Culture
2019.10.29

ハワイの美術館や博物館おすすめ3選。見どころと魅力を紹介!【一期一会のハワイ便り8】

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秋ですね。寒暖の差がはっきりと出てきて、わたくしはようやく半袖をしまいました。個人的には10月まで夏気分。だって暑いんですもの。

しかし、美術館や博物館では「芸術の秋」をパワープッシュするすばらしい展覧会が、各所で開かれています。そして近年、都内の美術館では海外の方を目にする機会が確実に増えています。訪日外国人に日本の美術館が「ものすごく日本的(当たり前か)」だってことが知られてきたんですね。

「旅行先で、そこの美術館に行く」ということは、ザクッと見知らぬ土地の文化を知ろうというとき、もっとも手っ取り早いこと。それはハワイでも同じ。ただ「ハワイの美術館ってどうなんだろう……」と思っていました。このオノさんの原稿を読むまでは。

申し訳ありませんでした!!!
きっと最後まで読めば、「ハワイの美術館いいかも」という気分が盛り上がります。では、今月のハワイ便りをどうぞー。

芸術の秋!ハワイで美術館散策を!

文と写真/オノ・アキコ
 
今年も残すところわずか2か月となった。のんびり気質のハワイもだんだんとせわしくなってくる。

子どもとともに大人たちも童心にかえり、いたるところで仮装パーティーがくり広げられる10月末日の「ハロウィン」が過ぎると、すぐに気分は11月末の「サンクスギビング(感謝祭)」に切り替わる。そして「サンクスギビング」が終わるか終わらないかのうちに、街中がクリスマス・モードになるのだ。その変わり身の早さたるや、見事なものだ。どこの国も、お祭りや祝いごとは大好きなのである。

しかしイベントがなくても、11月に入ると気温が下がって過ごしやすくなるので、「外に出かけようかな……」という気分になってくる。そんなとき、フラリと立ち寄れる美術館や博物館の存在はとてもありがたい。

ここハワイで、私が個人的に好きなのは以下の3館である。
1、ホノルル・ミュージアム・オブ・アート(ホノルル美術館)
2、ビショップ・ミュージアム
3、スパルディング・ハウス(前コンテンポラリー・ミュージアム)

ハワイの美術館や博物館の一番良い点は、ズバリ、あまり混まないところだ。

日本では、人気のある美術館の展示には長蛇の列をつくって入場券を買ったり、前後の人びとのペースに合わせて、秩序を乱さず展示品を見る必要があるが、ここではそのような状況になることがまずない。
フラリと立ち寄っても、すぐに入館できて、まばらな来館者のなかで自分のぺースで心ゆくまでゆっくり展示品を楽しむことができる。 

そして第二に、サイズが大き過ぎないこと。数時間の空き時間で目当てのものが観られるし、半日から一日あれば、全館をまわって存分に楽しむことができるのだ。
NYのメトロポリタン美術館やロンドンの大英博物館など、とてもではないが、一日で回ろうと思ったら、かなり駆け足になるだろう。

でも、ここの美術館や博物館は旅行者にうれしい「程よいサイズ」なのである。たとえば、東京でいうなら、目黒区の原美術館や港区の庭園美術館のような感じだろうか。

ワイキキの喧騒から離れて、静かに過ごしたいときには最適な場所だと思う。

イチオシはこちら!ホノルル美術館

まずは、私の一番好きなホノルル・ミュージアム・オブ・アートからご紹介しよう。ここはワイキキからそう遠くない街中にありながら、まるで中世ヨーロッパの屋敷にいるような気分にさせてくれる、とても雰囲気のある美術館だ。

建物そのものはビクトリア調で、ところどころに美しいパティオが配置され、回廊にはさりげなくテーブルや椅子が置かれていて、疲れた脚を休めて一息つけるようになっている。そしてパティオを取り囲む館内は、国や地域で分類されており、中庭から降り注ぐ自然光がやさしくアートを包んでいる。


