「カルティエ」の美学を体現するハイジュエリーコレクション「アン エキリーブル」は、ついに最終章へ 。
2025年5月に幕を開けた物語は、不変のデザイン哲学をより鮮明に描き出します。
むだを削ぎ落としたラインや力強いボリューム、さらに「密と疎」の対比。
創業時から継承される「バランスの美学」は、メゾンの創造を導く揺るぎない指針です。
対極の要素を融合させ、完璧な調和を導き出すその技は、サヴォアフェールが到達した至高の境地。
時代に左右されない唯一無二の様式美が、さらなる高みへと昇華されました。
不変の様式美が導く〝バランスの芸術〟の到達点
20世紀初頭、「カルティエ」は装飾過多な時代にあって、いち早く直線的な構成美を見出し、アール・デコという芸術潮流を牽引したモダンデザインの先駆者です。その革新的な美学の源泉は、メゾンの3代目当主ルイ・カルティエが魅了されたイスラム美術の抽象的な幾何学文様や、日本美術に息づく様式化された線の美、さらに余白の妙にありました。異文化の美意識を鋭い観察眼と探究心をもって自らのスタイルに融合させてきた歴史。それがジュエリーを、単なる装飾から〝宝飾芸術〟へと昇華させてきたのです。
ハイジュエリーコレクション「アン エキリーブル」は、その輝かしい系譜を継ぐ集大成といっても過言ではありません。2025年5月に幕を開けたこの壮大な物語は、今年1月、パリで発表された第3章をもって、ひとつの節目を迎えました。本コレクションにおいて徹底して探求されたのは、メゾンの美学の核心をなす「均衡(エキリーブル)」の極致。むだを削ぎ落とした精緻なライン、力強いボリューム、そして「密と疎」の鮮やかな対比です。これらは、1世紀以上にわたり継承されてきた「カルティエ」のデザインコードそのものであり、伝統という名の揺るぎない指針にほかなりません。
さらに本コレクションで明確になったのは、本質的なデザインへのいっそうの深化です。過剰を排し、宝石本来の輝きとフォルムを最大限に引き出す手法は、より純度を増し、ストイックなまでに緊張感を湛えています。
色彩とフォルム、あるいは静寂と躍動といった対極の要素を響き合わせることで生まれる独自のハーモニー。それはメゾンが長年培ってきたサヴォアフェールの結晶であり、〝バランスの芸術〟の到達点でもあります。
しかし、メゾンの探究がここで終わることはありません。本コレクションで再定義された均衡の美学もまた、消え去ることはないでしょう。「アン エキリーブル」コレクションによってあらためて鮮明となった「カルティエ」の様式美。それは、メゾンのDNAとしてクリエイションの根幹に息づき、時代を超えて受け継がれていくのです。
精緻なバランスを追求したデザインと煌めきに
洗練された調和の美を感じて…
「運命の女神」に由来する、形を変えて楽しめるリング

ローマ神話の女神に由来する「パルセ」と名づけられたリング。花を想起させるモチーフには、幾何学的なカットのダイヤモンドとペアシェイプのサファイアがセットされ、構築的なデザインをモダンに彩る。このリングは付属のダイヤモンドブレスレットとチェーンで繫いで楽しめる、トランスフォーマブルな仕様。「パルセ」リング[サファイア2.74ct×ダイヤモンド計8.11ct×PT、ブレスレットを付属]参考価格¥99,000,000(カルティエ)※ネックレス、イヤリングとのセット販売
このサヴォアフェールに注目!
「カルティエ」のハイジュエリーコレクション「アン エキリーブル」が追求する均衡は、目に見えない構造美に支えられています。
「パルセ」リングの制作風景が物語るのは、希少な宝石の魅力を最大限に引き出す、構築的な台座の存在。「カルティエ」では、その素材に粘性が高く、加工に熟練を要するプラチナを多く用いています。
カイトカットやシールドカットなど、1点ごとに形状が異なるダイヤモンドに合わせて地金を削り、微調整を繰り返す工程。それは、精度と厳格さが求められる職人技にほかなりません。石と対話するように構造を組み上げる妥協なき手仕事こそが、デザインを忠実に具現化し、ジュエリーを〝宝飾芸術〟へと高めることができるのです。

「パルセ」リングの制作風景。職人の作業机で輝くのは、これからプラチナの台座にセッティングされる多彩なカットのダイヤモンド。その個性豊かなフォルムに合わせて、寸分の狂いもないように、台座の微調整が何度となく行われる。
究極の構造美がもたらす、洗練と気品に満ちた華やぎ

カイトやシールドなどの幾何学的なカットを施したダイヤモンドから放たれる輝きが、優美なドレープを描き、中央で連なる3石のサファイアに視線を集める。考え抜かれたデザインと構造が、気品に満ちた華やぎをもたらす。石を留める爪やパーツの接合部を極限まで見せない卓越した職人技が、作品の完成度をさらなる高みへ。「パルセ」ネックレス[サファイア計16.59ct×ダイヤモンド計14.19ct×PT]参考価格¥303,600,000(カルティエ)
鮮烈な色彩の対比と幾何学パターンが生み出す、力強いリズムと煌めき
色と形の独創的な調和が、ジュエリーを宝飾芸術へ

