日本文化の入り口マガジン和樂web
10月5日(水)
夜はあかん、朝考えよう(アンミカ)
日本文化の入り口マガジン 和樂web
日本文化の入り口マガジン 和樂web
10月4日(火)

夜はあかん、朝考えよう(アンミカ)

読み物
Travel
2020.03.16

女剣士・中澤琴の出身地。川の底に眠る伝説の温泉を訪ねて、群馬「老神温泉」へ

この記事を書いた人

木々の揺れる美しい山間の道を抜け、片品川(かたしながわ)に向け下っていくと、その合間から温泉街が顔を覗かせます。そこには、まるで故郷のような心の琴線に触れる懐かしい風景が広がっていました。

ここが今回の舞台、群馬県沼田市の老神温泉(おいがみおんせん)です。古来より「皮膚病に効果がある湯」として温泉街へと発展し、NHKのドラマ『花嵐の剣士 ~幕末を生きた女剣士・中澤琴~』で俳優の黒木メイサさんが演じた女剣士・中澤琴の出身地としても有名です。

…というわけで、こんにちは。和樂webでの温泉取材が3回目となる温泉ソムリエの矢野詩織です。後世に伝え守っていきたい日本全国の温泉を「国宝級温泉」と名付けてご紹介しています。

今回、快く取材を受けてくれたのは、老神温泉観光協会の協会長であり、旅館「仙郷」の代表を務める金子充さん(以下、充さん)。

写真:老神温泉観光協会の協会長、旅館「仙郷」の代表を務める金子充さん
そして、老神温泉旅館組合の組合長で旅館「伍楼閣」の代表を務める金子千明さん(以下、千明さん)。

写真:老神温泉旅館組合の組合長であり、旅館「伍楼閣」の代表を務める金子千明さん

老神温泉と共に歩んだ時代と驚きの地形について、詳しくお話を伺いました。

赤城山の神が傷を癒やした老神温泉へ

「今は、”ひなびた”と言うより”くたびれた温泉”だね。」と笑う、千明さん。老神温泉の全盛期は、全国で露天風呂ブームがおこった昭和60年代。当時から景観美が売りであった老神温泉は、露天風呂ブームにのり、多くのゴルフ客やスキー客で賑わいをみせたそう。「当時は待っていればお客様が来る時代」と振り返ります。

その後、バブルがはじけて客足が減り、老神温泉全体が衰退していきました。現在では、15軒の宿泊施設と1軒の日帰り入浴施設が点在しています。

ところで印象的な「老神(おいがみ)」という名の由来を聞くと、”開湯伝説から”と教えてくれました。(以下、老神温泉旅館組合公式サイト引用:http://www.oigami.net

湯の歴史は古く、その昔、赤城山の神(ヘビ)と日光男体山の神(ムカデ)が戦った時、弓で射られた赤城山の神が赤城山山麓に矢を突き刺すとたちまちお湯が沸いてきたのが始まりとか。赤城山の神がそのお湯に傷を浸すとたちまち治り、男体山の神を追うことができたことから「追い神」と呼ばれるようになり、それが「老神」になったと伝えられている。

そして、毎年5月には開湯伝説に基づき、老神温泉観光協会が主体で「大蛇まつり」を開催。若衆みこしは、宿泊者も自由に参加できるので好評だとか。また、巳年には、長さ108.22m、重さ2.0tにも及ぶ巨大な大蛇が登場。それを約300名で担ぎ、温泉街を駆け巡ります。

さらに、今年の「大蛇まつり」では、群馬デスティネーションキャンペーンに合わせて特別に巨大な大蛇が登場。手作りの巨大な大蛇は、迫力満点!実物は、老神温泉観光協会に展示されているので、訪れた際には間近でその大きさを体感してほしいです。

川の底に眠るかつての老神温泉

そして話は、老神温泉の歴史に大きく関わる地形について発展。「本来の老神温泉は、今の場所ではなく川沿いにあったんです。川の斜面に宿が建てられたのは、昭和40年頃なんですよ。」と充さん。実は、老神温泉と呼ばれる現在の温泉郷は、かつて老神、大楊、穴原の3地区にまたがっており、昭和10年に温泉地を統合して、群馬を代表する温泉地に発展していきます。

さらに昭和40年代には、薗原(そのはら)ダムの建設により源泉を引き上げて、現在のような山の斜面に温泉街が移動したという経緯がありました。

温泉街の入り口の急斜面に建ち、薬師如来を祀る赤城神社からは街全体が見渡せ、川の斜面に沿って旅館が立ち並ぶ様子がよくわかります。

「薗原ダムの建設の際に、建設省(現在の国土交通省)が補償のために10本の源泉を掘削しました。今では15本の源泉があり、各宿の温泉につながっています。当時の源泉8本は川の底に沈んでいるんですよ。」と充さん。

