買い物かごを手に、エプロン姿で近所の商店へ夕食の買い出しに――。今ではあまり見かけなくなった〝サザエさん的スタイル〞の重要アイテムだった買い物かご、「今使うならこれだ !」とピンときたのが、岡山県倉敷市の生産者、「須浪亨(すなみとおる)商店」の「いかご」でした。
手に提げても腕に掛けてもバランスがよく、もちろん外出や仕事にも使える、い草(ぐさ)で編んだ軽やかな、かごバッグ。和樂オリジナル仕様の特別生産品を、数量限定で販売します!
倉敷に残る唯一の畑とつくり手物語
倉敷は栽培から商品の生産まで、かつては〝い草王国〟でした。クラフト王国ともいえる岡山県の手仕事もののひとつが、い草製品。い草の一大産地だった倉敷で、その伝統を受け継ぐふたりの守り手を取材しました。
岡山でのい草の栽培や製品づくりの歴史は仲哀(ちゅうあい)天皇・神功(じんぐう)皇后の御代(みよ)、紀元200年代にまで遡(さかのぼ)ります。備中の国(びっちゅうのくに)、現在の倉敷市のあたりに宿をとった神功皇后は、あたりに生えている美しいい草を編んでござをつくるよう言われたとか。ござは「御座」とも書き、貴人(きじん)が 座るところをさす言葉です。また、平安時代には寝殿造り住居の普及とともに、畳は人々 の暮らしに欠かせないものになりました。
い草の茎はスポンジのような繊維で構成されているため、湿度調整機能が備わっています。湿気の多い時季は空気中の湿度を吸収し 、乾燥していれば吐き出す。製品になったあとも呼吸するい草は、日本の気候風土に適した素材なのです。また、あのすがすがしい香りにはフィトンチッドなどの成分が含まれているため、リラックスや集中力向上に効果があるとされています。畳敷きの和室に入ると落ち着くのは、科学的な根拠もあるようです。
そんない草を住宅街の一角で栽培し、刈り取って選別、染色して織り上げて販売しているのが、明治30(1897)年創業の「倉敷いぐさ 今吉(いまよし)商店」の5代目、今吉俊文(としふみ)さんです。
「畳やござのひんやりした感触って気持ちいいですよね。肌に触れるものだから安全な材料でつくられるべきだし、グラスファイバーなどの代替品では本来の役割が果たせません」と言います。
今回の商品「おつかい・いかご」の製作は、明治19(1886)年からござを製造する「須浪亨商店」5代目によるもの。その須浪隆貴(りゅうき)さんは、倉敷で栽培されている今吉さんのい草ではなく、あえて熊本産のい草を使用しています。それはいったいなぜなのか? そこにも、倉敷でい草文化が大切に受け継がれてきた物語がありました。
闇かご、買い物かご、そして「いかご」
い草製品を特産品のひとつとしてきた倉敷で、祖母の仕事を受け継いだ須浪隆貴さん。誌上通販する「おつかい・いかご」の原点を探りました。
農閑期の小遣い稼ぎだったという、い草を材料としたかごづくりを祖母から習い、「家族がちゃんと生活できる仕事に」と奮起したのが須浪隆貴さん。「ポケモン」や「ドラえもん」と、世界中の民藝品に、等しく情熱を注ぐ29歳の青年です。
その仕事は、まずい草を縒(よ)って縄にするところから。この「いかご」は、短いなど難があって、畳表(たたみおもて)やござなどの材料にはならない、い草を活用して生まれたもの。その製法と縄を生地状に織り上げる専用の織り機を祖母から受け継いだ須浪さんは、貴重な倉敷のい草を使うのではなく、あえて熊本で出る〝屑い草〞を用いるのです。
そもそも「いかご」は 、戦後の闇市での買い物に使われた「闇かご」として誕生。沖縄ではアダンの葉で、大分では竹ひごでと、全国に土地の素材で編んだ「闇かご」や「市場かご」があり、これも日本文化のひとつ。須浪さんは祖母から受け継いだ技術を用いながら、現代の生活で使いやすいデザインを「いかご」に投入しています。「その地域の風土や文化、暮らしで必要とされてきたものが好き。僕はい草の上で育ったから、い草の素晴しさを多くの人に知ってほしい。そういうものづくりをしていきたいんです」
〝今欲しいかごバッグ〟をつくりました!
