「このうつわがあれば、抹茶を点てたり飲んだりするのが嬉しくなる。そんな逸品と出合えるのはどこ?」――答えは京都にありました! 人気の骨董店で見つけたかわいい茶碗や見立ての茶道具を紹介します。
京都といえば日本一の骨董パラダイス。和樂2018年4・5月号の京都特集では、「茶味なうつわを探す、骨董さんぽ」と題して人気骨董店やヴィンテージショップを訪ね、「お茶の時間が楽しくなるうつわを教えてください!(できれば初心者でも胸がキュンとなるような、かわいいうつわを…)」と取材をしてきました。
その中からいくつかの店をピックアップ。本誌特集のアナザーバージョンとしてご紹介します。まずは夷川通(えびすがわどおり)の「Umwelt(ウンベルト)」。ヴィンテージのうつわや手仕事を中心に扱う人気のセレクトショップです。たとえば私は京都出張中に「あ、1時間くらい、自由行動できるかも!」となったら、お昼を抜いてでもタクシー飛ばしてでも、この店を訪ねてしまう。うつわ好き・骨董好きとしては通わずにいられない名店です。
夷川通沿いの店「Umwelt(ウンベルト)」。店内には北欧やヨーロッパで買い付けてきた陶磁器やガラス、デッドストックのカトラリーや手織りのリネンクロスなど。奥にある畳のコーナーには日本の古いうつわや民藝の手仕事が並ぶ。デザインや工芸の古書を販売するコーナーもあり。
ヴィンテージの名品を菓子器に!
お茶のうつわを探すのに、なぜ西洋ヴィンテージの店? それは、今回の骨董取材のいちばんの目的が、「お茶が楽しくなるうつわ」を探すことだから。正式な茶道具だけでなく、海外の陶磁器やかわいいガラス器を使ってみるのもあり!ということで、店主の魚住寧子さんに「見立ての茶道具」を紹介していただきました。まずは、和菓子のうつわから。
透明な重箱みたい! ドイツのデザイン運動“バウハウス”の流れをくむ蓋付きガラスを菓子器に見立てたもの。1938年にデザインされたオリジナル。刻印入り。35,000円。
ああ、もう、かわいくて倒れそう…。春色の生菓子を並べたのは、透き通った重箱のようなガラスのうつわ。実はコレ、20世紀ドイツの工業デザインを牽引した巨匠、ウィルヘルム・ワーゲンフェルトの名作です。ワーゲンフェルトは、1919年にドイツで始まった芸術学校「バウハウス」で学び、美しく機能的なプロダクトを生み出しました。このうつわも、スタッキングできる収納容器としてつくられたもの。本来はステーショナリーを入れたり、キッチンでコーヒー豆を保存したり…それがまさか、お茶の菓子器になろうとは!
こちらは1970年代のデンマークでつくられた、ロイヤルコペンハーゲンの蓋付き容器。37,000円。北欧らしい淡いブルーに合わせたのは桜の干菓子。
「楽しく見立てる」極意とは?
「このうつわが好き、きれい、眺めていたい…と思えるものを選ぶことがいちばんです。それをどうやってお茶に使おうか、あれこれ考えるのはとても楽しいですよ。“茶道具を探さなくちゃ”と難しく考えず、“茶道具にも使えるかな”くらいの気軽さでいいのだと思います」と魚住さん。なるほど、それなら西洋のヴィンテージでも日本の古い陶磁器でも、同じように楽しめそう。さらにうつわだけでなく、茶筅など道具使いのアイディアも。
茶筅筒に見立てたのは、口に銀の覆輪がある1920年代のカットグラス。5,000円。錫のティーストレナーはオランダ製。何に使うかというと…
「ティーストレナーは、濡れた茶巾を置くのにとても便利。もちろん、点てる前に抹茶をふるうのにも使えます。それから、タイルでも板皿でもいいのですが、平らなものがひとつあると、茶杓や蓋などをちょっと置いておくのに重宝しますよ」。楽しいだけでなく、実用的なアイディアがするする出てくるのは、魚住さんが日常的にお茶を楽しんでいるから。
花生も掛け軸も見立てです
いつもは民藝のうつわや海外の古い家具が並ぶ畳の間を、茶席に見立てたところ。道具をしまっている箪笥にもヒミツあり。
今回は撮影のために、店内の畳コーナーを茶席に見立てていただいたのですが、そのしつらいにも遊び心がいっぱい。「これはオランダの古い子供用家具。おままごとの道具ですね。1回分の道具をしまうのにちょうどいいかなと思って…」と魚住さん。高さ50cmほどのオモチャのような小家具のトビラを開くと、中に茶碗や茶筅が並んでいます。つまり、これが水屋箪笥! 花生にしたのはスペインの陶器、掛け軸代わりに飾ったのはデンマークのルイジアナ美術館で開かれたオラファー・エリアソンの展覧会ポスターです。
この日の「見立ての茶席」に流れていたCDは、1970年代サンフランシスコで活躍した作曲家、ダニエル・シュミットの「In My Arms, Many Flowers」。
お茶も骨董もハードルが高いと思っていたけれど、こんなに自由でいいんですね。「Umwelt」が人気なのは、ものを買う喜びだけでなく「うつわを楽しむセンス」に触れる喜びを味わえるから。もっと気軽に楽しみたい京都の骨董店めぐり、このあとは同じく夷川通沿いにある古美術店へと向かいます。(W)
*掲載した商品は税抜き価格です。すべて1点もののため、売り切れの場合もあります。
撮影/篠原宏明