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2019.07.04

意外な掘り出し物揃いの展覧会?!サントリー美術館「遊びの流儀 遊楽図の系譜」【みどころ解説】

こどもの頃によく遊んだ双六(すごろく)やかるた。ゲームって大人になった今でもひとたび始めると、つい夢中になる、不思議な魅力があります。そんな「遊び」に着目し、人々の暮らしとの関わりを探る展覧会「遊びの流儀 遊楽図の系譜」がサントリー美術館で2019年6月26日(水)から8月18日(日)まで開催されています。

毎回、考え抜かれた展示と手間暇をかけたキュレーションが素晴らしいサントリー美術館。会期前日に開催された内覧会に、和樂webを代表して参加した日本美術初心者の筆者が「面白い!」と思ったテーマごとに、展覧会の見どころをご案内します。

展覧会のポイントを6つに絞って紹介

華やかさもありながら緻密で人々の生活に密着した屛風や絵巻物が多数展示されている本展では、見ている自分自身もその絵の中に入り込んでしまうような楽しさを味わえます。その注目ポイントを6つに絞ってご紹介します。

ポイント1. やまと絵でほっこり、こどもの遊び姿

まず展示会場へ入って私が惹かれたのは、会場を入ってすぐ右側に展示されている月次絵(つきなみえ)。

月次絵とは、12ヶ月の年中行事や祭礼などを描いたもので、平安時代以降にやまと絵の画題として好んで取り上げられたテーマです。
重要文化財 『十二ヶ月風俗図』 一帖のうち(一月) 桃山時代 16~17世紀 山口蓬春記念館蔵 【展示期間:6月26日~7月22日。7月10日〜場面替あり】

例えば、上の1月の場面では、羽子板を楽しんだり、凧のようなものを持って走ったりしているこどもの姿が見られ、はしゃいでいる楽しそうな声が聞こえてきそう。ちなみに12月の場面ではこどもたちが雪を転がして大玉にしており、その大玉が渦で描かれていて、転がしてつくっているのが伝わる斬新な表現でした。

そもそも描かれている羽子板など、現代でも行われている遊びが平安時代から続いているということすら知らなかったので、その歴史の深さに驚きました。また、こどもたちの生き生きとした表情がなんとも可愛らしく、ほっこりと和めます。

ポイント2. 平安貴族の雅な遊び道具がずらり!

今回の展示で面白いのは、屏風絵などに描かれている遊び道具の実物が一緒に展示されていること。絵の中の遊び道具を見た後に本物を見ると、よりリアリティをもって鑑賞することができました。

左/『雀小弓』 江戸時代 19世紀 徳川美術館蔵 【展示期間:6月26日~7月22日】 右/『遊楽図扇面(ゆうらくずせんめん)』 江戸時代 17世紀 細見美術館 【全期間展示(7月24日〜場面替あり)】

『雀小弓』(すずめこゆみ)はこども用の弓の中でも特に小さいもの。弓・矢・的・的台・矢屏風(やびょうぶ。屏風型の枠に矢を立てるもの)など一式が揃っており、的台・矢屏風には葵紋の蒔絵が施され、遊び道具としてはとても豪華! 先程ご紹介した『十二ヶ月風俗図』の5月の部分や上の写真右の扇面には、小さな弓を持って遊ぶこどもの姿が描かれています。

日本の伝統的な遊びの中には、ただ単に楽しむだけではなく、聴覚や嗅覚など五感を研ぎ澄ませて感覚を洗練させるためのものであったり、武芸の上達、教養を高めたりすることを意図したものもあります。

例えば管弦や貝合(かいあわせ。二組に分かれて同じ種類の貝を出して、二枚貝のペアを当てる遊び)、香合などは、平安時代に宮廷や貴族の間で嗜まれた遊び。今も続く優雅な遊びの姿を絵と実物で楽しむことができます。
左/『左義長羽子板』 江戸時代 19世紀 サントリー美術館蔵 右/『貝桶・合貝(あわせがい)』 江戸時代 18〜19世紀 サントリー美術館蔵 【ともに全期間展示】

