歌仙絵の傑作「佐竹本三十六歌仙絵」 流転の100年を経て京都国立博物館に集結

歌仙絵の傑作「佐竹本三十六歌仙絵」 流転の100年を経て京都国立博物館に集結

2019年11月24日まで、京都国立博物館で開催されている特別展「流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美」。

特別展「流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美」の様子

「三十六歌仙」とは、柿本人麻呂、大伴家持、小野小町など、36人の優れた和歌の詠み手を指します。

この歌人たちの肖像とその詠歌を絵巻物に描いたものを歌仙絵といいます。歌仙絵は鎌倉時代から数多く描かれてきましたが、現存する歌仙絵の傑作の1つに数えられるのが「佐竹本三十六歌仙絵」(以下、「佐竹本」)です。

「佐竹本」は、鎌倉時代に成立し、下鴨神社に秘蔵されていたものですが、幕末期に秋田藩主佐竹家の手に渡りました。明治の世に入ってからも、佐竹侯爵家はこれを受け継いでいましたが、大正時代に手放すことを決めます。そこから、「佐竹本」は数奇な運命をたどることになるのです。

いったい「佐竹本」に何が起きたのでしょうか? その顛末を紹介します。

今の貨幣価値で数十億円の値がついた「佐竹本」

大正6(1917)年、佐竹侯爵家は「佐竹本」を売立(うりたて)に出します。付けられた値段は35万3千円。今の貨幣価値に換算して数十億円になるというから、途方もない金額です。

これを1人で購入できる人はおらず、当代きっての道具商数人が共同で落札しました。道具商は、美術に関心のある資産家の買い手を探しますが、元の値段が巨額なだけになかなか見つかりません。

大正7(1918)年に入り、これを最終的に買い受けたのが、実業家として巨万の富を築いていた山本唯三郎です。ところが、ほどなく米騒動や第一次世界大戦終結などで日本の経済が落ち込み、山本も大打撃を被ります。そのため、わずか2年ほど所有しただけで「佐竹本」を手放すことになりました。

山本に「佐竹本」を斡旋した道具商の土橋嘉兵衛らが再度これを引き受け、今度は絵巻を歌仙ごとに断巻して、広く売りに出すかたちもやむなしと判断。財界の大御所、益田孝(鈍翁)らを世話人として、「佐竹本」断巻の話が一気に進みました。

80歳の頃の益田孝(鈍翁)(写真:鈍翁in西海子)

バラバラに断巻された「佐竹本」

大正8(1919)年12月、益田邸内の応挙館にて、買い手となる数十人の財界人や美術商の臨席のもと、「佐竹本」の断巻式が行われました。断巻された後の37枚(36人の歌仙+住吉大明神)は、あらかじめ価格が決められており、最も高額なのは「斎宮女御」の4万円、以下「小野小町」の3万円、「小大君(こおおぎみ)」の2万5千円、「柿本人麻呂」の1万5千円と続き、最低額は3千円でした。なお、山本唯三郎には、その中の1枚の「源宗于(みなもとのむねゆき)」が贈られています。

誰がどの絵を引き受けるかは、くじ引きで決められました。恨みっこなしというわけですが、どうやら抽選後に何人かの間で絵の交換が行われたようです。益田自身もくじ引きに参加しましたが、番付最下位を引いてしまい、その落胆ぶりをみかねた土橋が、自分が当てた一番人気の「斎宮女御」を譲ったという逸話が今に伝えられています。

籤取花入と、断巻当日に使用されたくじ(花入はくじを入れていた筒を仕立て直したもの)(京都 土橋永昌堂蔵)

断巻された歌仙絵は、各所蔵者の手に移り、多くは表具を施し掛け軸にした状態で保存されました。

流転の運命をたどり今集結した「佐竹本」

軸装された歌仙絵は、茶会や展覧会で披露され、茶人や美術愛好家の垂涎の的となりました。また、それを所有することは、ステータスでもあったのです。やがて、絵の多くは当初の所蔵者のもとを離れ、ほかの人の手に渡りました。それがさらに別の人の手に渡り…と、歌仙絵は「流転」し始めます。

そうして、所蔵者を転々としながら100年の月日が経ちました。

今回の京都国立博物館で行われている展覧会では、所々から借り集めた歌仙絵の31点(いずれも国指定重要文化財)が展示されるという、「佐竹本」の展覧会史上最大の規模となります。

下の写真は、その1枚の「小大君」です。

「佐竹本三十六歌仙絵 小大君」(大和文華館蔵、11月6日~24日展示)

絵に詠まれているのは「岩橋の夜の契りも絶えぬべし 明くる侘びしき葛城の神」。逢瀬の相手に、(葛城の神のように醜い)自分の顔が日の光にさらされ、仲が途絶えてしまわないよう、早く帰ってくれればという気持ちを詠んだものです。

小大君は、三条天皇が皇太子であった頃に女蔵人として仕えた平安期の歌人です。歌仙絵の女流歌人は、華やかな女房装束を着ていることから、断巻時に高値がつき、人気も非常に高いものでした。

続くもう1枚は「大中臣能宣(おおなかとみのよしのぶ)です。

「佐竹本三十六歌仙絵 大中臣能宣」(遠山記念館蔵、10月29日~11月24日展示)

「千歳まで限れる松も今日よりは 君に引かれて万世や経む」と詠まれています。寿命千年の松が、貴君の寿命にあやかり万代まで生きながらえるだろう、という意味ですが、貴君とは宇多天皇第八皇子の敦実親王を指します。親王の長寿・繁栄を格調高く願った名歌として知られます。

歌仙たちのどの絵にも共通しているのは、「歌の意味に寄り添って表情や姿勢に微妙な変化を加えている」点です。ここが、他の歌仙絵に比べて優れているのが「佐竹本」の特長です。

「佐竹本」以外の優れた文化財も展示

展覧会では、「佐竹本」と双璧をなす「上畳本三十六歌仙絵」や、王朝美術と和歌に関連した、一級の美術品が数々展示されています。その中には「三十六人家集」や手鑑「藻塩草」など国宝・重要文化財も含まれています。

国宝「三十六人家集 重之集」(京都・本願寺蔵、通期展示ですが帖替・ページ替あり)

これほど多くの「佐竹本」の歌仙絵が一堂に介するのは、一生に一度の貴重な機会かもしれません。会期は比較的短いので、チャンスを逃さず鑑賞に訪れてはいかがでしょう。

特別展 流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美 基本情報

会場:京都国立博物館 平成知新館(京都市東山区茶屋町527)
会期: 2019年10月12日~11月24日(主な展示替え:前期は11月4日まで、後期は11月6日~24日) 
開館時間:9:30~18:00(金・土~20:00)、最終入館は閉館30分前まで
休館日:月曜日(10月14日と11月4日は開館し、翌火曜日休館)
入館料(一般):1600円
特設サイト:https://kasen2019.jp/overview.html

歌仙絵の傑作「佐竹本三十六歌仙絵」 流転の100年を経て京都国立博物館に集結
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