Culture
2019.10.09

海外で和菓子をつくってみたら、いろんなことが発見できた!【一期一会のハワイ便り7】

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「モンブラン」と「栗きんとん」の季節がやってきました!

あらゆるスィーツショップの「栗への執念」といいますか、あっ間違えた!「栗への愛」といいますか(汗)、ここ近年の栗スィーツの発展は目を見張るものがあります。

しかし和菓子もすごいと思いませんか?
特に茶席の和菓子は、日本が世界に誇る芸術といえるもの。

ミセス茶人オノさんは、ハワイに移住してから和菓子を「手づくり」するようになったそうです。
今回は、オノさん手づくりの和菓子を多数ご紹介。では、和菓子について、ゆっくりうかがってみましょう!

「茶席の和菓子」は自分でつくるしかない

文と写真/オノ・アキコ
 

ハワイの10月は温かいようで暑い。
日本では一番過ごしやすい季節なのに、ここでは雨季に向けて、気温が高く湿気の多い日が続いている。けれど海の向こうから、旬の食べ物のニュースが届くと、無償に秋の味覚が恋しくなる。輸入物の松茸や秋刀魚(さんま)、銀杏などが店頭に並ぶのもこのころだ。

一年中温暖なこの島では、「旬」のものが少ない。しかもここは農業が主力産業ではないため、輸入で農産物を得ている。

ということは、ハワイの茶の湯は、旬を取り入れるのがむずかしい、ということでもある。茶席では季節の演出が欠かせないが、懐石(かいせき)と呼ばれる食事で旬のものが手に入らないときはどうするか。
かならず茶席に季節の彩どりを添えることができるのは……そう、和菓子だ。

ハワイには、上生(じょうなま)といわれる本格的な主菓子(おもがし)を扱う和菓子舗がない。だからお茶の先輩諸氏は、代々、自作してきたのである。豆から餡子(あんこ)を炊き、「こなし」や「練り切り(ねりきり)」、「饅頭(まんじゅう)」などの和菓子をつくってきたのだ。私がハワイにきて、はじめて手づくりの「きんとん」を見たときは、ただただ感動した。そして思った。「え?和菓子って自分でつくれるものなの?!」と。

それならばと、私も試してみることにした。和菓子づくりの先生は、本である。その結果、素人でも時間と根気さえあれば、そして、プロの方と張り合わなければ(笑)、「和菓子づくりは誰にでもできる」ということがわかった。

海外でお茶をされる方々は、きっと、「そうそう」とうなずいていらっしゃることだろう。

日本の秋を取り入れて

では今のシーズン、「秋」を象徴する茶席の和菓子といえば、どのようなものがあるだろうか。

ハワイにおいても、通常のお茶のお稽古では、極力日本の四季に思いを馳せて、和菓子を用意する。日本の歳時記を勉強することも、お稽古の一環だからだ。
この季節なら、月やウサギ、菊、落ち葉(吹き寄せ)、紅葉などをモチーフにして、栗や柿といった食材を取り入れてつくることが多い。そのうちのいくつかをご紹介したい。


寒梅粉でつくってみた雲平(うんぺい)の月とウサギ。ハワイの十五夜も晴れていれば月が煌々として、たいへん美しい。


「着せ綿(きせわた)」という和菓子。平安時代、宮中においては、五節句のひとつである重陽の日に菊に真綿をかぶせ、明け方、朝露を含んだ綿で体を拭えば、菊の薬効により無病でいられると信じられていた。その古い習慣を表したものが、この和菓子だ。9月初旬には、日本のデパ地下でもよく見かけるだろう。


カボチャで色づけした、シンプルなかたちの月見団子。シンプルなゆえに懐紙にひと工夫!


はさみを使ってつくる菊。単色でも、とても華やかになる。


松葉や銀杏の「吹き寄せ」。茶庭に落ち葉がふきよせられて集まった姿を写している。雲平と琥珀糖(こはくとう)を使ってみた。


叩いた干し柿を中心にして、まわりをあんで包み、さらに練り切りでそれを包んだもの。干し柿のヘタを乾燥させてのせたら、本物の柿みたいになった!


