死後の世界や地獄、様々な奇病…よく見ると、また意味を知ると、ゾッとする国宝4選。見ているだけで背筋の冷える、リアルな地獄絵や恐怖の場面を描写した作品をお楽しみください。
「地獄草紙」の鬼はちょっとかわいい?
「地獄草紙」国宝 一巻 紙本着色 26.5×454.7cm 12世紀・平安時代 奈良国立博物館 写真:奈良国立博物館(撮影/佐々木香輔)
平安時代の地獄草紙の決定版といえばこちら。地獄草紙は、地獄を描いた12世紀の絵巻物です。日ごろの行いを振り返り、心を入れ替えさせる目的で、亡者を鉄の臼で磨り潰している鬼たち。その姿は狂気に満ちている…と思いきや、鬼の描写は実にユーモラスで、本来の目的をも超えて、ひときわ生彩を放っています。
眼球を鍼治療!? 「病草紙」の眼病の治療が恐ろしい…
「病草紙」眼病の治療 九巻のうち 国宝 紙本着色 26.2×58.9㎝ 12世紀・平安時代 京都国立博物館
「病草紙」は、様々な奇病を集めた平安時代末期から鎌倉時代初期ごろに描かれた絵巻物です。「歯の揺らぐ男」「小舌(こじた)」「風病(ふうびょう)」「息の臭い女」など、色々な奇病や治療法が描かれていますが、なんとも恐ろしいのが「眼病の治療」。目が見えなくなっている男のところに、医者を自称する男がやってきて、眼球を鍼で治療したために失明してしまったという話が描かれています。目に鍼治療をするヤブ医者も恐ろしいのですが、大量の血を流す男の姿を、顔を赤らめ興奮気味に見る野次馬からも、また違った恐怖を感じます。
「餓鬼草子」のお腹を空かせた餓鬼たち
「餓鬼草子」一巻 国宝 紙本着色 27.3×388.0㎝ 12世紀・平安時代 東京国立博物館
永遠の飢えと渇きに苦しむという餓鬼道を描いた「餓鬼草子」。平安時代末期~鎌倉時代初期の絵巻物です。上の作品は、もはや人間の糞尿しか食べるものがないという、危機的状況。しかしその姿は、どこか滑稽。
「餓鬼草子」一巻 国宝 紙本着色 26.8×538.4㎝ 12世紀・平安時代 京都国立博物館
こちらは、墓に手向けられた水の滴りを舐めて、命を保つ食水餓鬼。その姿は人には見えていないといいます。柔軟な線と淡彩で、寺の門前に集う人間と餓鬼とを対比させる構成が鮮やかな作品。
リアルな地獄絵が出現!「六道絵」
「六道絵」閻魔王庁図・阿鼻地獄図・等活地獄図・人道不浄相図 十五幅のうち 国宝 絹本着色 各155.5×68.0cm 13世紀・鎌倉時代 聖衆来迎寺
六道とは、地獄道、餓鬼道、畜生道、阿修羅道、人道、天道の六つの世界のこと。人は極楽に往生できないかぎり、この六道を永遠に輪廻しなければならないといわれています。そんな六道の様子を描いたのが「六道絵」。上の作品は、寛和元(985)年に源信(げんしん)が著した「往生要集(おうじょうようしゅう)」の死後の世界が見事に絵画化されています。さまざまな登場人物や焰の描写は細部まで精緻を極め、鎌倉時代を代表する名品に数えられています。