主に19世紀ヨーロッパのアーティストの作品を飾った部屋。


東洋美術エリアの中庭、チャイニーズ・コートヤードの池には蓮が浮かぶ。


日本の芸術品が紹介されている部屋には、印籠(いんろう)や刀、櫛(くし)、簪(かんざし)、掛軸などとともに、尾形乾山の四方皿や茶道の茶碗、釜や、それを据え置くための風炉も展示されていて、私にはうれしい空間だ。


また、別部屋には、日本の木版画作品なども多数見られる。そして、常設ではないが、ホノルル美術館の浮世絵コレクションは大変有名で、広重や北斎、歌麿などの作品が定期的に展示されるので要チェックだ。


中国の芸術を紹介した部屋には、椅子やチェストなどの家具類から、仏教装飾品、大仏像や観音菩薩像などの美術品がていねいに配置されている。


地中海を彷彿させるメディタレニアン・コートヤード。オリーブの木が植えられていた。


近代アートのエリアには、ピカソ、マティス、ルノワール、ゴーギャンなど、名だたる巨匠の作品がさりげなく飾られている。

 
まさかホノルルでピカソが観られるなんて……と友人が感激していたが、そもそも、この美術館は1927年に「あらゆる文化を網羅した、ハワイで初のビジュアル・アート美術館を」というモットーを掲げて設立されている。

創立者のアナ・ライス・クックは、ハワイで生まれた子どもたちがさまざまなルーツを持ちながら、豊かな文化の中心地から遠く離れたこの島で、自分達の文化的資産を目にすることなく過ごしていることを残念に思い、この美術館で「互いの文化的背景に触れて、ともにあらたな文化を築いてゆけるように」という願いを込めたという。

ここに来ると、彼女のその思いがとてもよく伝わってくる。このページでは到底紹介しきれないが、まるで世界を一周して少しずつ代表的な作品を観ているような感じだ。


現代アートも網羅している。「21世紀のウーマン」と題された部屋。


そしてもうひとつ特筆すべきは、この美術館のカフェテリアだ。
とても気持ちの良い空間で、よくビジネス・ミーティングなどでも使われている。ここに来るために美術館に足を運ぶ人もいるぐらいだ。カフェの横にはギフト・ショップもあるので、ABCストアやホール・フードとはちがうお土産を買うなら、帰りがけに寄ってみるとよいかもしれない。

最後に、あまり知られていないが、ホノルル美術館が管理・運営するハワイの文化的資産に、「シャングリ・ラ」という場所がある。ここは、1925年、わずか12歳にして父親であった米国タバコ事業実業家、ジェームス・デュークの莫大な資産の相続人となり、「世界で一番裕福な少女」としてその名を知られたドリス・デュークの邸宅だ。


1937年にダイヤモンド・ヘッドの海沿いに建てられたこの美しい邸宅では、イスラム・アートの収集家としては世界でトップクラスであったデュークの圧巻のコレクションが観られる。壮大な屋敷は、背景の海や蒼い空とあいまって、そのたたずまいに息をのむ。予約制で、人数制限があり、ホノルル美術館からのシャトルバスでしか行くことはできないが、もし時間が許すのであれば、お勧めのスポットだ。日本語のツアーもあるので問い合わせてみるとよいと思う。


このように、ホノルル美術館は展示品を楽しむだけでなく、空間そのものがアートであり憩いの場だと思う。どこにたたずんでも「インスタ映え」すること間違いなし(笑)!しかも大変便利な場所にあるので、ハワイに来たら、迷わずに足を運んで頂きたいと思う。

博物館ならビショップ・ミュージアムははずせない!


続いて、ビショップ・ミュージアム(ビショップ博物館)をのぞいてみよう。
1889年に建てられたというこの「ハワイアンホール本館」は、ハワイの火山から流れ出た溶岩が主体の「玄武岩」を使った、重厚な雰囲気の建物だ。そして、内部はこれもハワイ産の貴重なコア・ウッドがいたるところに使われている。

この美術館の特徴は、広い庭を囲むように点在する6つの建物が、おのおの異なる分野に焦点を絞って美術品や歴史的資産、記念品、写真、生物標本や模型、そして植物などを紹介・陳列している点だ。

