琳派の絵師の中でも、最も洗練された意匠を残したのが尾形光琳です。彼が図案化した光琳波(こうりんなみ)や光琳菊(こうりんぎく)などのいわゆる光琳模様は、江戸時代の一大トレンドとなり、現在もきもの柄やテキスタイルデザイン、和菓子といった幅広い分野で用いられているほど。今回は、そんな光琳の代表作、国宝「八橋蒔絵螺鈿硯箱」の見どころをご紹介します。
工芸意匠にも注いだ熱い情熱がここに
光悦蒔絵の伝統を復活させることを願っていた光琳が、全精力を傾けてつくった硯箱。「伊勢物語」の八橋の場が、人物を登場させない留守文様という伝統的な工芸意匠によって表現されています。綿密に計算され尽くしたデザインには、さすが光琳の風格。
尾形光琳「八橋蒔絵螺鈿硯箱」一合 木製漆塗 江戸時代(18世紀)27.3×19.7×14.2㎝ 国宝 東京国立博物館蔵 Image:TNM Image Archives
燕子花の花は分厚い螺鈿で写真的に表現
名作「燕子花図屏風」で意匠化した燕子花を、屏風と同様に、リズミカルに配置しています。
橋板は鉛、杭は銀で屏風を忠実に再現
たらし込みで描いた「八橋図屏風」の橋を工芸でも採用。橋は6面のうち4面に渡っています。
燕子花の葉は、金の平蒔絵でくっきりと
工芸意匠に才を発揮した光琳らしく、黒漆とのコントラストが美しい。