれたトゥルーヴィル同様、ノルマンディー地方の保養地ドーヴィルの港の風景が描かれた佳作。よく晴れた爽やかな空の風景と、空の光が水面に反射する様子を絶妙のタッチで描いています。ブーダンは印象派より10~20年先駆けて戸外で風景画の写生に取り組みましたが、こうした明るい光や大気の表現は、後続のモネなどの印象派作家に大きな影響を与えたとされています。非常にさわやかな本作ですが、写真撮影OKとなっているコーナーに展示されているので、スマホの待受画面などにしても良さそうですね。

第2位:エドゥアール・マネ「シャンパングラスのバラ」

1882年 油彩・カンヴァス © CSG CIC Glasgow Museums Collection

素早いタッチで対象物の本質をリアルに捉える名人・マネが描いた小さな静物画が第2位に選ばれました。まさに絵葉書にプリントされるために描かれたかのようなシンプルかつ飽きのこない作品。マネは、黄色とピンクのバラを好んで描きました。

ところで、熱心な西洋美術ファンの皆さん、本作をぜひしっかり目に焼き付けておきましょう!なぜなら、2019年秋に東京都美術館で開催される「コートールド美術館展」のメインビジュアルに選ばれているマネの大作「フォリー=ベルジェールの酒場」でも、さりげなく本作と同じようなピンクと黄色のバラが活けられた花瓶がテーブルの上に置かれているからです。秋への予習にもなるというわけですね。

ちなみに、実際のバラの品種でも淡い黄色と明るいピンクの絞りの柄が印象的な「エドゥアール・マネ」という種類が存在します。ぜひ時間があればググってどんな色味なのか確かめてみてくださいね!

第1位:エドガー・ドガ 「リハーサル」(全図)

1874年頃、油彩・カンヴァス © CSG CIC Glasgow Museums Collection

堂々たる第1位に輝いたのは、やはりこのドガの作品でしょう!第7位はバレリーナにクローズアップされた部分画像でしたが、こちらは作品のフル画像が印刷されているバージョンです。描かれているのはドガが生涯をかけてもっとも好んだモチーフの一つであるバレエの練習風景。各人物の顔は絶妙にぼかされているにもかかわらず、描かれた名もなきバレエダンサーたちの心の中まで透けて見えてしまうよう群像表現の旨さは特筆すべきものがあります。バレエダンサーの複雑な動きのポーズだって、徹底したデッサンで鍛えた描写力で難なく描きこなしていますよね。踊り子たちが螺旋階段の陰や画面の隅っこで「足だけ」「左半身だけ」見切れて描かれた独特の構図は、日本の浮世絵からの影響が大きいと言われています。

ちなみに本作で画面右上に描かれた振付師の老人は、「ジゼル」などの振付を考案した実在した人物ジュール・ペロー氏を描いたものだと言われています。図録には、実際にドガが着想の厳選にしたと思われるペロー氏の白黒写真が掲載されていますので、絵と見比べてみるのも面白いですね。

セザンヌもゴッホもベスト10圏外!意外な結果?!

いかがでしたでしょうか?展覧会名に「印象派への旅」と入っているにもかかわらず、ブーダンやル・シダネルが2作品ずつランクインするなど、印象派であるないにかかわらず、叙情的な風景画が特に好まれている印象です。また、マネやファンタン=ラトゥールなどが描いた花の静物画も大人気。どこかホッとするような落ち着いた美しさは、ポストカードのモチーフとして相性がぴったりなのかもしれません。

そして、第1位(と第7位に)には、展覧会のポスターやチラシのメインビジュアルにも選ばれたドガ「リハーサル」が輝きました。こちらはある意味大本命でしょうか?油の乗り切った時代に描かれた本作は、ドガらしさがたっぷり詰まった大傑作でしたよね。

その反面、セザンヌやゴッホ、ピサロといった大御所の作品は選外に。必ずしもネームバリューだけで好まれるわけではなく、来館者は純粋に自分の感性にあった作品のポストカードを選んで購入していることがわかります。

Bunkamura ザ・ミュージアム上席学芸員 宮澤政男さんがBunkamuraHPで書かれているコラムにある通り、本展は落ち着いた色調の写実的な絵画が多数展示された「スコッチウィスキー」のような展覧会です。ぜひ、一味違う「大人の」印象派展を楽しんでみてくださいね。会期末は混雑するのでお早めに!

関連情報

和樂Webでも「印象派への旅 海運王の夢 バレル・コレクション」展についてはソフィー・リチャードさんによる見どころ解説や、展覧会レポートなどこれまで力を入れて特集してきました。過去記事も合わせて紹介しておきますね。

▼ソフィー・リチャードさんに聞いた「バレル・コレクション展」のとっておきの見どころや魅力とは?

ソフィー・リチャードさんに聞いた「バレル・コレクション展」のとっておきの見どころや魅力とは?

▼ほぼ全作初来日! バレル・コレクション展の意外すぎる魅力とは?! 【展覧会感想・解説・レポート】

ほぼ全作初来日! バレル・コレクション展の意外すぎる魅力とは?! 【展覧会感想・解説・レポート】

書いた人

サラリーマン生活に疲れ、40歳で突如会社を退職。日々の始末書提出で鍛えた長文作成能力を活かし、ブログ一本で生活をしてみようと思い立って3年。主夫業をこなす傍ら、美術館・博物館の面白さにハマり、子供と共に全国の展覧会に出没しては10000字オーバーの長文まとめ記事を嬉々として書き散らしている。