左の羽子板は『左義長(さぎちょう)』という、青竹を藁で覆って火を放ち、短冊や扇、正月飾りなどを焼く厄払いの正月行事を描いたもの。赤い髪のお囃子が青竹を囲んでいる様子が見て取れます。合貝は、二枚貝のペアが、他の貝とは合わないことから、夫婦和合の象徴として婚礼調度にも加えられました。

『正月風俗図屏風』 六曲一隻 江戸時代 17世紀 サントリー美術館蔵【全期間展示】

つづいて、私が惹かれたのが、本展のメイン展示となっている様々な『邸内遊楽図屏風』の中に描かれた数々の遊びです。群像表現が非常に細かいのですが、嬉しいことにいくつかの作品の横には見どころを紹介した解説パネルが設置されています。

このように、大型の解説パネルでは作品内に描かれた「遊び」のシーンを抜き出して拡大図でわかりやすく紹介。羽子板、小弓など、それぞれの遊びを切り出したものを掲示し、昔の遊びに詳しくない方でもわかりやすい展示になっています。私のような初心者には、非常に鑑賞の助けとなりました!

ポイント3. 『徒然草』にも登場! 双六鑑賞の楽しみ

一般的に「双六(すごろく)」というと、スタート地点に駒を置き、さいころをふって上がりを目指すゲームというイメージがありますよね。これらは昔の「絵双六」が発展したものです。しかし、双六には「絵双六」の他にもう1種類存在します。それがバックギャモンとルーツを同じくする「盤双六」です。本展では、屏風絵などの中で盤双六が描かれているシーンを見ながら、同時に盤双六・絵双六の実物展示を楽しむことができます。

装飾は目的により異なっている中で、見ていて特に面白かったのが盤双六。エジプトに起源をもち、中国から伝わった盤双六は、飛鳥時代には早くも日本に伝来したことがわかっています。実際、平安時代~江戸時代にかけて、盤双六を楽しむ様子は絵画の中に描かれ続けてきました。双六という遊びが、時代や身分を超えて親しまれてきたことがわかります。

手前/『草花蒔絵双六盤』 江戸時代 19世紀 京都国立博物館蔵 奥/『徒然草絵巻』 海北友雪(かいほうゆうせつ) 20巻のうち第9巻 江戸時代 17世紀 サントリー美術館蔵 【ともに全期間展示(徒然草絵巻は7月24日〜場面替あり)】

こちらの双六盤は短側面が黒漆で丁寧に塗られ、その上に豪華な蒔絵が施された高級品。盤を覆う木目の美しさやさいころ・駒といったひとつひとつの細かな付属品に至るまで、非常に美しい状態が保たれていることに希少性を感じました。

写真奥の絵巻は「徒然なるままに・・・」の冒頭で有名な、兼好法師の随筆集『徒然草』の全章段を絵画として描き、原文もすべて詞書として有す現存唯一の大作絵巻。第110段に登場する、双六の名人に、勝つコツを聞いた話にちなみ、双六を打つ場面が描かれています。

また、今回サントリー美術館に新たに収蔵され、展示されたのがこちら。

重要文化財 『清水・住吉図蒔絵螺鈿西洋双六盤』 桃山時代 17世紀 サントリー美術館蔵 【全期間展示】

通常の南蛮漆器が花や鳥をテーマにした作品が多い中、こちらはお寺と神社の景観を題材にしている、珍しい例だそう。南蛮貿易が行われていた桃山時代に海外への輸出用として制作されました。その縁取りの螺鈿(らでん)細工も見事!

ポイント4. 遊びとしてだけでなく、教育としての役割も担っていた「かるた」

本展では「天正かるた」「うんすんかるた」など、室町後期にポルトガルから伝来したとされる「かるた」を模倣して日本で考案されたかるたや、『百人一首』や能楽などを題材にしたかるたなど、その多様な形を見ることができます。

特に私が面白かったのがこれ!!

