「カルティエ」のクリエイションの根底に流れる、相反するものを美しく調和させる独自の美意識。それを体現する新作ハイジュエリーコレクション「EN ÉQUILIBRE(アン エキリーブル)」は、フランス語で「均衡のなかで」を意味しますが、「調和の美学」と解釈することもできます。端正なフォルムと豊かな表情、静と動、光と影──「カルティエ」という世界のなかで異なる要素がひとつに溶け合い、ハーモニーを奏でます。時代を超えて受け継がれてきたスタイルの原点を、最新のクリエイションを通してひもときます。
〝バランスの妙〟こそが、「カルティエ」の創造の原点
調和と均衡の考察から生まれた、「カルティエ」の新ハイジュエリーコレクション「アン エキリーブル」。その特徴には、むだを削ぎ落としたライン、力強く洗練されたフォルム、色彩の絶妙なバランス、疎と密の空間配置などが挙げられます。対極にあるものが均衡を保ちながら融合し、唯一無二の美を創造していく──こうした「バランスの探求」は、創業時から「カルティエ」の創造の根底に息づいていました。
本コレクションでは、シンプルさと華やかさ、シンメトリーとアシメトリー、繊細なグラデーションと鮮やかな色彩といった、相反する要素が融合し、独自のハーモニーを奏でています。
「カルティエ」はその歴史のなかで、あえて異質なもの同士を調和させることで、独創的なクリエイションを創造してきました。たとえば、工業用金属だったプラチナとダイヤモンド、獰猛なパンテールとエレガントな貴婦人、洗練された腕時計と堅牢な戦車など。
「アン エキリーブル」(均衡のなかで)という名が示すように、本作の核心は、まさにそうした「バランスの妙」にあります。その重要性は、動きを追求したジュエリーの例を見ても明らか。デザインと技巧のどちらにも偏らず、両者のバランスを保つことで、ジュエリーにしなやかな動きが生まれ、身につけたときも快適に。また、希少なジェムストーンもその美しさだけにこだわらず、デザインとの調和を図ることで、完成度を高めることができます。
視覚的な造形だけでなく、目には見えない美しさの秩序にも踏み込んだ「アン エキリーブル」コレクション。それはハイジュエリーコレクションという枠組みを超えて、永遠に色褪せない美の本質を映し出しているのです。
対極の要素の均衡を保ち、融合させることで生まれる 言葉に尽くせぬ魅力
希少なエメラルドの配置が、視線を中央に集中させて

幾何学的なオープンワークが、モダンで軽やかな印象。中央では、サイズの異なるエメラルドが、向きを変えて並ぶ。セットされた3石は、いずれも鮮明で、透明度の高いコロンビア産。この3石があえて調和を壊し、作品にフォーカルポイントを生み出した。ネックレス[ダイヤモンド計約32.19ct×エメラルド計約8.74ct(センター3石計6.73ct)×オニキス計6.36ct×WG]参考価格¥502,920,000(カルティエ)
立体感と躍動感を強調する 〝黒、白、緑〟の組み合わせ

鮮烈な対比を描く、「カルティエ」伝統のカラーコンビネーション。洗練された印象を受けるのは、配色のバランスがとれているから。ベースカラーのダイヤモンド、メインカラーのエメラルド、アクセントカラーのオニキス──それが黄金比を保ち、見る者を惹きつける。先端は微かに揺れ動く繊細なつくりで、ダイヤモンドの煌めきが、軽快感を生み出す。ブレスレット[ダイヤモンド計約14.70ct×エメラルド計約5.63ct×オニキス計2.77ct×WG]参考価格¥270,600,000(カルティエ)
具象と抽象、静と動──
絶妙なバランスを見抜くことから、すべての創造が始まる
秩序が洗練をもたらす すべてに大胆なデザイン

幾何学的に連なる曲線、エキゾティックなピーコックカラー、大胆なボリューム…。すべてに「カルティエ」のデザインコードがちりばめられたネックレス。理想的なカラーのクリソプレーズは大きなビーズにカットされ、そのフォルムもデザインの一部に。ネックレス中央にセットされたサファイアが、デザインの対称性を強調し、モダンな美しさを際立たせる。ネックレス[サファイア計約11.34ct(センター9.06ct)×クリソプレーズ計447.82ct×ダイヤモンド計約13.61ct×オニキス計15.20ct×PT]参考価格¥172,920,000(カルティエ)
リアリズムと様式化の境界線で生まれた傑作

動物の意匠化において重要なのが、リアリズムと様式化のバランス。「カルティエ」はその見極めに非常に秀でたメゾンでもある。これは寓話に登場するヘビが着想源のリング。頭部の鱗は、六角形のステップカット・ダイヤモンドを用いて、グラフィカルに表現されている。リング[ダイヤモンド計約14.86ct×サファイア計約0.38ct×WG]参考価格¥139,920,000(カルティエ)
消失の危機にある希少なサヴォアフェールを後世に伝えて…
「カルティエ」が守り継ぐ、グリプティックの職人技

フランスが誇る伝統工芸技術「グリプティック(宝石彫刻)」で表現された優美なフラミンゴ。「カルティエ」はハイジュエリーメゾンで唯一、その専門アトリエを擁している。フラミンゴはウィンザー公爵夫人のブローチにも登場した、メゾンにとって伝統のモチーフ。その体はピンククオーツで、くちばしはメノウ。吊り下がるカイト形のダイヤモンドは、綿羽を表している。ブローチ[ピンククオーツ100.50ct×メノウ6.00ct×ダイヤモンド計約1.00ct×WG]参考価格¥48,312,000(カルティエ)
エメラルドの個性が際立つグラフィカルなデザイン

透明度が高いコロンビア産エメラルドに、フラワーモチーフの彫刻を施したネックレス。花の向こうには、エメラルド独特の神秘的な景色が広がる。ビーズカットのエメラルドも澄んだグリーンが美しく、ダイヤモンドがその光彩を引き立てる。ネックレス[エメラルド計269.39ct(センター78.92ct)×ダイヤモンド計約10.18ct×オニキス計2.74ct×PT]参考商品(カルティエ)
この職人技に注目!
宝石と彫刻技術──ハイジュエラーの歴史から生まれた選択肢

20世紀初頭からインドとの交流が活発になったパリの宝飾界。ジュエリーの販売と宝石の買い付けを兼ねて現地に赴くジュエラーが、「カルティエ」をはじめ増えていきました。彼らは、インドのジェムストーンだけでなく、宝石彫刻職人の優れた技術力にも注目。彫刻が施されたエメラルドやルビーを持ち帰り、異国趣味のジュエリーを生み出したのです。
一方で、欧州の宝石彫刻は芸術作品としての美を追求する傾向に。両者の技術を使い分けることは、今やトップジュエラーにとってスタンダードになっています。
「カルティエ」のハイジュエリーにも多く見られる宝石彫刻。このエメラルドもそのひとつ。彫刻されるモチーフの題材は、草木などの植物が多い。
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撮影/武田正彦 コーディネート/鈴木春恵
※文中のPTはプラチナ、WGはホワイトゴールド、PGはピンクゴールドを表します。
※本記事は『和樂』2025年10・11月号 付録の転載です。
※価格表記はすべて税込価格です。