須浪亨商店のい草のバッグ「いかご」と和樂の出合いは、2021年の秋。全国の手仕事ものを展示販売するイベントです。そこで、和樂の誌上通販ではおなじみの備前焼「一陽窯(いちようがま)」の木村肇(きむら はじめ)さんに紹介されたのが、「いかご」やワインボトルなどを入れる手提げ「びんかご」で出店していた須浪隆貴さん。その「いかご」を見た瞬間、「これはサイズが違えば懐かしの買い物かごだ!」と閃(ひら)めいたのです。
外出時にエコバッグを携帯するのがあたりまえになりましたが、家から買い物に出かけるのなら、コンパクトになるエコバッグでなくてもいいんじゃないか。使うのがうきうきするようなかごバッグがあれば、面倒な買い物も楽しくなるはず――。こうして、須浪さんに〝和樂特別仕様のいかご〞を依頼することになったのです。
こだわったのは、全体のフォルムとサイズ感です。上から見たらラウンド型のコロンとした姿。大きければたくさん入るけれど、買い物以外では使いづらい。A4サイズのファイルや資料が収まることも重要。ハンドルは腕に掛けやすい適度な長さがあり、かつ本体と絶妙なバランスであること。透け感のある大きな編み目と、い草ならではの気持ちよさが特徴の「いかご」。実際の重量以上に軽やかで、気軽に、おしゃれに、日々使えるはずです。
「おつかい・いかご」を数量限定で販売します!
天然のい草だけでつくられた「いかご」の特徴をチェック!
祖母がつくっていた時代からの製法や仕立てのまま、現代の感覚で商品につくりあげる須浪さんの「いかご」。天然素材ならではの仕様もお楽しみください。
1、切りっぱなしが素朴な風情!
広めのマチをとった袋仕立てにしたあと、口の外側が鎖編みのように見える処理を施しています。縄の端は糊付けなどせず、切りっぱなしのまま。過剰な手をかけないことで、素朴な風情を残しています。
2、色艶の経年変化も楽しみ!
写真右は約半年使用した通常品の「いかご」、左は今回販売する「おつかい・いかご」。まずは、少しずつ薄茶色系に変化していきます。使っていくうち洋服などとの摩擦や、手指の脂などによって艶が出ます。※右のいかごは参考商品
3、簡単な手入れで長~く使えます
使い始めはい草の繊維が落ちますが、だんだん少なくなってくるはず。雨などに濡れた場合はすぐに拭き取り、しっかり乾かしてください。通気性のいい場所で保管し、使い続けるのが一番のお手入れです。
ハンドルカバーにも注目!
和樂のためにつくられた「おつかい・いかご」ですが、フォルムやサイズのほかにもうひとつこだわった点があります。それが、ふたつのハンドルをひとつにまとめるカバーです。須浪さんが製作している「いかご」には、ハンドルにレザーを縫い留めたものや、ハンドル自体がレザー製というものもあります。しかし今回は、ハンドルカバーを付属品にして、付けても付けなくても両方楽しめるような仕様にしました。スタイリッシュな顔つきになるブラックと、ナチュラルなスキンベージュの2種類から選べます。
買い物に、お出かけに、仕事でも。さまざまなシーンで使っていただき、少しずつ色や艶が変わっていく様子もお楽しみください。
商品情報
須浪亨商店×和樂
商品番号 29208-001-01(ハンドルカバー:ブラック)
商品番号 29208-001-02(ハンドルカバー:スキンベージュ)
各:¥16,500(税込)
本体は約縦23×横33.5(上部)・31(下部)×マチ幅14㎝、約365g。
ハンドル高さ約12㎝。ハンドルカバー(着脱可)は約縦14×横
12.3㎝、約23g。本体はい草。ハンドルカバーは牛革。洗濯不可。日本製。
※記事中画像撮影:篠原宏明