茶人が客をもてなした茶の湯の席には、数多くの道具が用いられてきました。そのうち、国宝に指定されているのは、工芸としての完成度や希少性において他に類を見ないものばかりです。今回ご紹介するのは、千利休をはじめとした茶人の眼にかない、数寄者によって受け継がれてきた茶の湯の名宝の数々。手に取ることはもちろん、目にする機会も限られている茶の湯の名宝がいかなるものか、じっくりとご覧ください。
花生、香炉、香合、茶壺…「国宝茶道具」が大集合
特に顕著なのが、天目茶碗と同じ南宋時代や元時代の中国でつくられた3点の青磁の花生です。これらは室町時代以降、中国の伝来品が好まれた時代を席巻した名品中の名品。青磁の美しさは少しも損なわれていません。また、三嶋大社に伝わる「梅蒔絵手箱」の内容品の香合や、野々村仁清作「色絵雉香炉」「色絵藤花文茶壺」は、日本でつくられた工芸の最高傑作として名高いもの。日本美の真髄です。
飛青磁花生
「飛青磁花生」国宝 元時代(14世紀)高さ27.4×口径6.6×胴径14.5㎝ 大阪市立東洋陶磁美術館(安宅コレクション)蔵
表面に鉄斑を散らし、その上から青磁釉をかけて焼成した「飛青磁(とびせいじ)」。元時代の中国・龍泉窯で盛んにつくられ、日本の茶人に特に好まれました。釉の色や鉄斑の現れ方がともに優れている本作は、江戸時代から大坂鴻池家に伝来し、後に安宅コレクションとなった稀代の名品です。
青磁下蕪花生
「青磁下蕪花生」国宝 南宋時代(13世紀)高さ23.5×口径8.9×胴径14.5×底径10.2㎝ アルカンシエール美術財団蔵
中国南宋時代の龍泉窯でつくられた、澄んだ青磁を日本では特に「砧青磁(きぬたせいじ)」と呼びますが、その最高傑作と称えられているのが本作品。長く太めの頸と丸くふくらんだ蕪形の胴は見事に均整がとれています。色鮮やかな砧青磁の中でも稀有なる品格をもつとして、多くの茶人の憧憬を集めました。
青磁鳳凰耳花生 銘 万声
「青磁鳳凰耳花生 銘 万声」国宝 南宋時代(13世紀)高さ30.8〜11.0×口径10.8×胴径14.1㎝ 和泉市久保惣記念美術館蔵
南宋時代の龍泉窯でつくられた青磁らしい、やわらかくて艶のある淡い青緑色を特徴とする花生。頸の左右に鳳凰を型抜きした耳付きのものは数多く伝来していますが、これは姿形の美しさにおいて抜群の作。三代将軍徳川家光が東福門院に持たせたと伝わる、由緒ある名宝です。
錫縁梅樹蒔絵香合
「錫縁梅樹蒔絵香合」国宝 梅蒔絵手箱の内容品 鎌倉時代(13世紀)高さ3.8×径6.4㎝ 三嶋大社蔵 写真提供/東京国立博物館
北条政子が奉納したと伝えられる、鎌倉時代の漆工芸品を代表する国宝「梅蒔絵手箱」。その内容品30数点のうちのひとつがこの香合です。漆を塗り重ね、金粉を濃く蒔きつけた沃懸地技法で仕上げられた梅の文様は、出色の美しさを誇ります。
色絵雉香炉
野々村仁清「色絵雉香炉」国宝 京焼 江戸時代(17世紀)幅48.3×奥行き12.5×高さ18.1㎝ 石川県立美術館蔵
ほぼ等身大でつくられた雉の形の香炉は、京焼の祖・野々村仁清の彫塑作品でも優品として名高いもの。色鮮やかな絵具と金彩で羽毛を彩った華麗な姿には、尾を水平に保って造形し、焼成するという高等技術が駆使されています。
色絵藤花文茶壺
野々村仁清「色絵藤花文茶壺」国宝 京焼 江戸時代(17世紀)高さ28.8×口径10.1×胴径27.3×底径10.5㎝ MOA美術館蔵
野々村仁清の作品は、卓越した轆轤技術と華麗な絵付けによる茶道具が多いですが、その両方の技法を兼ね備えているのが色絵の茶壺。特に本作は、仁清の茶壺の中でも最高傑作として有名で、当時の京風文化を象徴する作品とされています。