道元が説いた「五観の偈」の意味
横山 今回は「食と禅」がテーマということですが、以前、SHIHOさんには曹洞宗の永平寺別院である長谷寺(東京都港区)にて開催された禅イベント「禅・美・食 ~五感を研ぎ澄まして食をいただく」に参加していただいたことがありましたね(下写真)。
参考:「素敵な人」になるための美しい生き方とは【SHIHOの楽禅ライフ6】
(撮影:今井裕治)
SHIHO はい、ヨガストレッチや呼吸法、坐禅、写経、食事を参加された方々と共に体験させてもらい、とても貴重な時間でした!
横山 その時にもお話があったと思うのですが、永平寺では食事を頂くこと自体を「修行」と考えるんです。
SHIHO 休憩時間などではないということですね。
横山 その通りです。たとえば食事を頂く際にも「唱え事」をします。主には八つあって、その1つが「五観の偈」です。
SHIHO イベントでも聞かせていただきました。

横山 道元禅師が記した「赴粥飯法(ふしゅくはんぽう)」という食事作法について書かれた書物の中にある言葉です。
一(ひとつ)には功(こう)の多少(たしょう)を計(はかり) 彼(か)の来処(らいしょ)を量(はかる)
二(ふたつ)には己(おのれ)が徳行(とくぎょう)の 全欠(ぜんけつ)とを忖(はか)って供(く)に応(おう)ず
三(みつ)には心(しん)を防(ふせ)ぎ過(とが)を離るることは 貪等(とんとう)を宗(しゅう)とす
四(よつ)には正(まさ)に良薬(りょうやく)を事(こと)とするは 形枯(ぎょうこ)を療(りょう)ぜんが為(ため)なり
五(いつ)つには成道(じょうどう)の為(ため)の故(ゆえ)に 今此(この)食(じき)を受(う)く
意訳すると、
食材の命の尊さと、かけられた多くの手間と苦労に思いをめぐらせよう
この食事をいただくに値する正しき行いをなそうと努めているか反省しよう
むさぼり、怒り、愚かさなど過ちにつながる迷いの心を誡めていただこう
欲望を満たすためではなく健康を保つための良き薬として受け止めよう
皆で共に仏道を成すことを願い、ありがたくこの食事をいただきましょう
という意味です。自分の前に食事が運ばれてくるまでにどれだけ多くの人の手が携わってきたのかに思いを巡らせることから始まり、それを頂くに十分な行いを自分がしているのかを反省する。食事を「自分の欲を満たすため」ではなく、「自分自身が仏教徒として生きていくうえでの大切な実践」としていただくということが説かれています。
SHIHO おいしいとかおいしくないとかではないということですか。
横山 そうした人間の分別(ふんべつ)を超えて、「良薬」としていただく、仏様に近づくためにいただくということを道元禅師は説かれています。
SHIHO「食べたいものを食べたいだけ食べていた」
SHIHO 欲に振り回されないということが大切なんですね。私は実は「ペスカトリアン」で、魚介類を頂いて、肉類は食べないんです。
横山 そうなんですね。
SHIHO 40歳を前にしたときに、あるスポーツ選手の方が「40歳を機に食事を変えた」とおっしゃっていたのを聞いて、自分もやってみようと食事を見直したことがきっかけでした。もともと、運動をする際に、お肉を食べていると体が重く感じることがあって。消化に時間がかかることもあり、体の負担が増しているように感じたりも。それでお肉や油の種類などにも気をつけるようになりました。
それまでは結構、「食べたいものを食べたいだけ」食べていたんです。

横山 いまでは想像ができませんね。
SHIHO そうですか? でも私自身、食事は空腹欲を満たすためのものだと思っていたのですが、ヨガを通して「食事は一つひとつの素材を味わうもの」だと気づいたら、食に対する喜びや感謝が生まれるように感じたんです。例えばホウレンソウ、ニンジン、トマトなど、野菜それぞれが持つ個性的な味わいをじっくり感じて頂くと、食べ方だけでなく食事の「目的」そのものも変わるんです。
横山 まずよく噛んでゆっくり食べるようになりますよね。
SHIHO そうですね、どうしても急いで食べることもあるんですが、以来気をつけるようになりましたね。
編集部 毎日どのようなものを召し上がっているんですか?
SHIHO パンやうどん、パスタなどの小麦類は頭がポワンと、体がポチャっとしてしまう感覚が私はあって、朝はパンより米派ですね。それも、いきなり食べ始めるのではなくて、野菜とフルーツの「ロージュース」(食材に熱を加えず、低速のジューサーで搾ったジュース)をまず作って飲んでいます。朝の始まりは、固形物より水分でまずお腹を満たす感じです。
その後、お昼前くらいに雑炊をつくって食べています。ちりめん山椒やあおさ、梅干し、すりごま、韓国海苔などのトッピングが大好きで。おかゆは水分をたくさん含んでいるので、肌がうるおう気もします。
横山 おもしろいんですが、禅宗では粥には10の功徳があるとされていて、それは「粥有十利(しゅうゆうじり)」と呼ばれていて、
一、色 体の血つやが良くなり
二、力 気力を増し
三、寿 長命となり
四、楽 食べ過ぎとならず体が安楽
五、詞清辯 言葉が清く爽やかになり
六、宿食除 前に食べたものが残らず胸やけもせず
七、風除 風邪を引かず
八、飢消 消化よく栄養となって飢えを消し
九、渇消 のどの渇きを止め
十、大小便調適 便通も良い
とあるんです。
SHIHO そうなんですね! 実際に雑炊を毎日頂いて、どれも実感することばかりです。
横山 禅の教えとSHIHOさんの暮らしが自然に重なっているのはおもしろいですね。
【続きます】



