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2020.02.21

神田伯山インタビューも収録!凄腕職人を大特集「江戸ものづくり列伝」展

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ここ数年、一気にメジャーな存在になってきた江戸時代の美術。尾形光琳、伊藤若冲、円山応挙といった、江戸時代を代表する巨匠の作品を観たり、葛飾北斎など浮世絵の大規模展に足を運んだことがある人も多いのではないでしょうか?

でも、江戸美術は絵画や浮世絵だけではありません!陶芸・金工・刀剣・漆芸・染織・木工などの工芸分野もまた、世界有数のレベルに達していたのです。

そんな中、2月8日から江戸東京博物館1Fの特別展会場にて、特別展「江戸ものづくり列伝」がスタートします。本展は、江戸時代を紹介する美術展としては珍しい「ものづくり」の世界に焦点を当てた美術展。約130年ぶりに海外から里帰りする珍しい美術品をはじめ、江戸で活躍した知られざる名工たちの業績を掘り下げた好企画となりました。

本稿では、本展の見どころやポイントを、注目の展示アイテムを見ながらたっぷり解説。また、本展で音声ガイドのナビゲーターを務める講談師・神田伯山さんのインタビューも合わせて掲載しています!それではいってみましょう!

職人が大活躍した江戸の「ものづくり」を大特集した展覧会

自動化・機械化が進み、工場では人工知能やロボットが工業生産の主役となった現代とは違い、江戸時代におけるものづくりは大半が手作業によるものでした。漆工・陶芸・金工・染織など、衣食住に関わる身の回りのものすべてにおいて、職人たちが大活躍していました。17世紀前半から続いた鎖国下で、高度に独自発達した日本のものづくりは、他国では見られないような独創的なデザインやスタイルで発展を遂げ、各分野で「名工」が名を馳せていたのです。

江戸時代が終わってから約150年。博物館や美術館では、江戸時代の文物や美術品を紹介する展覧会も数多く開催されるようになってきましたが、残念ながら、江戸時代に活躍した「名工」たちの名前を聞くことはほとんどありませんよね。

本展では単に江戸時代におけるものづくりのレベルの高さや素晴らしさを伝えるだけでなく、江戸で活躍した「名工」に着目。彼らの個性を特徴づける作品を見ながら、何故彼らの作品が優れていたのか、創意工夫や技術力の凄さを紐解きつつ、意外なエピソードなども楽しむことができる展示になっています。

そこで、今回は特に絶対見逃せない注目ポイントを3つピックアップしてみました。

注目点1:初来日!バルディ伯爵の秘蔵コレクション

まず、本展で最初に大きくクローズアップされているのが、イタリアにおける東洋美術の殿堂・ベニス東洋美術館から日本へと初めて里帰りする(つまり日本初公開)江戸時代の美術品の数々。これら数々の江戸時代の名品は、バルディ伯爵というヨーロッパの貴族の持ち物でした。こんなお顔をしていたらしいです。

バルディ伯爵肖像 [ばるでぃはくしゃくしょうぞう] 明治22年(1889)ベニス東洋美術館蔵

このバルティ伯爵、非常にお金持ちだったのか、1887年9月から1889年12月までの間、2年以上かけて世界一周旅行に出かけました。その旅行の締めくくりに訪れたのが日本だったのです。滞在期間は約8ヶ月と異例の長さに及びました。相当日本が気に入ったのでしょうか。彼の足取りを追ってみましょう。

1889年2月下旬、長崎から入国し、九州や京阪地方を巡り、6月12日には横浜着。24日には、あの有名な鹿鳴館で明治天皇・皇后両陛下に謁見も果たしています。そこから、箱根・熱海・日光・宇都宮・仙台・函館など東日本・北日本の景勝地などを歴訪しているのです。