6つの建物とは、本館のハワイアンホール(1)、パキ・ホール(2)、キャッスル記念館(3)、ナ・ウル・カイヴィウラ・ネイティブ・ハワイアン・ガーデン(4)、リチャード・マミヤ・サイエンス・アドベンチャー・センター(5)、ジャポルカ・パビリオン(6)である。

ハワイの歴史にすこしでも興味があれば、間違いなく、「ハワイアン・ホール本館」をお勧めする。


入館してすぐ左に位置するのは、「プリンセス・ケカウリケ・カヒリ・ルーム」。有名な「カメハメハ大王」から続く、ハワイの王族の写真や軌跡がまとめられている。

「カヒリ」とは鳥の羽でつくられた装飾品のこと。王族の背後、左右に高くこれを掲げることが、その高貴な血筋の証であった。鳥は空高く舞うことから、天に近く、神に近い神聖な存在とされていた。その南国の鳥の美しい羽を多く使って、「カヒリ」はつくられている。

日本語のガイド・サービスが一日に4回ほどあり、予約なしでも親切なガイドの方がハワイの歴史にまつわる面白い話を30分ほどしてくれる。スマホを利用したオーディオ・ガイドも日本語で使用可能だ。

ここにきて思うのは、ハワイは太平洋に浮かぶ島ゆえに、長い間、外界とは隔離された独特の文化があり、島の中ですべてが賄(まかな)われていたということ。島に乗り入れた西洋の船によって多くの病気が島に運ばれ、免疫のない島の人びとや動植物もどんどん破壊されてしまった。どんなに恐ろしかったことか。

今やハワイは立派なアメリカ合衆国である。しかし今でも、ハワイには「蛇」がいない。この島で蛇を見ることがあってはならないのだ。もし蛇を持ち込んだら、島の生態系がまた壊れてしまうだろう。


コアの木材がふんだんに使ってある美しい本館の「ハワイアンホール・ギャラリー」は、博物館の中心的な存在だ。ビショップ・ミュージアムが誇る膨大な収集物は、3フロアでテーマ別に展示もしてある。落ち着いた雰囲気だが、頭上にクジラやサメの実物大の模型が吊るされていて面白い。


同じく本館の「ザ・ピクチャー・ギャラリー」は西洋の技法による絵画の部屋。23歳で亡くなった、ハワイの美貌のプリンセス、ヴィクトリア・カイウラニ王女の描いた絵も展示されている。

 
そして、スポーツ好きにはハワイアンホール本館の背後にある、「パキ・ホール」に必ず足を延ばしていただきたい。なぜなら日本の相撲界や球界において大活躍した有名選手が、ここパキ・ホールで、その他のハワイ出身オリンピック選手とともに殿堂入りしているからだ。


南の島から弟子入りし、私たちの想像をはるかに超える苦悩と血のにじむような努力をして、土俵にその足跡を残した、高見山関。類まれな才能と大きな体で、国技館をゆさぶった、コニタンこと小錦関。

球界では、長嶋選手も頭が上がらなかったという、ハワイ出身の巨人軍、ウォーリー与那嶺選手。わたしは、生前の与那嶺選手に数回お目にかかったことがある。とてもおだやかで、人を包み込むような温かさのある方だった。

パキ・ホールを歩いていると、ハワイアンのスポーツ選手も多いが、日系人の名前も目立つ。特に水泳選手に多い。昔から、勤勉でまじめにトレーニングをする日系の人達は、体は小さくともここぞというときに力を発揮したのかな、と思うと感慨深い。

さて建物を移って、何となくひんやりする暗いトンネルをくぐる。水の音やハワイの土着の人びとの祈りの声(チャント)などが聞こえる空間。ここはもうひとつのビル「リチャード・マミヤ・サイエンス・アドベンチャーセンター」の中だ。


自然科学に興味のある人なら、ここでゆっくり時間を過ごしたいと思うはずだ。しかも定期的に上演される「火山のしくみ」は、子どもでもわかりやすく人気となっている。

そして、ビショップ博物館のもうひとの魅力はプラネタリウム。これは「ジャポルカ・パビリオン」内にある。ハワイは実際、晴れてさえいれば夜空の星がとても綺麗な島だが、ここで予習してから空を見上げると、楽しさが倍増するのだ。

広大な敷地に建物が点在し、それぞれ工夫を凝らした展示をしているビショップ博物館。カフェテリアが他の美術館にくらべて少し寂しい気がするが、食事は別の場所でとったとしても、ここにはたくさんの発見がある。特に子供連れの家族にお勧めしたい。

元・コンテンポラリー・ミュージアムはホノルル美術館の別館に!

