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2020.04.07

不老長寿の妙薬!?中国最古の医学書にも登場する「桑」活用法はこんなにあった!

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「くわばらくわばら」と言えば、雷などの災いから身を守る時のおまじないですが、この言葉は「桑」に由来することをご存知でしょうか。

おまじないの文言にも登場するほど、一昔前まではとても身近な植物だった「桑」。

養蚕業の衰退とともに桑を見かける機会は少なくなりましたが、古くから「薬草」「長寿の薬」として人々に愛されてきた桑が、古くて新しい「パワーフード」として昨今再び注目を集めています。

そこで今回は、桑の奥深い歴史とともにその魅力や活用法などをお届けしたいと思います!

桑と日本人の深い関わり

桑は、絹の生産のために蚕が唯一食べる葉っぱです。蚕を育てて、その繭から絹の生糸を作る産業は「養蚕業」と呼ばれ、かつては日本の主要産業でした。

絹の生産方法は中国から伝わり、なんと弥生時代から行われていたのだとか。

明治時代に入ると養蚕業は最盛期を迎え、質の良い糸を大量に輸出できるほどに成長。国レベルでは近代化のための「外貨獲得産業」として重要視され、また農家にとっても貴重な収入源だったことから「おかいこさん」「おかいこさま」など、敬称で呼ばれるようになりました。

当時は桑の木は各地に植えられており、養蚕業の盛んな地域では「一面が桑畑」という風景も珍しくなかったそうです。

しかしその後、世界恐慌などによる海外市場の変化や、海外製の絹や化学繊維などの安価な代替品の登場により、日本の養蚕業は衰退していきます。1979年には大規模な養蚕農家だけでも15,000軒以上あったのに対し、2016年には全国の養蚕農家は349軒にまで減少しています。

今でこそ桑を見かけることは少なくなりましたが、ごく近年まではとても身近で大切にされてきた植物だったんです!冒頭に書いた「くわばらくわばら」というおまじないだけでなく、地図記号にも桑畑のマークがあったり、日本は別名「扶桑国」と呼ばれたりすることからも、桑との深い関わりがよく分かりますね。

「薬草」として重宝されてきた

桑の効能は古くから伝えられており、中国最古の医学書『神農本草経』にも紹介されています。桑の葉を日陰で乾かしたものは「神仙茶」と呼ばれ、中風や滋養強壮に用いられ「不老長寿の妙薬」として重宝されてきました。

桑について書かれた日本の書物のなかでは「秀真伝(ホツマツタエ)」が最も古く、縄文後期から古墳前期までの約千年の神々の歴史や文化を伝えています。そのなかで桑は「はぐは」として紹介され、冷えや腹痛の改善に「千代見草(よもぎ)」や「ひとみ草(人参)」と一緒に煎じて飲んだところ、症状が緩和されたと記述されています。

他にも、平安時代の『医心方』や『和妙抄』、鎌倉時代には栄西禅師による『喫茶養生記』に桑粥や桑湯が紹介されるなど、桑はさまざまな書物のなかで取り上げられています。

また、漢方では根は「桑白皮(ソウハクヒ)」、葉は「桑葉(ソウヨウ)」、果実は「桑椹(ソウジン)」と呼ばれる生薬で、根・葉・果実全てが利用されています。特に、「桑白皮」は、荘園、利尿、鎮咳、去痰などの効果が期待されると言われ、多くの漢方薬に用いられています。

昔は身近に飲まれていた「桑の葉茶」

現在よく飲まれている緑茶などのお茶は、「茶の木」の茶葉を利用したもの。日本に伝わってきたのは奈良時代ですが、「喫茶」が庶民に広がったのは戦国時代から江戸時代にかけてと言われています。

昔は茶の木は高級品だったため、庶民は身近にある木の葉を利用してお茶の代わりに飲んでいました。そのひとつが、桑の葉茶です。当時は身近な植物だったことや古くから薬として用いられてきたことなどから、桑をお茶として飲むことはごく自然なことだったのでしょう。

そんな桑の葉茶ですが、最近では桑の葉の栄養や効能がさまざまな研究により認められています。特に、桑の葉だけに含まれる成分「デオキシノジリマイシン」という成分には、食後の血糖値の上昇を抑える働きが研究されています。その他、カルシウムや鉄、亜鉛、食物繊維なども豊富に含まれています。

気になるそのお味は?