驚くべきはその間に買いまくった古美術や骨董品の数々。刀剣、甲冑、漆器、磁器、絵画、小間物など美術工芸品を1万点以上ガッツリと買い集めて帰国。ベネツィアでは、自邸を改装してコレクションを公開していたといいます。しかしバルディ伯爵の死後、売却されたコレクションの大部分はイタリア政府によって差し押さえられてしまいます。その後紆余曲折を経て持ち主が変わり、最終的にベニス東洋美術館へ収蔵されて、今日まで大切に海の向こうで保管されているというわけです。

梨子地藤巴立葵紋散松竹藤文蒔絵行器 [なしじふじともえたちあおいもんちらししょうちくとうもんまきえほかい] 江戸時代 18世紀 ベニス東洋美術館蔵

本展で来日したバルティ伯爵が集めた旧蔵品の中でもぜひ注目したいのが、こちらの初公開となる黒田家の婚礼道具。黒田家の藤巴紋と大和郡山藩本多家の立葵紋が付され、蒔絵が贅沢に施された婚礼調度品の一式です。保存状態も非常に良く、今でも普通に生活道具として現役で使えそうです。

朱漆塗鼠嫁入蒔絵組盃 [しゅうるしぬりねずみのよめいりまきえくみさかづき](浮船/作)江戸時代 19世紀 ベニス東洋美術館蔵

注目点2:江戸で活躍した名工たち

2つ目の注目点は、「名工」たちの活躍に焦点を当てた展示です。江戸時代に制作された伝統工芸を単に並べて紹介するのではなく、それらを手掛けた職人達の技術やこだわり、エピソードと合わせて見ていくことで、より深く理解できるようになっています。ここでは、本展で特にクローズアップされている特色ある名工たち、原羊遊斎(はら ようゆうさい)、柴田是真(しばた ぜしん)、三浦乾也(みうら けんや)、府川一則(ふかわ かずのり)、小林礫斎(こばやし れきさい)を順番に注目点として見ていきましょう。

茶道具から印籠まで文化人とのコラボで大活躍!原羊遊斎

江戸時代の芸術家を特集した展覧会に足繁く通うようになると、しばしば見かけるのがこの原羊遊斎の蒔絵作品。どんな職人だったんだろうと思って調べると、これが凄い経歴の持ち主なんですね。

彼の幼少時~青年時に至る来歴は出身地・出自など一切わかっていないのですが、ある時から鶴下遊斎(つるした ゆうさい)に師事し、蒔絵職人として頭角を表すと、20代後半で古河藩主土井家の御用蒔絵師と活躍。名人・古満寛哉(こま かんさい)と並び称される達人として有名になります。

蔓梅擬目白蒔絵軸盆 [つるうめもどきめじろまきえじくぼん](原羊遊斎/蒔絵、酒井抱一/下絵)文政4年(1821)江戸東京博物館蔵(国指定重要文化財)展示期間:2月8日~3月8日

彼の真骨頂は、当時の一流文化人達と組んだコラボ制作でした。谷文晁(たにぶんちょう)・大田南畝(おおたなんぽ)・亀田鵬斎(かめだぼうさい)・市川 団十郎・中井敬義(なかいたかよし)など各方面における一流文化人との交流をベースに多数制作された蒔絵のコラボ作品は、彼の評判をますます高めていきます。特に有名なのは、江戸琳派の創始者・酒井抱一(さかい ほういつ)の下絵による印籠や櫛(くし)、かんざしや、大名茶人・松平不昧(まつだいら ふまい)好みの茶道具です。このように、当時の一流デザイナーやプロデューサーの力を借りることによって、彼の工房は大いに繁栄したのでした。

漆のファンタジスタ!柴田是真

江戸末期から明治時代に、蒔絵や漆絵などマルチな才能で大活躍したレジェンド級の職人が、柴田是真です。2019年~20年にかけて、新天皇即位にちなんで各地で開催された皇室関連の展覧会では、「帝室技芸員」という切り口で随分紹介されていたので、どこかの展覧会で見かけたことがある人も多いかも知れませんね。

