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2019.11.15

すべては円山応挙からはじまった! 京都で「円山・四条派」の系譜を概観せよっ!

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江戸時代中期の京都画壇に彗星のごとく現れ、新興商人をはじめとする町人から絶大な人気を集めた円山応挙。そして、与謝野蕪村に師事したのち、応挙の薫陶を受けつつ独自の画風を確立した呉春。

この2人を祖とし、「円山・四条派」と称せられる画派の系譜をたどる展覧会「円山応挙から近代京都画壇へ」が、京都国立近代美術館で開催されています。

京都では約24年ぶりに公開の大乗寺襖絵

本展では、応挙・呉春の作品から、昭和初期に活躍した竹内栖鳳や上村松園の作品まで100点余りを展示。後期で入れ替わる作品も多いため、前期と後期で1回ずつ訪れる価値のある充実した内容となっています。

中でも白眉となるのは、国指定重要文化財の大乗寺の襖絵。大乗寺は、兵庫県美方郡香美町に位置する、8世紀に開山した古刹で、「応挙寺」の別名があります。そう言われるのは、応挙と13人の弟子たちが描いた(客殿13部屋に)165面もの襖絵があるからです。

京都からほとんど出ることのなかった応挙が、遠く離れた日本海に面する寺の襖絵を描いたのはなぜでしょうか?

それは、無名時代の応挙に、大乗寺住職の密蔵上人が学資を援助したことへの恩返しであるといわれています。実際に襖絵の制作を発注したのは、密蔵上人が遷化して翌1787年に住職を継いだ密英上人で、京都に赴き応挙と制作契約を交わしました。襖絵がすべて完成するのは、それから8年後のことです。

本展で展示されている襖絵は、「松に孔雀図」の一部と「郭子儀図(かくしぎず)」、「山水図」、「蓮池図(れんちず)」です。これらは、大乗寺の孔雀の間、芭蕉の間、山水の間、仏間の襖絵で、相互の位置関係を再現するため、上から見ると「十」の字のレイアウトに配置されています(下写真参照)。

展覧会では大乗寺の襖絵と同じ位置関係を再現

「松に孔雀図」

大乗寺客殿で最も広い間取りの孔雀の間にある襖絵で、応挙が世を去る3か月前に完成しました。

金箔の貼られた襖に墨一色で、ほぼ実寸の孔雀や松の枝が描かれています。発色の異なる墨を使い分け、光のあたり方によって孔雀は青みを帯び、松の幹は茶系色に、松葉は緑めいた色に見えるよう工夫がこらされている点にも注目。

重要文化財「松に孔雀図」(全16面のうち4面)円山応挙、寛政7年(1795)、兵庫・大乗寺蔵、通期展示

「郭子儀図」

総金地に描かれているのは「松に孔雀図」と同様ですが、こちらは一転、緑青、群青、朱といった鮮やかな画材が用いられているのが特徴です。

郭子儀は唐王朝の武将・政治家で、内乱や異民族の侵攻を収める勲功を果たし、その人間性によっても皇帝から民衆に至るまで敬愛された人物。絵の中では白装束の老人として描かれ、周囲では孫と思われる子どもが遊んでいるという、ほのぼのとしたものです。

重要文化財「郭子儀図」(全8面のうち4面)円山応挙、天明8年(1788)、兵庫・大乗寺蔵、通期展示

重要文化財「郭子儀図」(全8面のうち4面)円山応挙、天明8年(1788)、兵庫・大乗寺蔵、通期展示

文人画の題材を写生的な感覚で描いた「山中採薬図」

唐の詩人賈島(かとう)の作品に「尋隠者不遇」で始まる詩があります。隠者を訪ねたが会えなかった。童子に聞くと、薬草を採りに出かけたが雲が深くてどこかはわからない、という内容ですが、この詩を題材にして呉春は「山中採薬図」を描きました。

「山中採薬図」 呉春、 公益財団法人阪急文化財団 逸翁美術館蔵、後期展示

本作では、松の木のそばに薬草を採取する隠者と童子の姿があり、上には濃い雲があるという構図で、文人画風でありながら「等身大に近い大きさで人物を描いている点では、写生的な感覚がある」と評されるものです。

美人画の巨匠の手による「楚蓮香之図」

四条派の鈴木松年を師として画才を高めた上村松園は、明治から昭和の世を通じて美人画を描き続けた女性画家です。戦後まもなく、女性として初めての文化勲章の受章者としても知られています。

本展で展示されている上村の作品は、大正末期に描かれた「楚蓮香之図」。楚蓮香(それんこう)とは、中国の唐時代の美女で、外出するとその香りを慕って胡蝶がついてきたという伝説があります。この画題は応挙も手掛けていますが、立ち姿のポーズは似ていても、団扇を持っていることや着物の柄など相違点もみられます。

「楚蓮香之図」 上村松園、大正13年(1924)頃、京都国立近代美術館蔵、後期展示

岸派が得意とした虎が描かれた「猛虎図」

円山派の一員とされながらも独自の画風を確立し、岸派の祖となった岸駒(がんく)。岸駒は、虎の頭蓋骨と四肢を手に入れたことで精緻な虎の絵を描くようになり、これは岸派のお家芸の画題となりました。

岸派4代目の岸竹堂(きしちくどう)が、明治中期に描いたのが、数頭の虎が描かれた「猛虎図」です。サーカスの巡業に通いつめ実物の虎を観察するなど、徹底した写実性を求めた絵師の気迫がこめられた逸品です。

「猛虎図」(右隻) 岸竹堂、明治23年(1890)、株式会社 千總蔵、後期展示

子犬の可愛らしさを追求した作品も

1731年に、幕府の要請を受け中国から宮廷画家の沈南蘋(しんなんぴん)が来日。滞在は2年足らずでしたが、日本の画壇への影響は大きく、応挙もその画風を摂取しようと努めます。それが反映されているのが、繊細な毛描きを用いて描かれた数々の生き物たちです。ただし、子犬については筆法を変え、最小限の線と色面で子犬らしい(今風に表現するなら)「もふもふ」した印象を巧みに生んでいます。

「狗子図」 円山応挙、安永7年(1778)、敦賀市立博物館蔵、前期展示

戦前の京都画壇の重鎮で、師から円山・四条派の画風を学び、西洋絵画の影響も受けた竹内栖鳳が描いた子犬の絵も、本展で展示されています。こちらは、応挙が好んだ画題の気風を受け継ぎつつも、よりモダンなタッチの筆遣いで、子犬の愛らしさをよく表現しています。

「春暖」 竹内栖鳳、昭和5年(1930)、愛知県美術館蔵(木村定三コレクション)、後期展示

「円山応挙から近代京都画壇へ」は、特別展示の襖絵のみならず、円山・四条派の衣鉢を継いだ多くの絵師たちの代表作を概観できる、稀有な機会となります。興味を持たれた方は、ぜひとも足を運び鑑賞してください。

「円山応挙から近代京都画壇へ」 基本情報

 
住所: 京都市左京区岡崎円勝寺町 京都国立近代美術館
電話: 075- 761-9900(テレホンサービス)
期間: 前期は2019年11月2日~11月24日、後期は11月26日~12月15日
時間: 9:30~17:00(受付は16:30まで)※毎週金・土曜日は9:30~20:00(受付は19:30まで)
休館日: 月曜日(月曜日が祝日の場合、翌日火曜が休館)及び年末年始
入場料(一般): 1500円
特設サイト: https://okyokindai2019.exhibit.jp/ (京都国立近代美術館:http://www.momak.go.jp/

参考資料:『円山応挙から近代京都画壇へ』(求龍堂)