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2016.03.01

超絶技巧のカリスマ、宮川香山とは?【2016年 内覧会狂想曲】

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サントリー美術館「没後100年 宮川香山」

会期 2016年2月24日(水)~4月17日(日)

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 2月24日から東京六本木のサントリー美術館で開催されている「没後100年 宮川香山」展の内覧会に行ってきました。

凄い! と 可愛い! が充満した出色の展覧会です。

 初代宮川香山(みやがわこうざん)は、江戸時代後期1842年、京都の眞葛ヶ原(まくずがはら)で陶工の家に生まれました。そして、文明開化で横浜が海外との窓口として脚光をあびる頃、明治3(1870)年、一念発起して横浜に居を移し、陶芸の窯(眞葛焼)を起こします。

 焼き物に適した土があるわけでもなく、陶工などの職人をみつけるにも容易でない地での創業で苦心をしたといいますが、徹底した美へのこだわりと、重ね続けた実験、出来上がりへの並外れた執念でもって、名声を築いていきます。

当時日本は、「富国強兵・殖産興業」の号令のもと、外貨の獲得に国家をあげて取り組んでいました。その外貨獲得に大きな役割を果たしたのが、昨今”超絶技巧”といわれてブームにもなっている日本の工芸品でした。

 そんな中、宮川香山は、1876年のフィラデルフィア万博を皮切りに、パリ万博、メルボルン万博、アムステルダム万博、バルセロナ万博、シカゴ・コロンブス万博と賞を総なめ。1900年のパリ万博ではついに大賞を受賞したほか、その後も数々の国際的評価を受けます。

「香山の作品ならばどんなものでも手に入れたい」と言う人が作品を奪い合ったほど、強烈な人気を国内外で博したそうです。

これぞ宮川香山の超絶技巧!

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 今回の展覧会の展示品の中でまず圧巻のものが、香山の作風の特徴の一つ、高浮彫(たかうきぼり)と呼ばれる手法を使った陶器の作品群。これはもう、驚愕です!

 大きな壺に浮き出た、今にも飛び立ちそうな孔雀に鶏、鷺などの造形物! 壺の表面に穿たれた穴の中に可愛くひそむ熊の親子や蛙の素晴らしいこと! 本当にこれが焼かれた陶器なのかと、不思議な気持ちになってしまいます。

 当時、日本の輸出品として注目されていたのが薩摩焼の陶磁器。金襴手(きんらんで)の派手な装飾に海外からの人気が集まりましたが、貴重な金をふんだんに使ったものを輸出することは国家の損失ではないかという疑問がもたれ、金を使わない新たな技法として、宮川香山はこの高浮彫の技法を編み出したのだそうです。

 展覧会の残り半分は、一転、磁器の作品に。美しく、これも超絶技巧に違いないけれど、正直「これが同じ人(窯)の作品なのか?」と面食らってしまいます。

 香山は、立体的な造形物で陶器を飾ることで手間暇とコストがかかることから新たな磁器の研究に取り掛かったと言われています。また、海外の最新陶磁器の流行の研究にも余念がなく、いち早く流行の変化を感じ取って新たな焼き物の作品を世に送り出したのです。

 それが、釉下彩(ゆうかさい)という技法を使っての、繊細かつ華やかな磁器の数々。磁器表面に絵を描きその上から透明釉薬をかけて焼き上げるこの手法は、高温で焼くため使用できる絵の具が限られます。にもかかわらず見事な発色を実現した香山。

 今回の展覧会の監修をされた、瀬戸市美術館館長の服部文孝氏の言葉を借りると「陶器と磁器をここまでみごとに作り上げた人は他にいない」とのことでした。

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展覧会の見所ですが、和樂的には「凄い! 香山」もいいけれど、やっぱり「可愛い! 香山」に注目したいところ。

 そこで、今回の「没後100年 宮川香山」展の、可愛い注目作品ベスト3を発表!

宮川香山 可愛い注目作品 第3位

 まず第3位。これは高浮彫の陶器の作品の中から、『高浮彫 四窓遊蛙獅子鈕蓋付壺(一対)』。壺の四方に横長楕円の小窓があり、そこを覗くと太鼓をたたいたりする、ユーモラスな表情の可愛いカエルさんが! 美しい美術品の中に、こんな可愛い仕掛けがあるなんて! 展覧会ではじっくりその表情を楽しんでくださいね。

宮川香山 可愛い注目作品 第2位

 続いて第2位! これは意外や意外、白磁の作品『白磁鳥形香炉』。和樂でも以前同眞葛焼の類似の作品を紹介したことがありますが、なんともぽってりと可愛い造形と表情なのです。モダンアートのようでもあり、例えば、現代的なマンションのリビングに草間彌生の版画と一緒に飾りたいなんて思ったりします(個人的に)。

宮川香山 可愛い注目作品 第1位

 そして第1位は、ヤッパリ! ニャンと言ってもこの猫ちゃんです。『高浮彫牡丹ニ眠猫覚醒大香炉』と『高浮彫牡丹ニ眠猫覚醒蓋付水指』。水指の方の猫ちゃんは、今回の展覧会のポスターその他でメインビジュアルになっているので有名になってしまいましたが、アンドリューの好みは、口の中がリアルに表現された、ちょっと妖気を帯びた香炉の方の猫ちゃん。どちらにせよ、この猫ちゃんたちのリアルな造作には誰もが度肝を抜かれるはず。これでマジ陶器なのか!?と悶絶気が狂いそうな感動でした。

 このあたりは写真じゃ伝えられないので、会場で必ず確かめてくださいね。

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 この猫ちゃんの作品二つ『高浮彫牡丹ニ眠猫覚醒大香炉』と『高浮彫牡丹ニ眠猫覚醒蓋付水指』、それにリアルな蟹にびっくりする『高取釉高浮彫蟹花瓶』、さらに艶やかな孔雀が装飾された『高浮彫孔雀ニ牡丹大花瓶(一対)』の4作品は、今回の出展作品の多くを所蔵されている、眞葛香山研究の第一人者、田邊哲人氏の、特別な計らいによって一般来場者も撮影が可能となっています。SNS拡散もOK!

 なんと太っ腹! 海外の美術館、美術展ではこういうことによく出合いますが、日本の美術展では異例のこと。田邊さんに感謝! 同時に日本でもこのような計らいが増えることを願います。

宮川香山とはどんな人?

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 京都にあらゆる文化が集中した時代にいち早く京都から文明開化の地、横浜に窯を開くことを決意した香山。金の流出に疑問を呈し高浮彫を考案した香山。誰よりも早く世界の趣向、時代の流れを読み取り釉下彩という技法をもって磁器に打って出た香山。

 作品もさることながら、この宮川香山という人物の凄さに感動を覚えないわけにはいかない展覧会でもありました。

 画家の有島生馬は香山を表して「香山翁はピカピカ光るたちの頭で一見坊さんのようだったがその眼光炯炯(けいけい)鋭くハゲ頭と光を競っていた」と言ったとか。

 展示の一番最後に、初代宮川香山の肖像写真が展示されていますが、これもお見逃しなく。生馬の表現の意味がわかるでしょう。

 香山は「日本人は日本特有の美しいものを作れば良い。真似事をしたからといって外国人は見てくれん。(中略)輸入された品位にかける材料を安易に使わず、転写や印判ではなく、筆で描いた純粋の日本が良い」と語ったそうです。

 いまこそ、日本人と、日本文化、日本のものつくりに関わる全ての人が、一番肝に命じないといけない金言のように思いました。

 会期は4月17日までです。