柴田是真は、前述した原羊遊斎と同時代の文化・文政期に活躍した天才蒔絵師・古満寛哉に蒔絵を、四条派の鈴木南嶺(すずき なんれい)などに絵画を学び、さらに京都へ遊学してパワーアップ。退して使われなくなっていた古の蒔絵技法を復興させたり、岩絵の具や墨の代わりに漆を用いた「漆絵」というジャンルを創り出すなど、創意工夫と卓越した技術で大活躍。1890年には、とうとう工芸分野での第一人者として、帝室技芸員にも選出されました。

漆絵 花瓶梅図 [うるしえ かびんうめず](柴田是真/作)明治14年(1881)板橋区立美術館蔵

柴田是真の作品は、単に超絶技巧なだけでなく、遊び心がたっぷり効いているところが最高なんです。たとえば、こちらの板橋区立美術館の至宝「漆絵 花瓶梅図」。一見重紫檀(したん)の板で作られた高級な額のように見えますが、実は和紙を地に漆で作られた精巧な「フェイク」なのです。重量はわずか450gほどというのだから驚きます。是真一流のユーモアが感じられる名品です。本展では、是真が制作した「だまし漆器」と呼べるような面白い作品が登場しています!

造船から陶芸までマルチな活躍が凄い!三浦乾也

幕末から明治へと時代が移り変わる中、伝統工芸から軍事技術、工業製品まで多彩な活躍をした異色の経歴を持つ天才職人が、三浦乾也(みうら けんや)です。

三浦 乾也は江戸・銀座の生まれ。12歳で陶芸を志すと、茶人の西村藐庵(にしむら みゃくあん)から、尾形乾山(おがた けんざん)の伝書を授けられます。また、螺鈿(らでん)や鼈甲(べっこう)、金属、陶磁器など様々な素材を蒔絵に埋め込んで装飾する破笠細工(はりつざいく)の名手としても知られました。幕末にはオランダ人から造船技術や鋳鉄技術を学び、軍艦の建造を手掛けるなど工業技術分野でも活躍。維新後は、日本初となる通信用の碍子(がいし)を開発したり、レンガの国産化などにも挑戦するなど、更に活躍の幅を広げましたが、引退後は再び向島で作陶へと専念。静かな晩年を過ごしました。

栄螺形香炉 [さざえがたこうろ](三浦乾也/作)明治時代 19世紀 個人蔵

まさに波乱万丈の生涯を過ごした鬼才・三浦乾也。彼の作品を見ながら、ぜひ彼の波乱万丈の生涯に想いを馳せてみてはいかがでしょうか?

彫金の達人!府川 一則

江戸深川の生まれで、父は十返舎一九の門人・五返舎半九(ごへんしゃ はんく)。12歳で葛飾北斎に入門し、20代後半までは「北嶺」の号で北斎門下の浮世絵師としても活躍。北斎の死後、思い切ってキャリアチェンジを果たし、後藤門流の東益常(ひがし ますつね)の門下で彫金の修行に入りました。北斎門下で培った洒脱な作風を個性に、刀の鐔や小柄、目貫といった刀装具の名品を生み出しています。

蓮花図鐔 [はすはなずつば](府川一則(初代)/作)江戸時代 19世紀 江戸東京博物館蔵

また、文久2年(1862年)には幕府の命により銅銭・文久永宝の母銭を造り、以後も度々銅銭の原型を手がけるようになりました。本展では、江戸東京博物館が所蔵する非常に珍しい「文久永宝母銭」が展示されます。当時の一流金工職人には「お金」をデザインするという、ちょっと変わった仕事もあったのですね。

文久永宝母銭 [ぶんきゅうえいほうぼせん](府川一則(初代)/作)文久2年(1862)江戸東京博物館蔵

ミニチュア工芸の名人!小林 礫斎

六瓢提物 [むびょうさげもの](小林礫斎/作)大正~昭和時代 20世紀 江戸東京博物館蔵

最後に紹介するのがミニチュア工芸の達人、小林礫斎(こばやし れきさい)。彼は厳密には江戸時代の職人ではないのですが、先祖代々江戸で細工職人として活躍してきた小林家の4代目ということで取り上げられています。

