ただいま絶賛発売中の『和樂』4・5月号の「茶味こそが京都!」特集。
和小物をご紹介しているページで、うつわや あ花音(あかね)」の店主・梶裕子(かじひろこ)さんにコーディネートしてもらった茶箱を掲載しています。
地下鉄東西線、蹴上駅から徒歩数分。南禅寺参道の入り口に、このかわいらしい店舗があります。今回は「うつわや あ花音」についてのこぼれ話です。
茶味のある現代工芸のお店「うつわや あ花音」
こちらのお店で扱っているのは、食卓を彩る暮らしのうつわたち。主に京都近郊の現代作家の作品です。
店主の梶裕子さんは新門前の「梶古美術」の娘として生まれ、幼いころから美しい美術品に囲まれて育ちました(梶古美術は加賀の大聖寺で創業。元々は加賀藩の支藩、大聖寺藩の御用商人で、裕子さんのご主人で7代目)。
平成2(1990)年に、この場所に店をもつことになり、最初は伊万里や古染付などの骨董を扱っていましたが、現代のうつわへとシフトチェンジしていったといいます。
明るい日射しが差し込む店内。
「開店したのは、長男が1歳で、長女がまだおなかにいる29歳のときでした。けれど、お店が面白かったのは、ここが奥さんや母でなく『私でいられる場所』だったからでしょうね」
そして現代作家を扱うようになったのは、初期ごろに企画した「百趣百盃」という展覧会でした。
「初めは、梶古美術から借りた商品だけを置いていたのです。けれど、この展覧会では骨董店が手がけるうつわ店ならではのセレクトということで、梶古美術が扱う物故作家や、主人(梶高明さん・梶古美術店主)の幼友達である陶芸家の山田晶さんや近藤高弘さんをはじめ、おふたりに紹介してもらった若手の現代作家の酒器を並べてみました」
〝時代を経て愛され、残っていくうつわはもちろん素晴らしい。けれど現代作家なら人柄もわかる。店に届く梱包ひとつとっても、それぞれに強烈な個性が表れる〟
かれらの表現に対する尊敬と共感が、沸々と湧いてきたといいます。
「現代作家たちと、ともに歩んでいきたい!」
だから裕子さんの名刺には、「Antiques for the future」という言葉が記されています。かれらの作品が愛され、未来に残ってほしいという気持ちをもちつづけているのです。
関西に在住する作家たちの作品。量産ができないので、ほとんどが限定物だ。
生活に花のようなうるおいを、そして楽しい語らいを
「うつわや あ花音」。
優しい裕子さんらしい店名「あかね」の「花」という文字には、「どうぞ、日々気持ちを明るく、生活に〝花〟を添えてください」、「音」には「会話の音色を楽しんでください」という願いが込められています。
こちらのお店のお客様は東京在住の方も多いそうですが、「皆さん、京都に、ただ買い物だけに来ているのではないな、と感じますね。先日お客様から〝京都では、かならず『うつわや あ花音』に立ち寄り、小さな素敵を見つけて帰る〟といううれしいコメントをもらいました」と裕子さん。
「同じ商品は、きっとよそにも、東京のお店にもあると思うのです。けれど、それにまつわるストーリーは、お店によってそれぞれ違う。私は、もちろん作品を買っていただきたい気持ちもありますが、作家はこんな人で、こんな気持ちでつくっている作品なんですよ、ということも含めてご紹介したいな、と思っています」
企画展がないときは、常設でさまざまなうつわが並べられている。現在は、市野雅彦、藤平寧、三笘修、安齋新・厚子、スナ・フジタさんなど、4、50人の作家の作品を扱う。
だから「うつわや あ花音」に行くと〝心地よい風が吹いている〟と感じるのかもしれません。
どの展覧会でも、裕子さんは毎回、展覧会のテーマに合わせたオリジナルの季節の干菓子(老舗の「老松」製)を用意してお客様にふるまいます。
「旅がテーマの展覧会ではトランク形の洲浜や、かき氷をかたどったアポロチョコレートのような小さな干菓子をつくったこともあるんですよ」
そして食にまつわるうつわの展覧会では、その作家たちの作品を使った食事会やお茶会といった楽しいイベントも!
「お客さまと一緒に遊びたいんです(笑)。こちらの遊び心をクスっと笑ってもらえたらうれしい。うつわは、使って、遊ばないと意味がありません。うつわの提案という面もありますが、そのためにいろいろな料理人にメニューを相談したり、和菓子店の方々と企画にふさわしい和菓子を考えたりすることが、私は大好きなんです」
3月24日から茶箱展がはじまります!
ちょうど3月24日(金)から、2年に一度の茶箱展が開催されます!
『和樂』4・5月号でご紹介した茶箱をはじめ、茶箱のなかに仕組む茶筅筒や茶巾筒、振り出し、小服茶碗などの素敵な作品が、にぎやかに店頭に並びます。やきものだけでなく、ガラスや木工、漆の現代作家19名の作品が集結します。
この素晴らしいスモールワールドを、ぜひご自身の眼で確かめてみてください!(55)
こちらの茶箱の道具は、今回の展覧会の出品作。
こちらの茶籠はセット販売のみで、すべての茶道具が入って20,000円(+消費税)。
この展覧会に、きちんと使える道具がたくさん並ぶのは、大学時代から裏千家直門で茶道を学び、現在もお茶を続けている裕子さんの助言があるからかもしれない。茶道具の製作経験の少ない作家たちに「少しだけ直したら、もっと使いやすくなりますね」とアドバイスをすることで、作品がブラッシュアップされているのだ。
「うつわや あ花音」の公式サイトはこちら。
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