日本文化って、なんかわからないけど難しそう。歴史があって高尚な感じ。自分の生活とはとても遠いもの、と思っていた私。
その認識を「浅い!」と和樂web編集長セバスチャン高木(以下高木さん)が一喝。色々なタイミングが重なって、「日本文化に対して先入観がある人々を解放し、日本文化をもっと気軽に楽しんじゃおう」というコンセプトの音声コンテンツを定期的に配信することになりました。
その名も『日本文化はロックだぜ!ベイベ』。
命名は高木さんです。私はこのタイトルを聞いた当初、日本文化がロックというイメージがつかず、本当にそうなのか、と懐疑的でした。しかし何回か収録を重ね、日本文化にまつわる色んな話を聞いているうちに「たしかにそういう側面もあるんだな」と納得しました。
早速聴きたいと思ってくださった貴重な方! 『日本文化はロックだぜ!ベイベ』へのリンクはこちらです(無料)。
和樂webの「日本文化はロックだぜ!ベイベ」
さて、高木さんのお話は実際に聞くと巧みな話術に加え、日本文化に詳しくない私にはとても新鮮な内容ばかりで非常に面白いものでした。素直に、音声コンテンツだけに留めておくのはもったいないと思い、今後は各回の講義ノートとして、その内容を公開していくことにしました!
第1回のテーマは「日本美術はアートなのか?それが問題だ」です。
「日本美術って、美術と入っているからにはアートでしょ?」と思っていましたが、高木さんの話を聞いてみると、実はそうでもありませんでした。
実はアートとして描かれていなかった!日本美術
国宝の『鳥獣人物戯画』をご存知でしょうか。最近では米津玄師氏の『パプリカ』が鳥獣戯画ver.として公開されていました。ウサギやカエルを擬人化して描いた絵巻物です。
この絵巻物、元々「動物を擬人化した絵巻物を作ろう!」というものではありませんでした。実際は、色んなお坊さんが「こんな世の中があるな」というのを少し悲観して描き、それを集めて巻物にしたもの。
つまり、現代の私たちがイメージするアートのように、最初からコンセプトがあって描かれたものではなかったのです。そのほか、平安時代〜江戸時代に作られた屏風や床の間に飾る絵も、アートとして描かれたものではありませんでした。
では、アートでないのなら何なのか。
一言でいうと、「飾り」。何かしらの目的をもって描かれたものでした。
例えば、東京オリンピック・パラリンピックの記念硬貨のモチーフに採用されたことでさらなる注目が集まった風神雷神図屏風も、屏風が置かれた空間を飾るものとして描かれました。「このように、アートとして描かれていなかったものを、現代の私たちはアートとして再発見し、楽しんでいるというのが、日本美術の一番面白いところだ」と高木さんは言います。
東京オリンピック、パラリンピック記念硬貨で話題!風神雷神図を描いた絵師比べ
ちなみに、絵巻物は右から左へと画面が動くと同時に時の経過を表しています。これは漫画やアニメーションの手法と同じで、長い日本美術の歴史の中で絵巻物だけが日本オリジナルとも言われているそうです。
なぜアートとして描かれていなかったものを日本美術というのか
ここでひとつの疑問が湧きます。絵巻物や屏風などの日本美術は元々アートとして描かれていなかったとすると、なぜ現代の私たちはそれをアートとして捉えているのでしょうか。
その謎解きの鍵が、アートという言葉が入ってきた時代にあります。それは明治時代のこと。明治6(1873)年のウィーン万国博覧会に参加するにあたって、『アートには「芸術」、その中のファインアート(fine art)という言葉には「美術」』という言葉をそれぞれ充てました。そこから、描かれたものを日本美術と捉える概念が広がっていったのです。
ただ、このように訳したことは私たちが抱えている最大の悲劇だと高木さん。芸の「術」、美の「術」と訳したことで、方法・技を注視することになったのだと言います。
たしかに、私が学生の頃、美術の授業で習ったのは、遠近法や点描など、技法が多かったように思います。そして、展覧会に行った時には「これはどうやって描かれているんだろう」と、時には鼻の頭が触れるギリギリまで近寄って、その技法を見ようとしていました。
では西洋ではどうかというと、美術史をベースに学びます。そのため、作品を鑑賞する時は「ルネサンスがあって、ロココ様式があって、新古典主義があって、だから、この絵はこの時代のここに当てはまって、この絵によってその後の西洋美術史がどう変わったのだろう」というのを見ているのです。結構違いますよね。
なお、このウィーン万国博覧会には金工・漆芸などの工芸も出品されました。その時工芸は「クラフト」と訳され、これもまた大きな悲劇を生んでいるそうです。
他にも、日本=わびさびというイメージがどうして生まれたのか、など、日本美術に留まらないエピソードを交えて、「日本文化ってこういうもの」という先入観が取り払われるお話でした。
アートとして描かれていなかった日本美術。実は「飾り」以外に、「娯楽」としても描かれていました。それが浮世絵です。
大量に刷られ、江戸の庶民が楽しんだ浮世絵。その中でもトップの人気を誇る葛飾北斎のすごさについて、次回は『北斎こそがキング・オブ・ポップってホント?』と題して取り上げます。
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和樂webの「日本文化はロックだぜ!ベイベ」
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