枯葉と紅葉のなかの鹿を焼きゴテを使って表現。中身は栗のきんとん。


「亥の子餅(いのこもち)」は開炉(かいろ)のときにいただく和菓子。
お茶の世界では11月から4月までが「炉」の季節となる(5月から10月は畳の上に釜を置く「風炉」の季節)。 
開炉は茶人の正月ともいわれ、炉を開くのは旧暦10月の最初の亥の日(いのひ)だった。現在の11月にあたる。「亥」は水の運気を持つことから、その日は「亥の子餅」をいただいて、無病息災を願うとともに、これからの一年、茶室で安全に火を使えるよう祈るのである。今年の干支は己亥(ついのとい)なので、このお菓子はいつにも増して人気なのではと思う。
 

これらの写真でわかるように、私のようになんの経験もない素人でも、本のレシピ通りに作業をすれば、和菓子は限られた材料で、バラエティーに富んだかたちや食感のものをつくることができるのだ。

ハワイの12か月を和菓子で表現してみると

さて、私の所属する裏千家では、毎夏、日本から門人100名あまりがハワイに来島し、現地の私たちがその方々を茶会でもてなすことが、流派の恒例行事になっている。ある年、茶会も3週間後に迫ったという日、「ハワイの12か月を和菓子で表して、茶席の待合(まちあい)に置くように」との指令が私にくだった。

※「待合」は、茶会がはじまるまでの間、お客様が支度をととのえて待つスペースのこと。

「和菓子でハワイの一年を表現する」
……なんて面白い宿題だろう! 私は大きなプレッシャ-を感じながらも、この難題を楽しむことにした。

そして生まれたのが、下写真のオリジナル和菓子12点だ。


左手前から右へ、1月ソニーオープン、2月バレンタイン、3月イースター、4月ウェール・ウォッチング、5月灯篭流し、6月カメハメハ・ディ、左奥より右へ、7月独立記念日、8月州立記念日、9月アロハ・フェエスティバル、10月ハロウィーン、11月サンクスギビング(感謝祭)、12月クリスマス。12月のクリスマス・ツリーに関しては、京都の老舗菓子司「末富(すえとみ)」の山口富蔵さんの著書からヒントをもらい、すこしアレンジを加えて製作した。

 
これらの和菓子の種類は「練り切り」「寒天」「薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)」「白あん入りのクレープ生地」などさまざまだ。すべて、オアフ島でみられる伝統行事や季節の祭事、またはハワイの自然現象を表したものである。

この作業は実に楽しかった。1種類のお菓子を100個つくるのとは違って、同じ場所に12個の和菓子を並べる場合は、その全体の色どりやバランスも気になる。お客様のお目にどう映ったかはわからないが、私なりに気を配りつつ作成した。
 
土壌が異なれば、咲く花が違うように、和菓子も日本の伝統に沿ったものでなくとも一向にかまわない、と私は思う。
抹茶の味を妨げず、茶席の趣旨にかなったものであれば、その土地の風土をあらわした遊びも許されるように感じているのだ。
むしろ、日本からのお客人には、母国にはないかたちのお菓子でお迎えする事が、心に残る「おもてなし」ではないだろうか。

和菓子の味って、どう思われているの?

今、アメリカでは、抹茶が大人気となっている。有名な「ホノルル・クッキー・カンパニー」や「ビッグ・アイルランド・キャンディーズ」でも、抹茶味のクッキーを全面に押し出している。

アラモアナ・ショッピング・センター内のホノルル・クッキー・カンパニー。

毎週、私の流派では、ワイキキの茶室で抹茶体験ができる「茶道デモンストレーション」をおこなっていて、アメリカ本土の旅行者やハワイ滞在のあらゆるバックグラウンドの人びとが、抹茶人気に後押しされて茶室に集ってくる。

では、その人たちの和菓子に対する反応はどうだろう。

もともとアメリカは、コカ・コーラやロリーポップの食文化である。米国育ちの人たちにとって、和菓子が甘すぎるということは、まずない。また、ハワイでは日系文化が根づいているから、「餅類」も問題ない。

では何が苦手かといえば、それはズバリ、「お豆」である。豆に関しては、アジア系の人びとと、そうでない人びとの間で、意見が二つに分かれるのだ。

もともと北米・南米・ヨーロッパの人々にとって豆は主食か副食である。煮込んでスープやシチューにしたり、チリにしてホットドッグにかけたりするので、たいてい塩味やブイヨン系の味付けになる。


だから甘納豆を口にした欧米人は、ビックリすることが多い。なぜなら「豆が甘い」ことを予想していないからだ。その結果、小豆やあんこに対しても、拒絶反応を起こす人がいる。

だが、それ以外の和のお菓子は、金平糖であれ、麩の焼きであれ、錦玉(きんぎょく)や浮島(うきしま)、カステラや和三盆(わさんぼん)であれ、たいてい喜んで受け入れてもらえるというのが、ここ10年の私の経験だ。むしろ、和菓子はバターや卵を使わない、ヘルシーなお菓子として喜ばれる傾向にある。

和菓子づくりの教科書

最後に、和菓子づくりの愛読書をご紹介したい。私は、その本によって、いちから「あんこ」づくりを学んだ。私にとっては「バイブル」といえる存在だ。
15年以上前に出版された、金塚晴子著の『キッチンでつくる茶席の和菓子』(淡交社)という本である。