はじめて私がここを訪れたときは「コンテンポラリー・ミュージアム」と呼ばれていた。しかし近年、ホノルル・ミュージアム・オブ・アート、つまり、前述のホノルル美術館の別館「スパルディング・ハウス」になった。

場所は、オバマ大統領が卒業して知名度があがった私立校「プナホウ・スクール」から車で5分ぐらい山へ上って行ったところで、「秘境の美術館」とでもよびたくなる場所である。もともとコンテンポラリー美術館と呼ばれていただけあって、ここに展示されているものの多くは現代アートだ。でも私は、アートを観賞するためよりも、庭を散歩し、カフェでくつろぐためにここへ来る。


カフェは屋内と屋外の両方に席があり、メニューはスープ、サラダ、サンドイッチなど、シンプルながらどれも美味しい。常連らしい山の住人や美術館のサポーターが談笑している。カフェからランチ・ボックスをテイク・アウトし、敷き物を借りて、手入れの行き届いた広い庭園でお昼を食べながらのんびり過ごしているカップルや家族連れも多い。


美術館の庭には現代彫刻がところどころに置かれていて、芝生は青々とよく茂り、大木がほどよく陰を生み、風も心地よい。同じサンドイッチでも、屋内で食べるのとは大きな違いなのだろう。何だか皆、ピクニックに来ているようだ。


館内に展示されている作品はそう多くはないが、今の時代に芸術家という仕事を選んだ人々の息吹を感じる。

 
スパルディング・ハウスは車で訪れることもできるが、シャトルバスがホノルル美術館との間を往復していて、同じ入場券で入館できる。ただ大変ショックなことに、今年(2019年)の12月中旬をもって閉館されるそうである。(もし、年内にハワイへご旅行予定の方は是非訪れてください!)

以上、ハワイで魂の洗濯ができるカルチャースポットをご紹介した。海水浴や山登りもとても気持ちのよい体験だが、緑の多いハワイの美術館もまた、老若男女が心拍数を上げずにおおいに楽しめるところなのである。
 
最初から読む→常夏の島ハワイで楽しむ茶の湯とは?【一期一会のハワイ便り1】
第2回目→アロハスピリットと創意工夫で茶席を彩る【一期一会のハワイ便り2】
第3回目→ハワイの茶人のきもの事情とは?【一期一会のハワイ便り3】
第4回目→「いちごいちえ」は「1・5・1・8」【一期一会のハワイ便り4】
第5回目ロコも盆踊りに熱狂! ハワイの夏を楽しむBon Dance!【一期一会のハワイ便り5】
第6回目かわいい「茶箱」でどこでもお茶を【一期一会のハワイ便り6】
第7回目海外で和菓子をつくってみたら、いろんなことが発見できた!【一期一会のハワイ便り7】

オノ・アキコ

65年生まれ。国際基督教大学卒業後、モルガン・スタンレー・ジャパン・リミティッド証券会社を経て、ロンドンのインチボルド・スクール・オブ・デザイン校にて、アーキテクチュアル・インテリア・デザイン資格取得。2007年ハワイに移住し、現在はハワイ大学の裏千家茶道講師を務めている。ハワイでの茶の湯を中心に、年に数度は日本に里帰りをしつつ、グローバルに日本文化を楽しんでいる。

(文と写真:オノ・アキコ/構成:植田伊津子)

書いた人

茶の湯周りの日本文化全般。美大で美術史を学んだのち、茶道系出版社に勤務。20年ほどサラリーマン編集者を経てからフリーに。『和樂』他、会員制の美術雑誌など。趣味はダイエットとリバウンド、山登りと茶の湯。本人の自覚はないが、圧が強いらしい。好きな言葉は「平常心」と「おやつ食べる?」。