彼は父・三代小林礫斎から牙彫や指物の技術を学び、明治36年(1903)全国工芸品展覧会で一等賞を受賞するなど若い時から非凡な才能を発揮します。小林礫斎がミニチュア制作を本格的に始めたきっかけは、それまで主に手掛けていた煙草文化の変容によるものでした。昭和初期、紙巻たばこの普及によって、彼が得意とした煙草入れの根付や煙草盆の需要が激減。これを受けて、彼は本格的にミニチュア制作に乗り出します。

礫斎の作品は、彼自身が一人で全部作り上げたものよりも、各分野における優れた職人との分業・合作によって制作されることが多かったといいます。つまり彼の超絶技巧ミニチュア工芸は、日本の職人魂と美意識が結集した作品であるといえるのかもしれません。

桑箪笥 [くわだんす](小林礫斎/作)大正~昭和時代 20世紀 江戸東京博物館蔵

注目点3:音声ガイドのナビゲーターに人気講談師・神田伯山を起用!

そして最後の注目ポイントは、音声ガイドのナビゲーターに、人気講談師の神田伯山さんが起用されていること。伯山さんは、積極的なメディア出演や、絶妙のトークスキルで、それまであまり知られていなかった「講談」の魅力を多くの人に伝えてきました。実に700席以上の講談を精力的にこなした充実の2019年を経て、いよいよ2020年2月に、神田松之丞改め六代目「神田伯山」を襲名して待望の真打昇進を果たしました。

近年は歌舞伎や展覧会など「音声ガイド」の仕事も多く手掛けるようになった伯山さん。前回ナビゲーターを手掛けた「新・北斎展 HOKUSAI UPDATED」(六本木森アーツセンターギャラリー)では、「伯山さんの音声ガイドを聞きたいので来ました」という熱烈な伯山ファンが展覧会に多数来場したのだとか。否が応でも、今回も期待が高まりますよね。

実は、ありがたいことに2019年末、伯山さんが音声ガイドのレコーディングを終えたばかりのタイミングで、スタジオ内で行われた囲み取材へと参加することができました。そこで、本展のナビゲーターとしての意気込みや、展覧会の見どころなどをインタビューすることができましたので、後半からは伯山さんのインタビューをお送りしたいと思います!

神田伯山さんにインタビューさせて頂きました!

では、ここからは神田伯山さんへのインタビューをお送りします。伯山さんならではの視点で語られた本展の見どころや、オススメ作品を紹介しています!

音声ガイドの録音にあたって気をつけた点は?

―まずは、収録作業お疲れさまでした。伯山さんは、展覧会での音声ガイドのお仕事は以前にも何度かご経験されていらっしゃいますが、今回の収録にあたって、どのような点に注意されましたか。

伯山:あくまで主役は展示なので、そこを邪魔しないようにゆっくりハッキリ大きな声で話すように心がけました。鑑賞の要点になるポイントをわかるように、口調や間なども気を使いましたね。寄席演芸では、前座時代に僕はよく太鼓を打っていたんですが、主役は三味線なんです。三味線の音をきれいに聴かせるために太鼓をどう打っていくか。邪魔にならないように、それでいて強調するところは強調してという工夫が必要になるのですが、今回はそれに近いものを感じましたね。収録にあたっては、展示を見ながらでも自然に聞けるように、変に感情を入れすぎないようにしました。癖をなくして、ナチュラルに聞こえるように意識して、黒子に徹するしゃべりを心がけたつもりです。あくまで僕は主役ではないということを結構大事にしたかなと思います。

―落語家や講談師が音声ガイドを務める場合、音声ガイド内でも落語や講談が収録されていることがよくありますが、今回はナレーション以外に講談なども収録されているのでしょうか?