内容は専門的になり過ぎず、美味しくつくるために必要なノウハウが、たくさんの写真とともに、初心者にもわかりやすく掲載されている。季節ごとのお菓子も紹介されている。
一般人が台所で和菓子をつくるには、この一冊で充分だ。

さらに、こんなエピソードがある。
この本に載っていない「黄味餡(きみあん)」のつくり方を知りたくて、ダメもとで金塚先生に直接問い合わせたことがあった。先生は教室で教えておられるプロである。まさかお返事がいただけるとは思っていなかったが、すぐにメールで返信してくださったのだ。

おそらく、私が海外にいて国内の教室に通えない事情や、別の本を買うにも手元に届くまで時間がかかることなどを考慮して、例外的に温かい配慮をしてくださったのだと思う。そうしたお人柄も、私が金塚先生のファンである理由だ。ちなみに先生の別のご著書に、しっかり黄味餡の作り方が紹介されていて、もちろん今では私もその本を所有している。

その後も和菓子に関するさまざまな本が出版されつづけている。

和菓子の歴史や種類、うつわとの絶妙なバランス……どの本も綺麗な写真がページを彩り、見る者を魅了する。
世界中見まわしても、「和菓子の工芸性の高さや魅力にかなうものはない」と私は強く思っている。これらの本はそれぞれに、私にインスピレーションを与え、和菓子づくりの後押しをしてくれた。


向かって左から時計回りに『和菓子を愛した人たち』(虎屋文庫/山川出版社)は、日本の歴史上の人物とお気に入りの和菓子について興味深い逸話が紹介されている。「さすが虎屋。こんなにも資料が残っていたのか」と感じる素晴らしい内容。

次に、『一日一菓』(木村宗慎/新潮社)は、お茶人の人気ブログが書籍化された一冊。1年365日、美しいうつわに盛られた和菓子の写真は溜息もの。眺めていて飽きがこない。

そして『菓子珊珊』(山下恵光/平凡社)は、表千家の宗匠(そうしょう)が独自の美意識でこだわりの銘菓とうつわを組み合わせたもの。見立ての妙や自作のお菓子なども、たいへん勉強になる。

最後に、『京菓子歳時記』(石橋郁子・宮野正喜/光村推古書院)京菓子司「末富」の12か月の和菓子を紹介。これもよく目を通す一冊。

 
和菓子作りは時間がかかる。でも、私はそれだけの価値があると思っている。こなしや練り切りは、粘土細工のようで楽しい。琥珀糖は日持ちがして、色も見た目も美しい。その上、欧米の子どもたちにもたいへん受けがよい。

なにより、仲間で美味しくいただき、最後は胃袋の中におさめることができる。作品が後に残ることなく、保管場所をとらないのも和菓子のよいところだと思う。

日本には、本当に美味しい和菓子舗が各地にあり、匠の職人が送りだす銘菓は、とても素人が真似できるものではない。
私だって日本にいたら、けして和菓子を自分でつくろうとは思わなかっただろう。しかし、手に入らないから仕方なくつくりはじめた、その「自分の手でつくった、生まれたてのあんこ」は、豆の薫り高く、つくったことのある者にしかわからない、感動にあたいする美味しさなのである。

皆様も機会があれば、是非チャレンジしてみてはいかがだろうか。

 
最初から読む→常夏の島ハワイで楽しむ茶の湯とは?【一期一会のハワイ便り1】
第2回目→アロハスピリットと創意工夫で茶席を彩る【一期一会のハワイ便り2】
第3回目→ハワイの茶人のきもの事情とは?【一期一会のハワイ便り3】
第4回目→「いちごいちえ」は「1・5・1・8」【一期一会のハワイ便り4】
第5回目ロコも盆踊りに熱狂! ハワイの夏を楽しむBon Dance!【一期一会のハワイ便り5】
第6回目かわいい「茶箱」でどこでもお茶を【一期一会のハワイ便り6】

オノ・アキコ

65年生まれ。国際基督教大学卒業後、モルガン・スタンレー・ジャパン・リミティッド証券会社を経て、ロンドンのインチボルド・スクール・オブ・デザイン校にて、アーキテクチュアル・インテリア・デザイン資格取得。2007年ハワイに移住し、現在はハワイ大学の裏千家茶道講師を務めている。ハワイでの茶の湯を中心に、年に数度は日本に里帰りをしつつ、グローバルに日本文化を楽しんでいる。

(文と写真:オノ・アキコ/構成:植田伊津子)

書いた人

茶の湯周りの日本文化全般。美大で美術史を学んだのち、茶道系出版社に勤務。20年ほどサラリーマン編集者を経てからフリーに。『和樂』他、会員制の美術雑誌など。趣味はダイエットとリバウンド、山登りと茶の湯。本人の自覚はないが、圧が強いらしい。好きな言葉は「平常心」と「おやつ食べる?」。