浮世絵ってよく聞くけど、なんだかとっつきづらいなー、なんて思っていました。しかし!この回を聴けばガラッとイメージが変わるはずです。
『和樂webの日本文化はロックだぜ!ベイベ』は、「日本文化に対して先入観がある人々を解放し、日本文化をもっと気軽に楽しんじゃおう」というコンセプトの音声コンテンツ。第1回〜第4回は2020年5月14日(木)にまとめて配信しています。ここでは講義ノートとして、お話の概要を公開!
第1回『日本美術はアートなのか?それが問題だ』では……
1.元々は日本美術がアートとして描かれていなかったこと
2.それを現代の私たちはアートとして捉え、楽しんでいるということ
がわかりました。
日本文化も美術も初心者の私にとって、美術館の作品を見る時や、今回から始まる「浮世絵」の話を聞く時の心持ちが変わったお話でした。(前回の講義ノートはこちら)
第2回以降、数回は「浮世絵」がテーマです。中でも今回は、「北斎こそがキング・オブ・ポップだ!ってホント?」と題し、葛飾北斎(以下、北斎)について取り上げます。私にとってのキング・オブ・ポップはマイケル・ジャクソン! 「北斎はキング・オブ・ポップと言われるほどすごい人なの?」と半信半疑でしたが、話を聞くと納得でした。
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そもそも「浮世絵」とは?
戦国時代、「うきよ」といえば「憂世」と書きました。戦がひとたび始まると田畑は焼かれ、生きていく術(すべ)を奪われたため、庶民の暮らしはなかなか安定しなかったようです。それが江戸時代に入って戦乱の世が終わり、人々の心は次第に晴れやかになります。その結果「うきよ」という言葉も「憂世」から「浮世」に変化。その時の様子を描いた絵なので「浮世絵」と言われるようになりました。
1760年になると鈴木春信の活躍により、多色摺の「錦絵」が誕生し、後の「浮世絵」の発展に多大な影響を与えました。鈴木春信の魅力については第3回でお話します。
北斎はなぜキング・オブ・ポップと言えるのか
パスポートの査証ページに『冨嶽三十六景』があしらわれるようになったことでも一躍有名になった北斎。世界的に評価されていることが証明されたのが、アメリカの「LIFE」誌が1998年に選定した、この1000年で最も偉大な功績を残した人物100人”Life’s 100 most important people of the second millennium”でした。北斎は日本人で唯一選ばれたのです。ちなみに1位はトーマス・エジソン、2位はクリストファー・コロンブス、3位はマルティン・ルターでした。なぜ北斎はそこまで海外で評価されているのでしょうか。
北斎は印象派にものすご〜〜〜く影響を与えていた
理由のひとつにモネ・ドガ・ルノワール・セザンヌなど、ヨーロッパの印象派に影響を与えたことが挙げられます。印象派とはサロンと言われた当時の主流、新古典主義から外れて出てきた画家たちのこと。その特徴は、見たままに描くことや、自然の光のままに描くというものでした。
アートには「カウンターの歴史」という文脈があります。今世の中で流行っているものに対して「それ違うんじゃない?」とカウンターを打つ、それに対してカウンターを打つ……の繰り返しです。新古典主義に対するカウンターが印象派だったのです。
その印象派に影響を与えたのが、北斎が描いた『北斎漫画』という、200人以上いた北斎の弟子たち向けの絵手本です。『サン=ベルナール峠を越えるボナパルト』からも伺えるように、ヨーロッパでは神話や肖像画が主なモチーフでした。よって、森羅万象などを描いた北斎漫画は当時の印象派の画家に大きな影響を与えたと言われているのです。
印象派はそれまでのヨーロッパの伝統的な絵画のあり方を覆(くつがえ)しました。このカウンターがあったからこそ、ピカソやダリなど、私たちがよく知っているスーパースターが生まれました。北斎が印象派に与えた影響はそれほど大きいため、ヨーロッパで評価されているわけです。
『冨嶽三十六景』のコンセプトが評価
『神奈川沖浪裏』は欧米では”The great wave”と呼ばれ、『モナ・リザ』の次に有名だと言われているほどなんだそう。この波が独り歩きして、世の中のデザインに入り込んでいることが、北斎が評価されているもうひとつの理由です。
例えば、2007年のディオールの春夏コレクションで、チーフデザイナーを務めていたジョン・ガリアーノが、ドレスにこの波をあしらいました。また、最近はモスクワのマンションの壁面に描かれてもいます。そのほか、サーフブランド”QUIKSILVER(クイックシルバー)”のロゴも神奈川沖浪裏をモチーフにしています。
また、北斎の場合は、「ひとつの山を連作で描く」という新しいコンセプトをもたらしたことも欧米で評価されました。ひとつのモチーフを連作で描くというコンセプトはここからスタートしたのです。
印象派ばかりでなく、現代のアートシーンやファッションにも影響を与えている北斎。なお、北斎の春画を見て、ピカソはキュビズムにたどり着いたという説もあるそうです。「浮世絵」は江戸の庶民が楽しんでいた、世界初のポップアートです。そんな「浮世絵」を通じてさまざまな影響を与えたからこそ北斎はキング・オブ・ポップと言えるのです。
話の中で印象深かったのが、北斎が90歳の時に残した「あと5年あれば真の絵師になれたのに」という言葉です。画業70年、約3万点を描いてもなお衰えることなかった情熱が伝わります。色々と新しい動きが生じている現代の世の中ですが、北斎の話を聞いて、今自分にできること、やりたいこと、実際の行動を見直すきっかけになった今回の収録でした。
次回は、浮世絵を彩ったスーパースター絵師のうち、鈴木春信と喜多川歌麿について取り上げます。
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