毎日、暑い毎日が続いていますよね。外に出ると、体がとけてしまいそうです。
今週は、お盆休みでふるさとに帰省されている方も多いのではないでしょうか。
さて、子ども時代は、夏休みがとても待ち遠しいものでした。
スイカ、昼寝、海水浴、浴衣、夏祭り……皆さんは、夏にどんな思い出をお持ちでしょう。
日本は7月の海の日以降にお休みがはじまっていますが、ハワイではもっと早い時期から、もっと長いお休みになるそうです。
今回は、お盆の季節にぴったりの盆踊りのお話。ハワイの夏の風物詩を探ります。
ダンス、ダンス、ダンス!
文と写真/オノ・アキコ
アメリカは秋から新学期となるため、夏休みは卒業式や修了式のすぐあとにはじまる。日本にくらべるとだいぶ早い時期のスタートである。
とくにハワイでは、昔のプランテーション時代の名残で、子どもたちがサトウキビ畑の世話を手伝わなければならなかったために、夏休みのはじまりは、初夏の早い季節からになったと聞いている。
なので、多少のばらつきはあるものの、5月の終わりごろには学校がお休みになり、公立の学校は8月の頭に新学期を迎える。
私の幼いころの日本では、夏休みの宿題といえば絵日記が定番だった。
虫籠を下げて野山に出かけたり、朝顔の種をまいて成長を記録したり、プールに通って水泳を習ったり……のびのびと過ごした夏のありふれた出来事を日記に書く。それは昭和後半世代、共通の思い出ではなかろうか。
そして、友人や先生方に送る暑中見舞いのハガキ、風鈴の音とカルピス、お祭りに盆踊り、蚊取り線香の匂いに蟬しぐれ、月下美人とかき氷……今となっては、そのどれもがとても懐かしい。
ハワイの夏は、盆ダンスでフィーバー
さて、そのなかで、ハワイの人たちにもっとも親しみがあるのはなんだろう。
おそらく「カルピコ」と呼ばれているカルピスと、「シェイブ・アイス」のかき氷、そして「盆ダンス」の盆踊りかもしれない。
ハワイに来る旅行者たちの主な目的は、サーフィンやフラダンスであったり、ダイビング、ロミロミマッサージにウクレレ演奏、またはショッピングを楽しんでパンケーキとロコモコを食べる、などだと思う。
ここでは家族や友人とともにスポーツや衣食を楽しむことがいちばんで、普通は「ハワイで盆踊りに行こう!」という発想はないだろう。
ところが意外や意外、ハワイでの「盆踊り熱」は相当なものだ。
6月後半から9月の頭までの3か月、毎週末、必ず島のどこかのお寺主催で盆踊りが開催される。ハワイの日刊紙のいくつかには、盆ダンスカレンダーが掲載され、いつどこで盆踊りがおこなわれるかも記されていたりする。そして会場にはたくさんの老若男女が集まり、大フィーバー(!)するのである。
日本に「道場破り」という言葉があるが、「盆踊り破り」と呼びたくなるような、踊り達者な若者たちがあらゆるお寺の盆踊りに出没する。また年間を通して、熱心に盆踊りのレッスンに通う人びとも後をたたない。
しかも日本と同様に、踊りの中心には本格的な櫓(やぐら)が組まれ、和太鼓や笛などの鳴り物が軽快な音を奏で、まるで故郷にタイムスリップしたかような錯覚におちいる。日系人たちが受け継いできた伝統的な曲はもちろんのこと、「マツケンサンバ」など、ちょっと前には考えられなかった曲も流れ、新しい振り付けとともに何百人がいっせいに踊る。
和のフェスが盆ダンス!
もともと「盆踊り」は、平安時代に空也上人(くうやしょうにん)によってはじめられたとされる踊念仏(おどりねんぶつ)が起源で、お盆の時期に亡くなった方を供養するための行事に発展した仏教行事である。
ハワイでの盆ダンスは、明治時代以降に日本から移住した人びとの手ではじめられたという。移民の人びとは、出身地ごとにまとまってプランテーション農場で暮らしていたので、かつての日本と同様に、いゆわるひとつの村落共同体を築いていた。
だからお盆のシーズンには、出身地の盆唄に合わせて仏教寺院で盆踊りをして、ご先祖さまを供養した。ハワイの盆ダンスは、ある種、日本以上に古典的な雰囲気をそのまま引き継ぎながら、現地の人にも浸透してハワイに文化として根付いたのである。
ちなみに私は仏教徒ではないため、幼いころはほとんど盆踊りに縁がなかった。
それがお茶を嗜むようになり、同門の仏教に携わる方々とのご縁で遊びに行ったり、息子の学校関係の方に誘われて、はじめて踊りの輪に加わった。
ゆっくりな動きでも、2、3時間もいれば相当な運動量になる。さすがハワイ、皆、自由気ままに思い思いの格好で参加している。特定の振り付けを知らなくても、その曲が終わるころには何とか皆についていける。
なるほど、これはすごく楽しい!!!
私からすると、その光景は茶道の「一座建立(いちざこんりゅう)」にも似て、宗教や性別、国籍を問わず、集まる人びとすべてが、同じ楽しみを共有している「陽のエネルギー」にあふれている。一座建立は、茶席において「もてなす側と招かれる側の気持ちがピタリと寄り添い、ともに充実した温かい時間を過ごすこと」を示す言葉といえばよいだろうか。
この風景を目の当たりにすると、音楽とダンスは「世界の共通言語」なんだな、と思わずにはいられない。老若男女、皆の笑顔がキラキラしている。
「盆踊り」をけして格好よい踊りとは思っていなかった私も、その雰囲気に魅了され、仲間に入りたいと言う強い思いに突き動かされる。
まさにそれは「宗教の垣根を越えて」だ。盆踊りは、お茶そのものとはまったく関係のない日本の伝統だが、海外だからこそ日本文化がもつ力を発見することがある。
読者の方々で、ハワイ旅行はすでに数回経験あり……という人には、是非一度ここでの盆ダンスを体験してみることをお勧めしたい。
甚平や浴衣をスーツケースにしのばせて、家族で現地の人びとの仲間入りをすれば、必ずや、ひと味違ったハワイの夏の思い出になるに違いない。
最初から読む→常夏の島ハワイで楽しむ茶の湯とは?【一期一会のハワイ便り1】
第2回目→アロハスピリットと創意工夫で茶席を彩る【一期一会のハワイ便り2】
第3回目→ハワイの茶人のきもの事情とは?【一期一会のハワイ便り3】
第4回目→「いちごいちえ」は「1・5・1・8」【一期一会のハワイ便り4】
オノ・アキコ
65年生まれ。国際基督教大学卒業後、モルガン・スタンレー・ジャパン・リミティッド証券会社を経て、ロンドンのインチボルド・スクール・オブ・デザイン校にて、アーキテクチュアル・インテリア・デザイン資格取得。2007年ハワイに移住し、現在はハワイ大学の裏千家茶道講師を務めている。ハワイでの茶の湯を中心に、年に数度は日本に里帰りをしつつ、グローバルに日本文化を楽しんでいる。
(文と写真:オノ・アキコ/構成:植田伊津子)