伯山:そうですね。ボーナストラックで講談の触りを少しだけやらせていただきました。我々講談師の仕事って、何か背景を伝える商売なのかなって思うんです。たとえば、隅田川でも荒川でもいいんですが、そこにかかっている橋を見るとしますよね。ここで昔いろいろな物語が実はあったんですよという背景を聞くだけで、そこにある橋が凄く魅力的なもの、自分たちにとって価値があるものみたいに見えてくることってよくあると思うんです。元々わたしたち講談師は、字が読めない人のために物語を聞いて頂くといった面もちょっとあるので、音声ガイドのような解説のお仕事は講談師という商売にぴったりだなと思っていたんですね。以前担当した新・北斎展での音声ガイドのお仕事でも、北斎の人生や人となり、作品の変遷みたいなものを解説で担当しましたが、まさに講談だなと思っていましたね。

伯山さんが気になるのは、素朴で庶民的な作品?!

―プレスリリースに掲載されている作品、作家の中で特に気に入られたものがあれば教えて下さい。

伯山:小林礫斎が手掛けた寺子屋のミニチュア玩具はとっても面白いと思いました。凄く小さくてかわいいし、子供も大人も素直に「わーすげえ!」って思うようなものですよね。

文机硯箱揃 銘 寺小屋 [ふづくえすずりばこそろえ めい てらこや](小林礫斎/作)大正~昭和時代 20世紀 江戸東京博物館蔵

伯山:子供でも大人でも見た瞬間に驚くような作品を作ってしまう、小林礫斎の高い技術力や遊び心に職人魂を感じます。これを制作した職人さんってどんな人だったんだろうと想像させるような、そういう奥行きを感じる作品ですね。言語の壁も超えて、海外の人が見てもわかりやすいのではないかと思いました。

―海外といえば、展覧会冒頭を飾るバルディ伯爵の旧蔵コレクションは結構気になられているそうですね。

伯山:バルディ伯爵というヨーロッパから遥々船で日本に来た人が明治時代に買い付けていった日本の作品が、100年以上経って日本で展示されるっていうのが面白いですよね。外国人って、芸者とか富士山とか忍者とか好きじゃないですか。彼らは我々とちょっと違う感性で日本を見るので、展示作品から、外国人から観た当時の日本に対する視点やイメージを感じられたら面白いですよね。当時の外国人が好きだった日本ってどういうものだったんだろうとか。また、もっとバルディという人がどういう人なのか深く知ることによって、彼が愛した作品をより思い入れを持って見ることができるんじゃないかなと思います。

―展示作品の中から、もし今買えるならどれを買おうか?という観点で、1点お気に入りの作品を選んで頂けますか?

伯山:僕は大衆芸能が好きなので、遊び心があって、皆に愛されて誰でも安い値段で買えた、でもそこには確かに職人のこだわりや技術があるといったような作品が好きですね。

今戸人形 [いまどにんぎょう](金沢春吉/作)大正~昭和時代 20世紀 江戸東京博物館蔵

伯山:そういう視点で見ると、この今戸人形はかわいいですね。プレス用パンフレットにも、「皆が持っていた素朴な土人形」と書かれている通り、多分そこまで希少価値のあるものではないと思うんですよね。今でもこんな人形いっぱい売っているように、昔から子供の遊び道具として大量生産されて、大衆向けに売られていたんだなと思うと親近感が湧きますね。

―伯山さんが実際にご自身で収集されている伝統工芸などはありますか?

伯山:工芸品については特にないですね。ただ、講談の速記や講談にまつわるものは集めています。僕は今度2020年2月の真打昇進をきっかけに六代「神田伯山」を襲名するので、神田伯山関係についてはそれは僕が一番詳しくないといけないだろうなと思っていて、今熱心に資料を集めています。講談の資料って膨大なんですよね。とても自分だけでは集めきれないくらい凄い量があるんです。でも今回の襲名をきっかけに、せめて神田伯山関係だけでもしっかり集めておこうと思って。あらゆる手段を使って、僕の手元に集め始めているところです。

本展に向けてのメッセージも頂きました!