古くから私たちの暮らしと健康を支えてきた「桑」。「この記事を読んでいたら、桑が食べてみたくなった!」という方もいらっしゃるかもしれません。では、気になるその味は、一体どうなのでしょうか。

まずは、桑の実を食べてみましょう。ビタミンやカリウムなどが豊富で「スーパーフード」と呼ばれることも。ドライフルーツになったものは、ほのかな甘さと酸味がありとても食べやすい!プチプチという食感も特徴的です。

桑の葉を使った商品も数多く登場しています。桑の葉を乾燥させたものは「お茶用」に。苦味やクセはあまり強くなく、爽やかな香りがあり飲みやすいです。

「昔はお茶の代用品として飲まれていた」というのも納得できます。茶葉に熱湯を注いでしばらく待つか、やかんなどで数分間煮出していただきます。

桑の葉を乾かしてパウダー状にしたものは「青汁用」に向いています。桑の葉の栄養を丸ごといただけて嬉しいですね。

「桑の葉の青汁」と聞くと「苦そう」「美味しくないのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、味は抹茶にも似ていて、想像していたよりもずっと飲みやすかったです。

乾燥茶葉やパウダーの活用法

桑の葉の活用法は他にもあります。民間療法や「おばあちゃんの知恵」などでは、乾燥させた桑の葉にホワイトリカー(または35度以上の焼酎)を注いで1ヵ月ほど寝かせた「桑の葉エキス」がよく知られています。

桑の葉エキスは食前酒のように飲んだり、化粧水などを作ったりと幅広く利用できます。

桑の葉パウダーは青汁のように飲むのに飽きたら、温めた豆乳やミルクなどを注いで「抹茶ラテ」ならぬ「桑の葉ラテ」のようにしても美味!抹茶とは違ってノンカフェインなので、カフェインを控えている方にも安心です。

またパウダーは、料理やお菓子に混ぜて使うのもおすすめです。偏食気味の方や野菜嫌いの子どもにもいいですね(写真奥に写っている「桑の葉パウダー入りの米粉パンケーキ」は、もうすぐ2歳になる子どもにも好評でした!)。

進化中の「桑ワールド」、ぜひ体感を

蚕はタバコや線香などの煙を吸うだけで死んでしまうほど繊細な生き物。そのため、そのエサとなる桑は清らかな環境でしか栽培できませんでした。

また桑の木は1年間手入れを怠るだけで、荒れてしまうほどデリケートな木なので、丁寧な管理が求められます。

いい環境で愛情を込めて育てた桑にはさまざまなパワーがあり、身体にやさしいというのは何だかとても納得しますね!

現在は桑の魅力を伝えるべく安心安全にこだわった生産者や、桑でまちづくりや伝統文化の継承を目指す地域も登場していて、桑ワールドは「まだまだ進化中」と言えそうです。

まずは桑を手に取って、古くて新しいその魅力をぜひ体感してみてはいかがでしょうか。

書いた人

バックパッカー時代に世界35カ国を旅したことがきっかけで、日本文化に関心を持つ。大学卒業後、まちづくりの仕事に10年以上関わるなかで食の大切さを再確認し、「養生ふうど」を立ち上げる。現在は、郷土料理をのこす・つくる・伝える活動をしている。好奇心が旺盛だが、おっちょこちょい。主な資格は、国際薬膳師と登録ランドスケープアーキテクト(RLA)。https://yojofudo.com/