写実的で力強い仏像を多く生み出した天才仏師・運慶(うんけい)。現存する運慶作品の中で、最も早い時期に手がけた仏像が国宝「大日如来坐像(だいにちにょらいざぞう)」です。天平時代の古像や平安時代初期の密教像の研究を生かしながら、独自の作風を築いた運慶のデビュー作。注目すべき7つの特徴を見てみましょう。
7大特徴で見る! 運慶作「大日如来坐像」
運慶「大日如来坐像」国宝 木造、漆箔、高さ98.8㎝ 平安時代・安元2(1176)年 奈良・円成寺蔵 写真:飛鳥園
1.玉眼の技法を使いこなす
奈良仏師によって始められた水晶を用いる玉眼の技法を、運慶はデビュー作で取り入れています。運慶と慶派の作品には玉眼が多用されますが、すべての仏像に使われるわけではありません。仏像の格を配慮して使用(1189年の浄楽寺の仏像以降)されていたと考えられています。
2.指までリアル
金剛界の大日如来の法力を表す智拳印(ちけんいん)が両手で結ばれています。胸から肩、上腕からひじ、そして指先へ向かって流れるような表現は、本像の最も大切な表現。運慶も見事に成功しています。
3.軽やかな質感の衣文
すべての仏の王である大日如来は、宝冠やブレスレットなどの装飾品を身につけています。運慶は、身につけた衣の軽やかな質感も写実的に表現。これは定朝様に近い特徴ですが、運慶の才能を細部にまで感じさせます。
4.潑剌とした表情
最高位の仏である如来像ですが、老成した印象ではなく、凜としたエネルギーに満ちあふれた表情をしています。キュッと締まった口元と、ふっくらとした頰のふくらみ。若き運慶の希望が反映されているかとも思える、弾むような若々しさが満ちています。
7.ふっくらした肉体の表現
全体の雰囲気は、平安時代後期によくある定朝様の仏像を踏襲したように見えます。しかし、引き締まった肉体の表現やまっすぐに胸を張る姿には、内側から力がみなぎるような新しい感覚が。20代の運慶のデビュー作ならではの若々しさが映し出されています。
6.自筆のサインがある
台座蓮肉(だいざれんにく)部の裏面には運慶自筆の墨書銘が。「大仏師康慶 実弟子運慶」とあり、父子であり、師弟関係であることを示します。仏師自らのサインとしては現存最古のもので、以後、鎌倉時代は仏師の署名が増えていきました。
7.清らかさに満ちた存在感
大日如来は、密教においてすべての仏の最高位であり、宇宙そのものを仏格化したものといわれます。平安時代に貴族が好んでいた仏像がもつ荘厳な雰囲気とは異なり、ふっと近づきたくなるような清らかで自然な落ち着きを感じさせるのです。
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