―音声ガイドが聞きたいから美術館に来るという人も多いと思います。最後に何か神田伯山さんの音声ガイドを心待ちにしている方にコメントをお願いします。

伯山:美術を知らない初心者の方が、美術館に行くには、何か「とっかかり」が必要だと思うんです。近所のおばさんに無料招待券をもらったから一緒に行こうよって誘われて行ったりしますよね。だからそういう意味で、僕の音声ガイドも一つの小さな「とっかかり」になればいいなと思いますね。一種の「縁」として、僕の音声ガイドが興味を惹かれるきっかけになったのであれば、興味に従って来ていただければ嬉しいなと思いますね。今回の展覧会は、江戸の職人の矜持みたいなものを感じられる良いものが揃っているのではないかなと。展覧会を通して江戸文化を色濃く反映したものに触れて、もっと興味が湧いたら講談や落語、浪曲といった、現代にも息づく江戸文化に触れていただけるようになると嬉しいですね。

―最後に、本展開催に向けてひとことメッセージをお願いします。

伯山:江戸博、僕好きなんですよ。凄く活気もありますし。僕も時々行っています。伝統芸能とか江戸時代に関わる人たちって、間違いなく100%と言っていいくらい江戸東京博物館には行っていると思うんですね。微細な作品から圧倒されるような巨大なものまで揃っていて、行けば行くほど、自分の知識が深まれば深まるほど面白くなるところもあるし、初めて行った人もなんか圧倒されちゃうみたいな。だから、とりあえず行って損はないところが江戸東京博物館だと思うんです。本当に素敵な場所なので、一度も行ったことがない人は、今回の特別展「江戸ものづくり列伝」とあわせて回ると本当に楽しい時間を過ごせるのではないかと思いますね。落語や講談なども定期的にやっていますしね。そういうものを定期的にやっていると、江戸文化を反映したような、独特な空気感みたいなものが自然に出てくるんですよね。生き物みたいな感じで。できれば、落語や講談をやっているタイミングで行っていただければ、より身近に江戸文化を感じて頂けるのではないかと思いますね。僕は学生時代に池袋の映画館・文芸坐によく通ったんですが、文芸坐の支配人を信用していたので、そこで流れる映画は全部信用して見ていたんです。この映画はわからないけど、ここの支配人が良いっていうんだから間違いないんじゃないかって。それと同じで、僕は江戸東京博物館を全面的に信頼しているので、そこでやる特別展というものは、当然見て価値のあるものだろうなと思っているんです。

工芸大国日本の首都「江戸」で発展したものづくりの奥深さを体感できる展覧会!

綾杉地獅子牡丹蒔絵十種香箱 [あやすぎじししぼたんまきえじゅっしゅこうばこ](幸阿弥長重/作)慶安2年(1649)江戸東京博物館蔵

江戸時代の日本は、まさに職人たちが大活躍した工芸大国でした。残念ながら美術史の教科書では、それほど扱いが大きくない江戸時代の「ものづくり」ですが、こうしてまとめて「ナマ」の作品と向かい合うことで、江戸で活躍した知られざる名工たちの凄さが体感できるのではないでしょうか。海外からの貴重な里帰り作品や、江戸東京博物館が所蔵する豊富な館蔵品など、江戸工芸の粋を集めた多数の作品を一挙に見て回ることができる非常に素晴らしい展覧会です。歴史好き・江戸好きには特におすすめです!

展覧会基本情報

展覧会名:特別展「江戸ものづくり列伝」
会期:2020年2月8日(土)~4月5日(日)※展覧会は中止となりました。
会場:東京都江戸東京博物館1階特別陳列室(東京都墨田区横網1-4-1)
公式HP:https://www.edo-tokyo-museum.or.jp/

書いた人

サラリーマン生活に疲れ、40歳で突如会社を退職。日々の始末書提出で鍛えた長文作成能力を活かし、ブログ一本で生活をしてみようと思い立って3年。主夫業をこなす傍ら、美術館・博物館の面白さにハマり、子供と共に全国の展覧会に出没しては10000字オーバーの長文まとめ記事を嬉々として書き散らしている。