<右>エメラルドカットのダイヤモンドと角切りされたレクタンギュラーカットのルビーを、グラフィックに配置した抽象的デザインのリング。色鮮やかなルビーは、モザンビーク産の希少な非加熱が用いられている。あえてセッティングの間隔をあけることで、オープンワークのような効果が生まれ、宝石のモダンなフォルムと透明感が際立つ。「ユーフォニア」リング[ルビー計4.11ct×ダイヤモンド計4.42ct×PT]価格未定 ※ネックレスとのセット販売 <左>調和のとれた音の組み合わせを意味する「ユーフォニア」と名づけられたネックレス。それはシンプルに見えて、デザイン、宝石の選択、配置、セッティングのすべてにこだわり抜いた、本コレクションを象徴するピースのひとつ。ルビーは繊細な色味、非加熱の証しである内包物までも入念に精査して選ばれた。また、ネックレスは手のひらに収まるほどしなやかなつくり。背面のクラスプをスライドさせることで長さ調節ができる。細部に高度なサヴォアフェールが発揮された作品。「ユーフォニア」ネックレス[ルビー計19.69ct×ダイヤモンド計33.49ct×PT]参考価格¥343,200,000(カルティエ)
一対のパンテールがシンメトリーの構図で抱き合う、均衡美の新たな表現
希少なサファイアを連ねた、世にも贅沢なネックレス

貴重なビルマ(現ミャンマー)産のサファイアを贅沢にもビーズにカットして連ねたロングネックレス。纏う人の動きに合わせて、深く鮮やかなブルーの光彩が放たれ、パンテール・モチーフをドラマティックに彩る。対称性を保ちながら抱き合うパンテールの体の斑点に用いられたのは、トラペーズシェイプのサファイア。それがネックレスのビーズと呼応し、調和のとれた美しさを生み出す。「ブルー パンテール アンブラッセ」[サファイア計381.32ct×ダイヤモンド計16.91ct×オニキス計0.02ct×エメラルド計0.04ct×WG]参考価格¥343,200,000(カルティエ)
自然の有機的なモチーフさえも、独自の美学でモダンな意匠に昇華させて
指に巻きつく「葉」を彩る、サファイアの繊細なブルー

西洋アサガオの葉をモチーフにしたリング。葉脈が繊細な透かし彫りで表現され、流れるように指を取り巻く。正面で輝くマダガスカル産のサファイアは、まさに一輪の花を思わせる美しさ。このサファイアは古い鉱山から採掘された希少な石で、紫がかった繊細な色彩が魅力。その横にはトリリアントカット(三角形)のダイヤモンドが煌めき、有機的なデザインに緊張感と洗練をもたらす。「シエル イポメ」リング[サファイア7.29ct×ダイヤモンド計2.80ct×PT]参考価格¥115,500,000(カルティエ)※イヤリングとのセット販売
リズムと躍動感を呼び覚ます、絶え間ない波のように光り輝くダイヤモンドの連なり
ダイヤモンドが肌に浮かぶ、インビジブルな宝飾技巧

ダイヤモンドを光のラインと捉え、精緻かつリズミカルに配した、コンテンポラリーな美しさが際立つネックレス。石を繫ぐ接合部のパーツは、正面からはほぼ見えない精巧なつくり。この高度な宝飾技巧によって、ダイヤモンドが肌の上に浮かび上がって見える。極細の爪で石留めができるプラチナを用いたことも、本作の完成度を飛躍的に高めたポイント。「スプレンデア」ネックレス[ダイヤモンド計30.20ct×PT]参考価格¥364,320,000(カルティエ)
20世紀初頭に脚光を浴びた、グリーン×ブラックのメゾンを象徴する色彩の対比
オニキスのラインで際立つ、独創的な菱形のエメラルド

独創的な菱形のファンシーカット・エメラルドを主役にした、漆黒のオニキスが建築的なリズムを刻むリング。1910年代に登場し、メゾンを象徴する色彩となった〝グリーン×ブラック〟のカラーコンビネーションが、鮮烈なコントラストを描いて、その構造美を際立たせる。中心軸を意味する「アクシアリス」の名のとおり、均衡の美学を力強く体現した、「カルティエ」らしい存在感のあるデザイン。「アクシアリス」リング[エメラルド3.72ct×オニキス計1.51ct×ダイヤモンド計2.30ct×PT]参考価格¥85,140,000(カルティエ)※イヤリングとのセット販売
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撮影/武田正彦 コーディネート/鈴木春恵
※文中のPTはプラチナ、WGはホワイトゴールド、ctはカラットを表します。
※本記事は『和樂』2026年4・5月号の転載です。
※価格表記はすべて税込価格です。