『大名かるた』 江戸時代 19世紀 徳川美術館蔵 【全期間展示】

こちらは、木片の表に各大名の名前と家紋、裏面には毛槍(けやり。大名行列の先頭などで用いられた、先端に鳥の羽で飾った槍)の形状などが描かれており、『大名かるた』と呼ばれています。

天下泰平となった江戸時代、各大名は参勤交代などの道中で、前方からやってくる大名行列がどの大名家なのか確認し、すれ違う前に家格に応じた的確な対応を取る必要がありました。

しかし、全国津々浦々には実に250以上の藩が存在します。毛槍や馬印、家紋だけでそれらを瞬時に判断する必要があるので、かなりの情報を記憶しておかなければなりません。そこで考え出されたのが「大名かるた」。せっかくなら、遊びながら必要な知識を身につけましょう、というわけです。実に合理的かつ先進的な教育プログラムだったのですね! 単なる遊戯ではなく、大名の切実な事情から生まれた遊びがあった、という点が興味深いです。

ポイント5. 細かに表現されたひとりひとりの表情に思わず笑みが!

今回の展覧会では江戸時代の風俗を描いた多数の屏風絵が展示され、当時の人々がどのように遊びに興じていたかをうかがい知ることができます。

その好例が『邸内遊楽図屏風』。一番手前にはにやりと笑っているのでしょうか、手元をかるたで隠している人や、お酒を飲んでくつろぐ人、輪になって踊っている群衆、その誰もが緻密な描写で表情豊かに描かれ、見る人を飽きさせません。また、寝転んだ人や脚を崩してゆったり座る人が多く描かれるなど、屏風全体に漂うリラックス感につい微笑んでいました。
『邸内遊楽図屏風』 六曲一隻 江戸時代 17世紀 サントリー美術館 【全期間展示】

上の『邸内遊楽図屛風』の部分。 三味線などお囃子がなる中、輪になって楽しそうに踊る群衆の姿も!

ポイント6. 着物好きの方も楽しめる! 舞踊図に描かれた大胆な柄の組み合わせ

江戸の風俗がわかる屏風や軸を鑑賞していて印象深かったのが、舞踊図や立美人図などに描かれた衣装。大胆な柄など、現代ではなかなか見かけない、江戸時代初期の粋なファッションを存分に楽しめます。

下の立ち姿で描かれた3人の舞妓を見てください。鳳凰や孔雀、琴を置くための道具、琴柱(ことじ)をモチーフにした柄をベースに、疋田(ひった)やカラフルな格子などが絶妙な組み合わせで描かれています。着物好きな私はその組み合わせや色使いを見ているだけで時が経つのを忘れてしまいそう・・・。
『舞踊図』 江戸時代 17世紀 サントリー美術館 【全期間展示(7月24日〜面替あり)】

初心者は楽しく、中級者以上も当時の風俗をしっかり鑑賞できる展覧会

「遊びの流儀 遊楽図の系譜」展は、私たちにとって身近な「遊び」というものを昔の人たちがどのように親しんでいたのか、その道具や楽しむ人々が描かれた姿を通してたっぷり楽しめる展覧会でした。

名品の数々をとおして、「遊び」の形が時代によって少しずつ移り変わってきたのが感じられるのも本展の特徴です。室町時代以前には屋外での遊びが多く描かれているのに対し、江戸時代以降になると屋内の遊びが多く描かれるようになっています。また、屏風の中に描かれる人物も、大人数が一度に描かれる『邸内遊楽図』の中から女性ひとりが切り出され、後の「美人画」の先駆けのような形態に変わっていくのも興味深く感じました。

さらに、全国の美術館・博物館から「遊び」をテーマに名品が集結した展示室には、単に生活風俗を描いた美術品としてだけでなく、一級の歴史資料としても価値の高い作品がズラリ。アートファンだけでなく、歴史好きの方にも最適だと思います。和樂Web「2019年6月のオススメ美術展10選」で取り上げているように、この夏オススメの展覧会です。

展覧会情報

展覧会名:「サントリー芸術財団50周年 遊びの流儀 遊楽図の系譜」
会場:サントリー美術館(東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリア3階)
会期:2019年6月26日(水)~8月18日(日)
※会期中展示替えあり
公式サイト

書いた人

編集長から「先入観に支配された女」というリングネームをもらうくらい頭がかっちかち。頭だけじゃなく体も硬く、一番欲しいのは柔軟性。音声コンテンツ『日本文化はロックだぜ!ベイベ』『藝大アートプラザラヂオ』担当。ポテチと噛みごたえのあるグミが好きです。