日本が誇る車の名ブランドといえばトヨタ。走りがよくて堅牢で、世界最高レベルの技術を生かした実力派。手ごろな乗用車もセレブ御用達の高級車もお任せの、キングオブ日本車です。「実は刀界にも、このトヨタに匹敵する王国がありました。」と話すのは、京都国立博物館の研究員であり、刀剣マスターとも称される末兼俊彦さん。刀界の名ブランドはどんなものだったのでしょうか。
備前は刀界のトヨタである!
トヨタに匹敵するほどの王国、それは「備前」。現在の岡山にあたる備前国の刀工集団による、刀界の名ブランドです。時は12世紀後半から16世紀後半。強みは地元の良質な砂鉄と高い製鉄技術。同じような集団は日本各地に多数現れ、後に備前を含む五大流派が「五箇伝」と呼ばれたりもしましたが、「国宝や重要文化財の刀の半分近くが備前」という事実が、その圧倒的な実力を今に伝えます。
大包平は車でいえばレクサスをカスタマイズした最上級ラグジュアリー!
「備前は大勢のスターも輩出しました。平安時代の名工・包平(かねひら)や、鎌倉時代の則宗、鎌倉後期の長光の刀は、いわばレクサスをカスタマイズしたゴージャスカー。大名や天下人に愛された逸品です」と、末兼さん。一例を挙げるならば包平がつくった「名物 大包平」。通称に“大”とついているのはグレートの意味で、すなわち大包平はグレート・カネヒラです。
いっぽう室町後期に活躍した末備前の刀工たちは、“数打ち”と呼ばれる量産型の刀を制作。品質が安定していて使い勝手もいい、みんなの定番カローラに値します。
「もしも自分が戦国武将だったら? 迷わず所望するのは室町時代につくられた備前の剛刀。野趣にあふれていて超実用的。世界の王族にも愛される4WD、ランドクルーザー的な刀ですね」(末兼さん)
世界に先駆けてブランド力をものづくりに生かしたのが、何を隠そう日本刀。そう思うと親しみがわいてきませんか?