かつての老神温泉は、片品川に沿って宿が立ち並び、お風呂は宿の外、つまり川の中にあったそうです。宿泊者は、川岸まで細い橋を渡って移動したみたいです。趣がありますよね。当時の貴重な写真を「東秀館」さんから提供していただきました。写真の中には、洪水被害の受けた様子が写っており、宿が川と隣合わせで建っていたことがわかります。この写真は、昭和40年頃におこなった「観光キャラバン」と言われるPR活動。宿の社長さんが乗っていたクラウンなどの高級車に老神温泉の看板を掲げ、広告カーにして駅などを周ったそうです。当時の繁盛ぶりが伝わる貴重な1枚です。さらに芸者さんの姿も写真に残っていました。当時の賑やかな温泉街の様子が伝わってきますね。歌人・若山牧水も訪れたかつての「老神温泉」。今は、川の底へと静かに眠っています。写真と共に宿の廃墟を見ると当時の温泉地が蘇るような不思議な気持ちになりました。

伝説の湯巡り手形を持って老神温泉を満喫!

時代と共に地形までも変化を遂げてきた老神温泉。古来より肌に優しい温泉は、今も大切に守り受け継がれています。ゆったりとプチ湯治感覚で宿泊するはもちろん、「伝説の湯巡り手形」を購入すると温泉組合加盟の13の旅館から3箇所で日帰り入浴が可能。各宿の個性豊かな温泉を3箇所も巡ることができるので、温泉好きには嬉しい体験が待っています。

ちなみに、ヒノキでできた湯巡り手形は、群馬県立利根実業高等学校の高校生の手作り。今回は、取材に協力していただいた「仙郷」「伍楼閣」「東秀館」3つの宿を巡らせていただきました。

渓谷沿いの温泉街を見下ろす、美しい宿「仙郷」

温泉地から少し離れた静かな高台にある「仙郷」。渓谷沿いの温泉街を見下ろせる、高級感溢れる美しい宿です。
「今は、団体のお客様から個人のお客様へ変化している時代。旅館やホテルでは素泊まりを求められる中、うちは温泉や地元の食材を使ったこだわりの料理を体験していただく、1泊2食付きのやり方を守り続けたいんです。」と充さん。
お風呂は、風情のある内風呂と露天風呂が用意されています。アルカリ性単純硫黄泉と単純泉の混合したお湯は、肌に優しく、ツルンとした肌触り。ちなみに充さんは、老神温泉仙郷3代目湯守であり、群馬県上級温泉アドバイザー。泉質や入浴方法に詳しいので、利用時にはアドバイスをもらうのもいいかも。

静かな癒しの宿「仙郷」概要

住所:群馬県沼田市利根町大楊2-1
公式サイト:https://www.senkyou.jp

自然と一体化できる絶景露天風呂、6つのお風呂が楽しめる「伍楼閣」


全国露天風呂百景に選ばれる「赤城の湯」を始め、色も香りも異なる4つの露天風呂と2つの大浴場が楽しめる「伍楼閣」。

先代のコレクションである多くの日本画が飾られた落ち着いた雰囲気の宿です。「とっておきの場所は、山水画のような片品渓谷を一望できる露天風呂。」と千明さん。

開放感溢れる露天風呂に入ると、自分も自然の一部になった感覚に。肌触りの優しい温泉に浸かれば、そばを流れる川のせせらぎや野鳥の声、風の音まで贅沢で心地よいです。

宿泊すれば、地産地消にこだわった群馬の契約農家で採れた野菜、旬の山の幸、川魚菜をふんだんに使った美味しい料理が堪能できます。

老神温泉 「伍楼閣」概要

住所:群馬県沼田市利根町老神602-10
公式サイト:http://www.gorokaku.com

老神温泉で唯一直系で守り受け継がれている宿「東秀館」


明治27年創業で老神温泉で唯一直系で守り受け継がれている宿「東秀館」。温泉は、無色透明の単純硫化水素泉で自家源泉100%の掛け流し。

季節によっては湯がナタデココのように固まるほど”成分の濃い湯”が目玉だそう。浸かるだけでハリと潤いがよみがえり、湯上りの肌はすべすべに。
また、宿泊すれば四季折々山で採れる素材を中心とした豪華な料理を楽しむことができます。老神の美しい自然に囲まれた極上の癒やし体験が待っています。

老神温泉 穴原湯 「東秀館」概要

住所:群馬県沼田市利根町穴原1151
公式サイト:http://www.toshu-kan.com
温泉はもちろん、開湯伝説や地形など深く知れば知るほど、面白い歴史が隠された老神温泉。さらに温泉以上に温かい、地元の方の人情に癒やされる温泉地でした。2020年4月~6月の3ヶ月間は、群馬デスティネーションキャンペーンが始まり、全国的に注目の集まる群馬県。老神温泉では、老神温泉観光協会が主体となり2月~3月にかけて「老神温泉びっくりひな飾り」、4月~11月には地元の特産物が並ぶ名物の朝市が始まります。ぜひ、春の訪れと共に老神温泉を訪れてみてください。

老神温泉観光協会 概要

住所:群馬県沼田市利根町老神607-1
公式サイト:http://www.oigami.net

書いた人

岡山県生まれ。後世に残したい旅館やホテル、ディープな温泉を取材。温泉旅行と絵を描くことが趣味。粉もんが大好物です。